7話こんな勇者で大丈夫か
次の日、第二次審査の面接二日目になった。
相変わらず魔王は昨日と同様にセクシーなドレスを着せられる羽目となり、今日も支度を整える筈の侍女が鼻血を大量出血させた為、仕方なく自分で全てを準備した。
「アージダハーカよ…今日もこんな露出の激しいドレスと言うのも考え物ではないかのぅ?なんか儂…痴女に見えんか心配だわぃ」
今日も豊満なバストを惜し気もなく晒し、昨日よりも体にピッタリとしたドレスを纏った自身の姿に魔王はげんなりする。
「とてもお似合いですよ魔王様…」
微妙に胡散臭げな気もしないでもないが、「そうかのぅ…」と呟いて魔王は謁見の間へと赴いた。
今日は遅れてやって来るという、気をてらったパフォーマンスをする人物も居なかった為に、通常通り面接をする事になった―――のだが、相も変わらず本日も魔王のセクシーな装いに十数人程が鼻血を噴出して、謁見の間を退場する姿が見られた。
「魔王様…貴女様を愛しております―――」
「魔王様のペットになりたい―――」
「貴女は私の太陽です!!触れたら火傷してしまいそうな貴女が欲しい―――」
等々、魔王が面接した魔族達の言葉は至って普通すぎて、今いち魔王の心に響く物がなかった。
『あ〜〜昨日の勇者のように儂の心を掴むパフォーマンスをしてくれる者は居らぬのかのぅぅぅ…』
段々面倒くさくなってきた魔王は、面接をしつつも、昨日の勇者を思い出していた。
「お会いしたかったです…魔王様…」
昨日の事を思い出してトリップしていた魔王は、不意に手の甲に触れる生暖かい感触に現実へと引き戻された。
いつの間にか自分が座っている玉座の前に片膝をつき、左手を握る男を見る。生暖かい感触が手の甲に触れた瞬間、会場内がザワザワとしていた。
『いかんいかん…またトリップをしておったわ…てか、今もしや手の甲にキスをされたのかのぅ?』
魔王が慌てて、冷静さを装いながら「お主は?」と口を開くと、目の前の男はにっこりと笑った。
「僕はウルカーヌ=ディエ=ヘーパイストです。東の国ヘーパイストからやって参りました」
そう言うと、ウルカーヌはもう一度手の甲に唇を落とした。その瞬間先程よりも激しいざわつきが会場内に走り、目の前の男に一斉に殺意が向かっていた。
「何をするか!?」
パッと手を振り払うと魔王はキッとウルカーヌを睨んだ。魔王の様子に騒がしかった会場内が一気に静けさを纏う。
『いかんいかん…手の甲にキスされてちょっと萌えてしまったわ…こんな儂の姿を皆に見せる訳にもいかないからのぅ』
振り払った手を名残惜し気にさすると、魔王はウルカーヌの言葉を待った。
「そんな素っ気ない姿もお美しいです…魔王様」
そう言って、うっとりとするウルカーヌの笑顔に若干…若干だけ魔王が引いたのは内緒だ。
『何なんじゃこやつ…見た目は良いのに…何か近づいてはならんと頭で警報が鳴り響いておるのじゃが―――』
ウルカーヌは銀色のサラサラの髪を肩辺りで切り揃え、色素の薄い緑色の瞳は絵に描いたような美青年である。
容姿だけなら好みの部類に入るにも拘わらず、魔王の脳内は「こいつは危険」とひたすら警報を鳴らしていた。
そんな事もお構い無しにウルカーヌがお願いをしてくる。
「魔王様お願いがございます…」
「な…なんじゃ?」
「そんな顔をしたって許してなんてあげないんだからね!!って言って下さい…」
『はぁ!?何を言っておるのだこやつは!?』
ウルカーヌの言葉に魔王は混乱しながらも、仕方がないので言われた通りに答える事にした。
「そ…そんな顔をして見つめても許さないんだからね!!」
『少し間違えてしまったのぅ…』そう思った瞬間、会場内が大歓声に沸いた。
「魔王様〜〜!!」
「ツンデレ最高〜〜!!」
「私にも言ってぇ〜〜!!」
会場内から魔王コールが響き渡る。チラリと会場の端の方で待機している侍女や下女を見やると、何人かが手で鼻を押さえていた。
近衛騎士の方を見ると何故か皆一様に悶絶して、体を丸めている。
『一体どうなっておるのじゃ?何か、言われた通りに答えただけだぞ?とりあえず、ああいうノリで返した方が良さそうだったからあのノリで返したというだけなのだが…』
魔王が会場内の雰囲気にドン引きしていると、ウルカーヌがうっとりした顔のままで口を開いた。
「やはり貴女様にはツンデレが似合う…どうか僕と結婚して、思う存分詰って下さい♪」
『あぁ〜〜〜変なのに惚れられてしもうたぁぁぁぁぁぁぁ!!』
魔王は顔をひきつらせたまま、その後も面接を続ける羽目になるのだった。
『しかし、先程のウルカーヌはヘーパイストの勇者と言っておったが…あの国…大丈夫なのかのぅ…』
かの国を心配しつつも、数十人の合格者の中に何故かウルカーヌの名前を入れてしまう魔王なのであった。
『本当に謎だのぅ…』