3話人間のお婿様候補
話終えたアージダハーカが執務室から出て行ったのを確認すると、魔王は改めて履歴書に目を通した。
先程一目見て気に入った金髪にアイスブルーの瞳を持つ青年の名前はメリクリウス=ウェンティーヌと言い、世界地図上では北にあるウェンティーヌ王国の第四王子だった。
この魔界と呼ばれる魔大陸はその更に北に位置する。
この世界には四つの国と、小さな島々が集まってできた、正確には国と呼ばない連邦諸国がある。
各々の国が地域性、気候性によって独自の文明や魔法技術等を発展させて、貿易や流通等で平和を維持している。
その中でも異端なのが魔大陸だ。この地は「最果ての地」とも呼ばれ、魔族しか住まない未開の大陸なのである。
未開と言うのは人間側の話で、「一度その地に踏み入った者は生きては帰られない」から未開の地と呼ばれていた。
だが、それも数年前までで、今は少しずつではあるが人間達が行き来するようになった。それも現魔王の影響である。
魔王は争いを好まず、人間達と友好的に歩んでいきたいと願い、自ら人間達の住む国へと赴き直接王や国のトップに魔族が決して人間に害をなさないようにすると約束したのだ。
最初の頃は信じてもらえず、人間達は何度も魔大陸に勇者一行や私設の軍隊を連れてきていたのだが、それらの人々を傷一つつける事なく追い返す事が続き、魔族の侵略が無くなった事により徐々に魔王を評価するようになったのだ。
そして、今では人間と魔族の共存を夢に魔王は日夜働いているのである。
その内の一つがウェンティーヌ王国である。この国は魔大陸に一番近い位置にある国だった為に、昔から何度も魔族との争いがあった為に一番勇者を輩出していた国である。
この第四王子も元々は魔族を倒す為に勇者と奉られるようになった人物であろう。
魔王はメリクリウスの履歴書を見ながら溜め息を吐く。
本来ならば敵対する立場の者がよりにもよって、その敵対相手と結婚を希望する事になると言うのはどんな気分なのだろうか…。
魔王はまだ見ぬメリクリウスや他の勇者達に同情をしていた。
しかし最近は割と魔大陸に来る人間も増えてきており、人間と魔族が共存している姿をよく見かける。
たまに狼男に後ろから声を掛けられて、驚いた拍子に腰を抜かした―――
道で寝ていた三つ頭犬に怖じ気づいて帰れなくなった―――
蝙蝠の群れに失神した―――
等のあまりよろしくない報告も上がってきてはいるのだが―――そこは魔王である自分が、もっと魔大陸を住み良い大陸にするだけだ!!と魔王は気合いを入れ直した。
「むむむ…話がずれてしまったではないか…とりあえず魔大陸の事は後回しにして、今は履歴書を確認する事が先決じゃ…」
こうして魔王が第二次審査に合格を出した人数は約千枚程あった履歴書の中から約三百名までに減らす事に成功したのであった。
「それにしても…合格した人数の内、二十人程が人間な辺り…人間界にも触れを出しておいて良かったですよ…」
「ま…まぁのぅ…やはり食わず嫌いはいかんからのぅ〜…儂も魔族の長、人間達ともっと交友を深めねばと思ってのぅ」
明後日の方角を見ながら魔王がそう言うとアージダハーカはやれやれといった風情で口を開いた。
「魔王様…どうせ顔で決めたのでしょう―――」
『バレておる!?』
側近の言葉に魔王は疚しさのあまり背中から大量の汗が吹き出すのを感じていた。
『だって儂イケメンが好きなんじゃから仕方ないではないかぁぁぁぁぁ!!!!』
魔王は心の中で盛大に叫ぶと、そのまま執務室から脱兎のごとく走り去っていくのだった。