3.夜の散歩者
これはちょっとBL色が強いかも。
苦手な方は飛ばしてください。物語の後半はそうなってます。
半分以上は「ピュリファイア」の説明です。
これで少しは謎解きになるのではないかと……。
ナイトウォーカー。
それは僕らのことかも知れない。
僕らの本当の時間は「夜」にやってくる。
時間は深夜0時を少し回った頃。
それでも巨大ショッピングモール、リリアガーデンの灯りは消えていない。
まぁ。24時間営業のアミューズメントが施設の中にあるからね。
ほとんど朝方までライトはつきっぱなし。
眠ることを忘れた人は一体どこに行くのだろう……なぁーんて。哲学してみたりして。
翌日、眠い目を擦りながら、学校やら仕事に行くのがオチだろうけど。
僕はこの日も尚哉と一緒。
デートだよ。って言いたいところだけど、これは立派な〔仕事〕。
僕と尚哉はコンビを組んでいる。
大切なパートナー同士ってことになるんだ。
僕らは業界から〔浄化者〕と呼ばれてる。
業界っていうと……〔カタルシス〕という組織のこと。
この組織は世界規模の巨大組織。でもその活動は、その国々の自主性に任されてる。
例えるなら……「世界遺産」のような、「世界共通の遺産です」って言うけど、維持、管理、保護をするのはその「遺産」を保有する国。っていう感じ。もちろん、それにだって色々例外はあるけど。あくまで例えるならって感じだよ。
〔カタルシス〕に、世界を統一する〔本部〕はない。
国によっちゃ、単なる「カルト集団」扱いするところだってある。
幸いにも、そんな国にはほとんど被害はないんだろうな。
そんな僕らの敵ってのは、〔ミュトス〕と呼ばれている。
もっとわかりやすく言うなら、〔霊長意識集合体〕。
え?ますますわからない?
「人だった存在が死んで、肉体は滅んだけどその魂は成仏することなく、この現世に留まり、その「魂」が寄り集まって出来た「集合体」」
というとわかりやすい?
でも、「幽霊」とは少し違う。〔ミュトス〕に、「エクソシスト」も「陰陽師」も「悪魔祓い」も適わない。どんな宗教の言葉だって通用しない。
その〔霊長意識集合体〕である〔ミュトス〕は、数万年前。強いては十数万年前の霊長類の意識も含まれる。
そんな彼らに、仏教のお坊さんがお経を読み上げても、通用しないだろうし。
事実、通用しないんだよね。「言葉」が通じないから。
仕方ないよ。彼らを成仏……〔浄化〕出来るのは、僕らだけなんだから。
そんな〔浄化者〕たちが集まって組織をつくり、活動資金を作るためのルールをつくり、組織を維持
管理、運営してるのが〔カタルシス〕ってわけ。
〔ミュトス〕は、この現世に強い〔念〕を抱いてる。
この現世に今一度戻りたいと願ってる。
「人」だった存在に戻ろうとしている。それが〔ミュトス〕。
より集団化し力を得ると、生物の〔生体エネルギー〕を喰らい、〔人〕に戻るべくを蓄えていく。
動物も植物も関係ない。ただただ生きる存在の〔エネルギー〕を喰らい、
この地球を覆うほど巨大な〔存在〕になっていたんだ。
でも〔ミュトス〕はこの物質世界の「存在」じゃない。
巨大化した〔ミュトス〕のエネルギーは、この世界の〔現世〕と〔常夜〕のバランスを、大きく崩してしまうことになってきた。
そうなるとね、地球の自然のバランスが連鎖的に崩れはじめる。
それだけじゃない。人同士のバランスもやばいらしい。
長い間起こり続けている「戦争」も、そんな〔ミュトス〕が大量にこの〔現世〕に現れた年と一致するということだった。
戦争でなくなった人が増えた、ということもあるのか、〔ミュトス〕が関係してそうなったのか、までは僕は残念ながらわからない。そういうのは姫香が詳しいと思うけど。
そこで慌てたのが〔地球〕自身。
生きている人間たちに、お仲間だった〔ミュトス〕を成仏……〔浄化〕して、〔常夜〕に戻しなさいと言って来たわけ。
しかもこの〔ミュトス〕。お国によって出現数が、天地ほどの違いもある。
で、この日本は「天」の部類に入る。「わーい!「天」なんて!」と
喜べるわけないでしょ。「ワースト」でトップクラスを誇るんだから。
世界の〔カタルシス〕の関係者から、視察の申し入れが後を絶たないと、
綾香さんがキレてたっけ。
もう数千年は、この戦いが続いているのだそうな。
そして僕ら〔カタルシスジャパン〕がとった〔ミュトス〕への対抗策が、
この〔五式市〕ということ。
僕ら〔浄化者〕は皆、〔水晶〕を必ず持っている。
この〔水晶〕が僕らの力の〔源〕となる。
僕らの手にしている水晶は〔永久水晶〕と呼ばれてる。
外見はなんの変哲もない水晶。特別綺麗でも、決まった産地があるわけでもない。
でも必ず「水晶」なんだ。これは絶対の決まりごとらしい。
もっとも〔浄化〕の力に優れた鉱物。地球の分身。それが〔水晶〕。
〔地球〕が選んだ僕らが手にするからなのか?〔永久水晶〕が選んだからなのか?
