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I to sb.

S&S

作者: kanoon

それが私の知る世界。



[Synesthesia & Synchronicity]



先輩が音叉を鳴らす。ギターと違って、自分の耳だけでチューニングする。よく音に耳を澄ませて、ゆっくりとペグを回した。

私のバイオリンは既に調弦済だった。2弦同時に開放で弾いて再確認する。

まだ先輩は音叉を使っている。Aの音が柔らかく揺らいでいる。

音叉、いいなあ。何も使わず調弦する身としては、特に必要ないけれど。

Aの音は見ていて好きだ。薄紫とまではいかない、淡い紫がふわふわ漂って。

「はい、じゃあ課題曲頭からやります」

私は友人の隣に座って、弓を構えた。

粗っぽいざらざらとした尖った音が響く。少し心地悪い。

「3パート、音が低い!」「1パート、走ってる!」

先輩の怒号が飛び交う中、何度も何度も練習を重ねた。


「ねーねー、今日ちょっと変じゃなかった?」

「ね!なんか不協和音だった」

友達と4人で歩きながら部活の話をしていた。今日はこの面子でお泊りである。

皆のテンションは急激に上がっていく。

「3パートの低さ直らなかったもんね」

「そうだね。一人あからさまにハーフダウンだった」

私も答える。

「全弦?えっ、どうしたのその子マジ。それじゃあ文化祭ダメじゃん」

「先輩にチクっちゃえば?」

やばいって。なんてわーわー騒ぐ。

バイオリンの不協和音なんてまっぴらごめんだ。聴いてられたもんじゃない。

想像してみて欲しい。油絵具を乾く前にベタベタに置いて、黒に近い汚いこげ茶になった様を。

……ただでさえ、楽器の音は汚いのに。(勿論私たちが素人だからなのだけど)

「そういえばさ、こないだのイベントのオルガンも酷かったよねー」

「あれね!あれ曲なわけ?デタラメに叩いてるだけじゃないの?」

「ちょ、言い過ぎじゃね?」

2人はどんどん先に行きながら盛り上がっている。すると隣にいた1番の親友が首を傾げながら聞いてきた。

「何考えてるの?」

「え?」

話には加わっていたつもりだったから、彼女の言ったことがよく分からず変な声で返事をしてしまった。

「何か頭が重かったから」

そう言われてもサッパリ、という表情をしていたら彼女に笑われてしまった。

「シンクロだよ、シンクロニシティ。他人の考えてることとか体調とか、大雑把に分かっちゃうの」

シンクロニシティ……。ポツリと繰り返すと頷かれた。

「凄いね、なんかその能力」

「疲れるけどね。それに、別になくてもいいと思うし」

どんな世界が見えるんだろう。単純に凄い、いいなと思った。

平凡な人が非凡な人に向ける羨望の目、というのを初めて平凡な立場から感じた。

だけどそれは常々私が向けられている好奇の眼差しであり。

「……また重い。しかも何かちらって浮かんだんだけど」

「私のと、似てるなあって」

「ん?」

「それ、理解される?」

私がそう問いかければ、一瞬悩んでからこう答えた。

「いいや。でもキミになら言っていいかなって、直観で。まず他人には言わないよ」

「変人扱いされるか、勘違いや妄想ととられておしまい、ってかんじでしょ?」

「うん」

「私も分かるよ。共感覚あるから」

それ、と彼女はこちらを見る。

「こないだ授業でやった……?え、ホント?」

「うん」

あのとき数人「私もだ」と声が上がった。それが本当か否か分からないけれど、私は言えなくて。

自慢できるものでもない、本当に『妄想』で終わらせられてしまってきたから。

「でも何も言わなかったね」

「言っても理解してもらえない、でしょ?」

うんうん、としみじみ頷かれる。同じような立場だからこその共感。

「私の親もさ、ぜんっぜん信じてくれなくて。シンクロニシティなんて言っても"アニメの見すぎ"だよ。自分でもたまに中二病かななんて思っちゃう」

「そうだよね。私も傷をみたり音が痛いなんて言っても通じないし。説明下手はバカだからだと思われてるし」

だから、グロいドラマや手術シーンなんかは見れない。肉を切る感覚がリアルだから。でもそんなこと言えない、変人扱いなんてされたくないし。

「でもさ、こうやって身近に仲間がいるって幸せなことだよね」

「うん」


これから、自分じゃ当たり前だと思っていたことが覆されて。それで少し違うところを恨んだとしても。

こうやって理解して一緒に笑ってくれる人が一人いるだけで違う。


「2人とも、早く早く!バス停混んじゃうよ?」

前を歩いていた2人が急に振り返って、手を振る。

「うん!」

ぽん、と私の左肩が叩かれた。それが現実のものじゃないって流石に分かっているから、2人を見た。

片方の子がもう一人の肩に手を置いている。

私は誰も触れていないそこに手を少し重ねてから、隣にいる彼女に笑いかけた。

彼女は頷くと、私の手を握って走り出す。今度は本物の手の温もり。

繋がってるよ、実際に触れてはいなくても4人とも。

「もー、おそーい!」

「ごめんごめん」

触れ合ったままの左手から、何となく彼女の気持ちがわかるような気がした。


(オレンジ色の丸い優しさ)


共感覚(きょうかんかく、シナスタジア、synesthesia, synæsthesia)とは、ある刺激に対して通常の感覚だけでなく異なる種類の感覚をも生じさせる一部の人にみられる特殊な知覚現象をいう。 例えば、共感覚を持つ人には文字に色を感じたり、音に色を感じたり、形に味を感じたりする。

――Wikipediaより


第三者が対象者に触れているのを見て自分が対象者に触れているのと同じ触覚が生じたり、第三者が対象者に触れられているのを見て自分が対象者に触れられているのと同じ触覚が生じたりする共感覚は、特にミラータッチ共感覚と呼ばれる。

――Wikipediaより



これはフィクションです。実際と異なっている場合がありますが、ご了承ください。(人によって共感覚は異なります)

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