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6話異世界からの勇者様

勇者と名乗る人物と、その一行は周りが止めるのも聞かず、ずかずか(ご一行はコソコソとだったが)と深紅の絨毯の上を歩いて行くと、魔王の玉座の前にある数段段差のある所まで歩いて行く。

そして、そこで立ち止まると「お前が魔王だな!!」と高らかに声を張り上げた。


勇者の横柄な態度に、直ぐ様側に居た近衛騎士が魔王を護るようにその前に立つ。

だが、魔王は面白いものでも見たようにニヤリと小さく笑うと近衛騎士を下がらせる。


「うむ…儂がこの魔界を統べる魔王じゃ」

「そうか!!俺は異世界から召喚された勇者如月睦月だ!!早速だが俺はお前に結婚を申し込む!!」


いきなり自分の名を名乗ると勇者は魔王に求婚した。

そのあまりの傍若無人ぶりに謁見の間に集まっていた魔族達は大層怒って騒ぎ立てる。


「あ〜五月蝿い!!!!!!」


勇者が叫ぶと、勇者の回りの床がボコッと沈み、辺り一帯に凄まじいまでの覇気を纏わせる。


「!?」

「な…?!」

「こ…これは凄まじい…?!!」


口々に集まっていた魔族達が声を上げて、その場に立ち竦んだ。皆、あまりの覇気に身動きがとれないでいるのだ。

魔族達が動けないでいる中、魔王は余裕の笑みを見せて勇者を見下ろした。ここで舐められては魔王の沽券に拘わるのだ。


「勇者睦月と言ったのぅ〜お主、なかなか良い覇気を纏っておるではないか…」


勇者から出ている覇気は蒼白く、男らしく精悍さを感じさせる物で、魔王はその覇気を一目見て気に入った。


「そういう魔王さんこそ、俺の覇気を喰らって平然としているなんて流石だな!!その辺の魔族や魔物ならこの覇気を喰らっただけでも動けなくなるんだぜ」


そう言うとチラリと会場内にいる魔族達の方を見やる。動けずにいる魔族達は、悔しそうな顔で勇者を睨み付けているしかできないでいた。


「そろそろ覇気を纏うのを止めてはもらえぬか?ここに居る者達にもそなたの力は十分に伝わっただろうからのぅ〜」


魔王の言葉に「仕方ない」と呟くと、勇者は己が纏っていた覇気を消し去った。すると、先程まで動けずにいた者達は、動けるようになると勇者に気づかれないように安堵の溜め息を漏らす。


「しかしお主…確か異世界から召喚されたと言っておったのぅ〜…儂と結婚なんぞしたら元の世界に帰られなくなるのではないか?」


魔王が最もな質問をすると、勇者は「アンタの側に居る方が楽しそうだからな!!」と、アッサリと言い放った。


『えらく潔いのぅ…これまた儂好みではないか…』


魔王が勇者の台詞に少しときめいてトリップしかけていると、後方で控えていたアージダハーカがこほんっと咳払いをする。

魔王はハッと我に返ると、ニヤリとした笑みを湛えたままで勇者を見下ろした。


『いかんいかん…ついつい素に戻ってしまう所であった…』


気を取り直して魔王は疑問に思っていた事を口にした。


「それにしても何故なにゆえ儂に結婚を申し込むのじゃ?そなたとは今日が初対面の筈じゃが…しかも勇者ならば召喚された国ではそれは素晴らしいもてなしを受けたであろうに―――」


そう。魔王の一番の疑問はこれである。勇者と言えば庶民の憧れの存在だ。国に戻れば一国の、いや大陸のスターである。わざわざ好き好んでこのような辺鄙な魔界(魔大陸)に身を置くなどする必要がない。

更に勇者と言えば、大抵が国一番と評される王女と結婚して幸せになりました―――が物語の定番だ。

魔王は面接に来る勇者全員にこの質問をする予定だった。


「まぁ…お触れでアンタの写真を見た時に、ちょっと気になったから国王に頼んで申し込んでもらったんだ。

あ〜〜あと、俺は別にこの世界の住人じゃないからな…国とか正直どうでもいいよ…しかも俺は平和な世界になったのにウッカリ召喚されちまったみたいだからな…だから好きにさせてもらってる」


成程…と魔王は思った。この青年は異世界から召喚されただけあって、あまり国と言う物に頓着がないのだ。

彼は自分の事を色眼鏡で見ない人物だ―――そう思ったら自然と目元が緩んだ。


「そう!!それ!!アンタは不敵な笑いをするよりも、そうやって自然な顔して笑ってる方が絶対可愛いよ!!」


会って間もないのに自分が造った笑顔をしていた事を見抜くその心眼。流石は勇者である。


知らず知らずの内に魔王は顔を赤く染めて勇者を見つめていたのだった。




結局魔王は、その後の面接では上の空だった為、ほとんどの魔族達の熱いアピールも耳には入って来ないでいた。

それでも何とか頑張ってアピールをした者達だけは、流石にきちんと受け答えをしたのだが―――。


結局一日目の面接での合格者は、勇者を含む十数人という結果になった。

やはり、あの勇者の後では殆んどの者が霞んでしまうのも無理の無い事で、面接に落選した者達は泣く泣く城を後にしたのだった。


面接に合格した者達は城の客間が用意され、次の審査まで好きに部屋を使う事が許されている。


勇者や合格した者達は互いが次の恋の好敵手ライバルだという事で、そうそうに自分達に宛がわれた部屋へと下がるのだった。






ちなみに勇者に同行していた仲間パーティーは勇者を送り届ける事が使命の者と、純粋に自分も履歴書を出した者がいて、その仲間はちゃっかり第二次審査に合格していたとか。




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