どちらなのかは僕にはよくわからないけど。
キーホルダーやストラップのような、加工された小さいものから、数十メートルはあるような巨大な群晶と呼ばれる水晶の塊まで。
ちなみに僕は「ミニレーザークリスタル」って呼ばれてる、5~8cmぐらいの大きさがある、水晶柱の原石を12本。
尚哉は「タンジェリンクリスタル」という、水晶の原石に鉄分が付着してオレンジ色に見える10cmほどの水晶柱を1本と、それぞれ特徴の違う水晶を持っている。
姿形が違えば、それぞれの発する能力も千差万別。
まずは、この水晶をなんらかの方法で手にする。
と、なにかのきっかけでその〔浄化〕能力が覚醒する。
ほとんどは、どんなに若くても、一度覚醒した能力が成長することはない。
その時決まった〔ランク〕が、その人の能力の大きさとして一生のものとなる。
中には、〔ランクUP〕として能力がアップする人が、たまーにいたりする。
僕の知っているところでは、初菜さんがいるけどね。
世界の〔カタルシス〕が話し合いで決めたひとつが〔ランク〕制。
大きく5段階に分けられてる。
最低が〔D〕。これは〔ミュトス〕でも、一番ポピュラーで害のない〔無意識体〕
と呼ばれる……〔カタルシス〕の中で一般的な呼び名は〔不浄の者〕かな。
この存在を〔感じる〕、〔視る〕ことだけが出来る能力者のこと。
この人たちには、この〔無意識体〕を見つけてもらう役目を担ってもらう。
次が〔C〕。これは能力が大きく2つに分かれる。
ひとつが〔結界〕を張ることの出来る能力者。この人たちは数が少なくて貴重。
もうひとつが言葉通りの〔浄化者〕。〔無意識体〕を浄化出来る人。
でもこの人たちは、〔結界〕の中でしか能力が発揮できない。
〔無意識体〕は元々、〔現世〕と〔常夜〕の境を浮遊している存在にすぎないから、
その〔結界〕の中に入り込んで、〔浄化〕する必要がある。
だから、〔現世〕で能力を発揮する必要がない。
問題はその上のランク。そして〔五式市〕にいる僕らも皆、このランク以上ということになる。
〔B~S〕までのランク。
これは〔C〕ランクの人が作り出した、〔結界〕とは段違いの、本当に〔現世〕と〔常夜〕の境を作り出すレベルの能力者たち。
僕らは〔磐境〕って呼んでいる。
この中で使う能力の威力がこれまた段違い。
〔B〕ランク以上の〔浄化者〕の数は本当に希少だから、結界を作り出す人も、〔浄化〕
を専門とする人も人数は変わらない。
だから、〔結界〕を作り出す人と、〔浄化〕専門の人と、2人一組でチームを組むわけ。
そしてもうひとつ。このレベルのランクには、特殊な能力をもつ人間たちがいる。
それがランクに〔+〔プラス〕〕がつく人たち。これが僕ら。
〔ミュトス〕がもっとも狙う〔浄化者〕たち。
僕らが特殊なのは、本来〔結界〕の中でしか能力を使えない〔浄化者〕なのに、
僕らは〔現世〕、この物質世界でこの〔浄化〕の能力を使うことが出来る〔異端児〕集団。
〔B+〕、〔A+〕はこの能力者のことを言う。
最高レベルの〔S〕は+をつける必要のないほど、神がかり的な能力者のことをいうらしい。
そして〔カタルシス〕では、〔ミュトス〕という呼び名に対抗して、僕らのような
〔能力発現者〕を〔ロゴス〕と呼んでいる。
〔ミュトス〕はこの〔現世〕に戻りたいと思っているわけだから、この〔現世〕で能力の使える僕らの力は、どうしてもほしいのだそうだ。
この〔ロゴス〕が1人でもいる地域では、〔ミュトス〕の目撃数が半端なく増えてしまう。
だから普通では、この〔ロゴス〕を長期間ひとつの区域には置かず、頻繁に住む所を変えるという方法をとる。
そうしないと、〔ミュトス〕がたまりにたまって大変なことになってしまう。
〔ミュトス〕がたまると、〔無意識体〕が意思を持ち、集団化する。
これが〔現世〕に対し害をなす物となる存在。
それが〔根源体〕。一般名?は〔厄〕。この呼び方は、昔の呼び方らしいけど、〔ミュトス〕に同情する輩が出ないよう、悪いイメージを与えるという目的で使われてもいるとか。
〔根源体〕になると、〔現世〕に〔実体〕化し、関係ない人や生き物にまでなんらかの害が及び、問題が出てくる。
その性質を逆手にとったのが、この〔五式市〕ということ。
僕ら〔発現者〕を集めに集め、〔根源体〕となった〔ミュトス〕を一気に
〔浄化〕しようというのが、この都市の役割。
