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15.大切な人

  10人以上の客を迎えて、クリスマスパーティは盛り上がりを見せていた。

 俺は疲れた振りをして、バルコニーへと出ていた。

 夜風は冷たいが、俺にとっては部屋の熱気で火照った顔に、丁度いいぐらいだった。


 「尚哉」

「倭さん……」

 シャンパンを片手に、倭さんがバルコニーに出てきた。

「畑中さん……年初めには、旦那さんの両親と一緒に引っ越するってさ。

 担当のとこに、今日、連絡があったそうだ」

「……そうですか」

「声が嬉しそうだったってさ。旦那はあっちで骨を埋めるつもりで頑張ると。

 たしかに北海道は、〔ミュトス〕の出現率が日本で最低レベルだ。

 あそこなら、晶ちゃんの覚醒もないかもしれない。お前にしては考えたな……」

「さぁ。なんのことだか……」

 俺は下手な誤魔化しだとは思ったが、その話題にはついていくつもりはなかった。

「尚哉くぅーん」

 希空さんまでやってきた。少し酔っている様子だったが、この人の場合は是非息抜きが必要なので、めい一杯楽しんでほしいと思った。

「飲んでるぅ?」

「……俺、未成年です。一応……」

 と、俺が言うと

「あ、そだっけ?」と、希空さん。

「そのがたいでよく言うよ」と、すかさず倭さんが突っ込みを入れてきた。

「がたいと歳は関係ないでしょ?」

 こんな他愛のない会話が、俺には嬉しかった。

「そうだ、希空さん。俺、希空さんに頼みがあるんです」

「んー、なに?」

「いつぞやの初菜さんじゃないんですが、俺のこと「尚哉」って呼んでくれませんか?

 なんか、いつまで経っても「家族」って感じしなくて……」

「おうっ!!わかった、尚哉っ!!」

 ぱんと俺の腕を叩きながら、希空さんは嬉しそうに言った。

「んじゃ、さぁ。あたしもお願いがあるんだけど」

「はい?」

「敬語やめてよ。で、あたしのこと「お姉さん」って呼んでくれると嬉しいな。

 神楽と和は「希空」だからさ」

 俺は少しびっくりしたが、自分でも知らない間に、自然と顔が綻んでいた。

「うん、姉さん……」

 少し照れながら。俺は勢いで希空さんをそう呼んでいた。

「うんっ。合格っ!!それでいこうっ!!」

 ほんと。この人の笑顔……惹かれそうになるな。

「おい、希空さんは僕のもんだぞ」

 倭さんが俺を睨んだ。

 俺は笑顔でそれをかわしながら

「大丈夫ですよ。俺には神楽がいますから」

 と倭さんには言い、バルコニーから部屋に戻った。

 恥ずかしくて、その後の倭さんと希空……姉さんの顔は見れなかったけど。


 「尚哉ぁ、希空と倭さんとなに話してたんだよ?」

「……なんでもって。お前酔ってんのか、神楽っ!!」

「違うってぇ。大丈夫だよぉ」

 頬を赤く染め上げ、明らかに泥酔一歩手前の状態の神楽がそこにいた。

「こいつに飲ませないでくださいっ!!酒には超がつくぐらい弱いんですっ!!」

「尚哉、過保護すぎっ!!」

 みんなが俺の対応に笑ったが、本当にこいつは酒への免疫がないやつなんだって。

 神楽のやつ、完全に場の雰囲気に飲まれたな。

 俺はこのあとのことを考えると、頭が痛くなった。



                ★★★



 「頭いたい……」

 今日から冬休みでよかった……。

 二日酔いで、頭ががんがんする。

「調子乗りすぎだ」

 尚哉がしじみ汁を持って部屋に入ってきた。

「ほら……」

「飲ませて……」

 尚哉が差し出したお椀を前に、僕は余裕はないんだけど、我侭を言ったみた。

 で。尚哉がなんの抵抗もなく自分の口にしじみ汁を含んで、僕の上半身を抱き起こすと、口移しに飲ませた。

「……え、あの……僕のファーストなんだ……けど」

 ごくりと味もわからないままそれを飲み込むと、僕はそんな言葉を吐き出してた。

 自分でもすごい動揺しまくってるのがよくわかる……。

「安心しろ。お前のファーストキスなんか、もうとっくに奪ってる」

 ……ちょっとまて―――――っ!!いつだっ!!いつ奪ったっ!!?

 と、叫びたいところだったけど、頭が痛くてそれどころじゃない。

「たく。そうだ。いつかの倭さんの宿題、俺が「攻め」でいこう。

 お前に任せた日には、大変な目に合いそうだ。それに俺が「彼氏」でいいんだろ?」

 こいつ、いつからこんなに悪魔になった?本性は「S」か??

 動けない僕に、なんだこいつはっ!!

「ゆっくり休んでろ。俺は和と買い物に行って、旨いもの食ってくるから」

 サイアクっ!!本当にお前は鬼畜だっ!!

 僕の恨みをありったけ込めた視線も物ともせず、尚哉は笑顔で部屋を出て行った。

 覚えてろっ!!尚哉っ!!


  その日の夜。

 って、今日はクリスマスだよね。1日二日酔いで潰したっ!!

 昨日のイブも酔ってて、なにがなんだか覚えてないのに……。

 僕がやっと頭が痛いのが治って、部屋の外に出ると……。

「メリークリスマスっ!!」

 パン、パン、パンっ!!

