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5話遅れてきた勇者様

「では魔王様…こちらのドレスに召し替えてから謁見の間においで下さい」

「うむ…」


あれから一週間が経ち、魔王は侍女から今日の面接に着ていくドレスを渡され、自室でそれを見ていた。


「―――布面積が少なすぎではないかのぅ?」


渡されたドレスを見ると、魔王の漆黒の髪に合わせたように黒の光沢が美しいドレスだ。それ自体はあまり派手な色合いを好まない魔王も気に入ったのではあるが―――


試しに試着をしてみると、思いっきり胸元が開き、魔王の溢れんばかりの豊満な胸の谷間を強調し、イブニングドレスのスリットには大きく切れ込みが入り、魔王の真っ白で日焼け一つしていない太股を惜し気もなく晒し、背中はこれでもかという程に空いており、下ろした髪がなければ背中の全てを晒さんばかりの構造であった。


「まるで娼婦にでもなった気分だのぅ…」

「そんな事はございません!!とってもお美しいですわ魔王様…はぁはぁ…」


ドレスに着替えた魔王は化粧と髪を結い上げる為に呼んだ侍女にそうぼやくと、侍女は鼻を押さえながら思いっきりうっとりと答えた。


「そ…そうか?所でお主…鼻を押さえてゼーハーゼーハーしておるが大丈夫か?もし体調でも悪いのならば他の者に代わってもらうがよい…」

「とんでもございません!!これはちょっと…鼻血が―――!!!!プシュぅ」

「ぬわ!?おい!!大丈夫か!?しっかりするのじゃ!!」


鼻を押さえていた侍女は、盛大な鼻血を出血し、そのまま医療班の元へと運ばれていった。




「何じゃったのじゃ…」


あれから何名かの侍女が魔王の化粧と支度をする為に部屋へとやって来るのだが、その全ての侍女は全員鼻血を垂れ流して倒れてしまうのだった。


「皆に何があったのかのう…」


自身の振り撒く美しさとドレスの色気にヤられてしまったとは露とも思わない魔王は、仕方なく自分で化粧をする羽目になったのだった。


「魔王様…髪の毛を結われなかったのですか?」


謁見の間へ向かう途中、側近のアージダハーカにそう言われ魔王は頷いた。


「うむ…髪を結うてくれる侍女が何故か皆一様に血を流して倒れてしまってのぅ…儂には髪を巻いたりできないからそのままにしておいたのじゃ…あ!!化粧は自分でやったのじゃぞ!!どうじゃ?」


廊下で立ち止まりアージダハーカの方へと向き直るなり、魔王はドヤ顔で言い放った。


『魔法を使うという脳味噌はなかったのですね…』


心の中でアージダハーカは盛大に溜め息を吐いた。この人はいつもそうだ…。自分の事にはとんと無頓着で頭が回らない癖に、魔族や人間達の為になる事ならば頭の回転も早く、賢い…。


『まぁ貴女がそういう御方だからこそ私は貴女様の元に居るのですけれどね…』






魔王とアージダハーカは謁見の間の扉の前へと着き、扉の横で待機していた下級近衛に一瞥をすると、近衛が盛大に銅鑼を叩く。

すると、静かに両開きの扉が開き、魔王は謁見の間へと足を踏み入れるのだった。

中に入ると深紅の絨毯が敷かれている左右には第一次審査を通過した者達が食い入るように魔王を見つめていた。

中央に敷かれた深紅の絨毯の上を進んでいく度に、魔王は内心で溜め息を吐く。


『何度経験しても慣れぬよのぅ…』


毎回魔王の美しい容姿を見ようとする人物達が目を血走らせている姿に、魔王は「儂はいつか刺されるかもしれぬ(刺されても死なないが)」と思うのだ。


魔王自身も自分が他の魔族の者達に比べて容姿端麗なのは知っている。が、魔王にとってそれはどうでも良い物だった。

容姿はいつか老いて、その美しさも失われてしまう―――魔王にとって何よりも重要な物は魔力であり、他の魔族を従わせるだけの統率力であり、絶対的な力なのである。容姿など二の次だ。


勿論力だけで相手を従わせるのには限界がある。魔王は持って生まれた平和主義の為に、血を流さずに話し合いで解決する事を望んだ。

魔王に即位して最初の頃は、その為に魔族に軽んじられる事も多かったのだが、その一生懸命さと献身的な努力により八年経った今では、魔族達の信頼を勝ち取り、その容姿も相まってすっかり崇拝の対象と化していたのだ。

絨毯の左右に集まっている人物達は、そんな魔王の婿候補なのだ。これが食い入るように見つめずにいられる訳がない。


あの美しい魔王を抱き、子を産ませる権利を手に入れられるのだ。皆一様に目を血走らせているのも当然と言えば当然の事だった。


余談だが、魔王のあまりの美しく艶やかなドレス姿に、数十名は耐えられなくなり鼻血を大量に噴き出して、医療班に連れて逝かれた(直ぐに輸血を行った為に、出血死は免れたのだが…)。




「これで一日目の人数は全員かのう?」


玉座に座った魔王が会場内を見渡すと、予定よりも少なくなった人数に訝しげにアージダハーカに質問した。


「はい…数十名は自爆…という形で自滅なさいましたが…」


アージダハーカは鼻血の海と化した床を必死で拭いている下女を見やりながらそう答えた。


「ふむ…では第二次審査の面接を始める事とする!!」


魔王が美しく透き通るような声を張り上げると、会場に集まった者達からワーワーと言う歓声が響き渡った。


「ちょぉぉぉぉぉっっっっと待ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」


一人の男性の声が歓声の飛び交う会場内に、一際大きく木霊する。


「俺の事を忘れてもらっちゃぁ〜困るぜ!!」


中央の扉の前に立つ男性に会場内に居た全ての人物の視線がそこへと注がれる。


「遅れてきた勇者とは俺の事だぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

「あと…その仲間達パーティーでぇす…」


そこには、それはもう最高のドヤ顔で勇者と名乗る人物と、開いた扉の隙間からこちらを覗き込むように見ている、そのご一行様達が立っていたのだった。






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