何年かかるかはわからないけど、数千年という途方もない〔時間〕を数十年、もしかすると数年に短縮出来るのではないか、と考えているらしい。
「……いるぞ」
「うん、わかった」
尚哉は〔結界〕を張る役目の〔浄化者〕。別名タイプ〔S〕。
そして僕は〔浄化〕を専門とする〔浄化者〕。タイプは〔C〕。
〔S〕の意味は「Sympathy」。水晶と〔共鳴〕しながら能力を発揮するタイプのこと。
〔C〕は「Control」。水晶を自身の〔支配〕下に置き、能力を発揮するタイプ。このタイプにはひとつの特徴がある。
尚哉が僕の返事を合図に、〔結界〕を発動させる。
〔結界〕というより、〔空間移動〕のようなもの。
〔現世〕と〔常夜〕の〔境〕の空間へと転移している。
この空間は薄暗く、あちこちで仄かな七色の輝きがふわりふわりと、点滅を繰り返している。
そしてここでタイプ〔C〕の特徴。
神経の高ぶりが消え、気持ちが異常に落ち着いてくる。
冷静沈着。物事に対し、全てを見通している気分になってくる。
〔支配〕系の〔浄化者〕が持つ、〔トランス状態〕。ハイになることはない。
〔浄化〕という戦いに対して、絶対的に優位にたつ精神力が宿る瞬間でもある。
-……フォォォォ-
「声」が聞こえた。
僕は神経を研ぎ澄ます。大丈夫。相手の姿は捉えてる。
尚哉の作った〔結界〕の中では、僕は無敵だ。たとえ相手が「神」でも、僕に敵うものなど,
この〔尚哉の作り出した結界内〕ではあり得ない。
そう、僕はここでは最高の「神」なのだから。
ビキビキビキと耳障りな、鉱物が擦れあう音が足元から聞こえる。
僕は両手に、水晶柱をバラリと広げた。僕の想いに反応して、水晶が仄白く輝きはじめた。
-ガァァァァァ!!!-
その声だか音だかが聞こえたときには、僕の手のひらの水晶は全てなくなっていた。
動きが遅いよ。僕の背後から襲うつもりだったんだろうけどね。
12本のうち、5本の水晶で〔盾〕をつくり、相手の攻撃を食い止めた。
刹那、残りの7本の水晶が閃光となって、地面から伸びた岩のような〔根源体〕の体を貫いていく。何度も何度も。
-……ァウ……-
いく筋もの光に貫かれた〔根源体〕は、一度だけ体を仰け反らせると、闇に同化するように消滅した。
「大丈夫かっ!?」
尚哉が僕に駆け寄る。
そのとき僕は〔トランス状態〕が解け、いつもの気弱な僕に戻っていた。
「うん、大丈夫……」
「じゃ、ないだろうっ!!」
えぇ!!?楽勝だったと思ったんだけど?詰めが甘かったのか??
尚哉の怒った声に、先ほどとはまったく別の、恐慌状態に陥った僕がいた。
えっ!!と、思ったとき、尚哉の舌が僕の首筋に触れた。
「……ふっ」
あっ。声が出ちゃうよ。
「動くな。血が出てる……」
待ってよ……。耳元に尚哉の息がかかってる。ちょっと。
尚哉には〔結界〕を張る能力の他に、その〔結果内〕なら怪我を治癒出来る
〔治癒能力〕がある。
和がその能力に長けているけど、尚哉はついでその力が高い。
ほとんどはパートナーである僕が、その恩恵を受けているんだけどね。
でも今日は……怪我の場所が。
「……ん……あ」
「もう少し……」
声が……出ちゃうよ……。なお……や。
限界と思ったとき、尚哉が離れた。
「……他にないか?」
また耳元で……。僕、耳は弱いんだって何度も言ってるのに。
「ここか」
えっ?今度は右手の小指??こんなとこ怪我したっけ?
「ふぅ……」
おかしい。だめだ……すごく感じてる。尚哉はこんな僕にお構いなく、小指を口の中に含んでる。
「……よし」
「あ……ありがと」
やっと離れた。離れちゃった?なんだろ?すごく残念な気分になってるのは?
気がつくと、もう〔結界〕は解かれてた。
「今日はもう遅い。〔根源体〕の気配もないからな。戻るぞ」
「ごめん……。今日は怪我してないつもりだったんだけど……」
「いいよ。今日は倭さん家に泊めてもらう。まだ怪我している場所がないか、見てみないとな……」
はい?尚哉??まだ怪我って?これからまたあんなこと続ける気?!
「なにぼぅっとしてるんだ?帰るぞ?希空さんも和も心配してるはずだ」
「あ、え……。そ、そだね。帰ろう!!」
尚哉は僕のこの気持ちを知ってるの?
という僕の心の叫びは、尚哉の「ほら、行くぞ!!」という声にかき消された。
この先、どうなって行くんだろう。もうわからないよ……。