 と、紙ふぶきと紙テープが舞い散る中、僕はただ呆然としていた。

「……なに?これ」

 リビングにはクリスマスケーキと、昨日ほどじゃないけど、料理がいくつも並んでいた。

「今日は酒はなしだぞ」

 と、ぼけっとしてる僕に、尚哉が笑顔で話しかけてきた。

「わかってる……もういいや……」

 これは本音。もう懲りました。

「昨日はみんなで盛り上がったから、今日は5人でパーティね」

 希空が嬉しそうに言った。

「お前が二日酔いで潰れてるから、治ったらって待ってたんだよ」

 倭さん。えっ、じゃぁ。

「ケーキは、私と希空で作ったんだよ」

 和……。あっ、まずい。涙出そう……。

「尚哉、料理まだあるから、運ぶの手伝ってもらっていい?」

「うん……姉さん」

 え。ちょっと。そこも、どう進んでるの?やばい。僕、置いてけ堀?

「まぁ、お前も治ったなら、希空さん手伝って来い」

「……はーい」

 と、倭さんの指示にしたがって、とりあえず希空と尚哉のあとを追いかけた。



 「こんなんだったら、昨日、お酒なんて飲まなければよかった……」

「後悔先に立たず。だな」

 僕の部屋。もう12時過ぎて、クリスマスパーティは終わった。

 尚哉の言葉がすごく痛い。本当にその通り。

「でも、楽しかったな」

「うん、楽しかった」

 と、僕と尚哉は顔を見合わせると、笑いあった。

「……でさ。尚哉、今日ってか、昨日か……あの」

「うん?俺が「攻め」って言ったやつか?」

「そ、そう」

「……やるか?」

 どきーんと心臓が飛び出そうになった。えっ、今?!ま、まだ、心の準備がっ!!

「嘘だよ。もう少し、俺もお前も色々準備してからな。

 第一、男同士でやるとなると、それなりに知識が必要らしい……調べておくよ」

「それって、僕らが知らなすぎるってこと?」

 色々準備って……。なんか、この情報の出所、絶対倭さんのような気がする。


 「それでさ……尚哉、いつ、僕のファーストキス奪ったの?」

 これは由々しき問題だよね。

「昨日、しじみ汁飲ませたときに」

「ちょっと待てっ!!ムードもへったくれもないじゃないかっ!!」

「そうだな。仕方ないだろ?お前が「飲ませて」なんてせがむから」

「……そうだけどさ」

「……嘘だよ。いつだろうな?俺も忘れたよ……」

 尚哉のやつっ!!絶対僕で遊んでるっ!!なに、楽しそうに笑ってるんだよっ!!

「……お前を見てると飽きないな」

 だーかーらぁ!!

 って、あれ。尚哉のやつ。なんか急に元気がないような……。

「尚哉?」

「明日。2人でファンシーランド行くか?」

「え……う、うん。って、いいの?」

「デートしよう」

 尚哉の笑顔。どこかすごく寂しそうで、僕はなんか言い返すタイミングが掴めなかった。

「これから、たくさん楽しいことしよう。なっ」

 尚哉は僕を抱きしめた。

「尚哉。どうしたんだよ?」

 それには答えなくて。僕を抱きしめる手が、痛いくらい力が込められた。

「……ずっと、そばに……。ずっと、俺がいるから……」

「尚哉?」

「俺が何度でも、お前をぎゅっとするから……」

「……」

「……好きだ、神楽。ずっと、好きだった……。俺がずっとお前を守るから……」

「僕も……僕も大好きだよ、尚哉。ずっと、一緒にいよう……」

「……ああ」

 僕の唇に、尚哉の唇が重なって……。


  「……生まれてくれて、ありがとう。神楽……」

 僕を離してすぐ。尚哉は僕の顔を見てそう言った。

 今にも泣き出しそうな顔をして、じっと僕だけを見つめて。

 僕もこみ上げる涙をこらえきれなくて。

「……会えてよかった……尚哉」

 尚哉はもう一度、僕を抱きしめた。



  新年を迎えて、僕は晶の家族が北海道に引っ越したことを知った。

 結局、僕は利恵さんに会うことは一度もなかった。

 そしてこれからも2度と会うことはないだろうと思った。

 ただ……。



  学校帰り。いつものようにリリアガーデンに向かう道。

 尚哉と2人。和は正式なアルバイトとして〔プチ・クルール〕で働き出したので

 一緒に帰る日が少なくなったのが寂しいけど、こうしてほとんど毎日、顔を出してるんだし、あんまり変わらないか。

「今日は夕飯なににするの?」

「カレーって、姉さんは言ってたな」

「なんかさ。その姉さんって……いいな」

いまさらの嫉妬なんだけどね。

「じゃ、お前もそう呼べばいいだろ?」

「……僕は希空でいいよ。親しみあるし」

「そうか。じゃぁ、いいじゃないか」

「おいっ。冷たくない?」

「しるか」

 他愛ない会話。こうして時間が過ぎていく。

 これから先もずっと続いていく大事な1歩。



  ただ、僕は利恵さんに伝えたい言葉があった。

 伝えてどうなるものでもない。

 でも、これは僕の本心として、本当のお母さんに伝えたい言葉だった。

 結局それも出来なくなったけど。


  それでもいつか、晶が……大切なだれかと結婚式をやるときにでも、僕の代わりに伝えてくれるといいな。


 「生んでくれてありがとう。お母さん」って……







                          了




ここまでお読みくださり、ありがとうございました!!

本編「ピュリファイア」となんとか同時完結となりました。

この2人のお話はこれで終わりますが、物語は続いていきます。

また別な形でお会い出来ましたら、よろしくお願いいたします!!

本当にありがとうございました!!

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