表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/18

8.告白 前日

「好きだ」

「好き……」

「愛してるよ」

「愛してます」

「I LOVE YOU~」

 変態かっ、僕はっ!!


  鏡の前で、なーに告白時の演技やってんの、僕っ!!

 ここまで自分がおかしいとは思わなかった……。


 あぁぁ。ストレスたまってる……。外に出るのが怖い……。


  まさか晶のやつ。ここまで僕に執着するなんて思ってなかった。

 2日間、校門の前で待ち伏せされるとは思わなかった。

 高等部の学校前に、小学生。こんなご時世だもの。なにがあるかわからない。

 今日はきつく言ったけど、聞いた振りして僕の顔みて、ニコニコしてたしなぁ。

 すぐに帰ったけど……。メールは一度もくれないまま。

 またお母さんのことは詳しく聞けないままだったし。

 そんで三橋もいたし。

 いっそ、この家につれてきて……ってそれはだめっ!!

 


  「神楽……鏡の前で、なにやってるの?」

 うっわぁっ!!希空に見られたっ!!


  リビングでコーヒー飲みながら、希空と色々話してみた。

 「晶ちゃんかぁ。尚哉くんからそれとなく聞いてたけど。

 たしかにここで預かるというのは、最終手段ってことにしておいた方がいいかもね」

「う……ん。昨日から三橋のやつもおかしいっていうのに……」

「もしかして……少し勝気そうな顔をした女の子のこと?」

 えっ……希空が言ってるのって。

「うん。短い髪の……」と僕がここまで言いかける。

「店に何度か来た事ある子だと思ったけど。昨日と今日も見かけたから……もしかしてって思ったんだ。あの娘が「三橋さん」ね」

 サーイーアークぅ。三橋が〔プチ・クルール〕を知ってるぅ。

「と、言うことは、三橋さんは神楽のこと大好きってことかぁ」

「……待ってよっ!!それはないっ!!」

「でも、尚哉くんのこと好きというより、神楽のことを好きだってということだと、この行動の辻褄が合うよ」

 あー。希空が探偵のようになってる。それも暴いて欲しくない事件を暴いてる感じ。

「……うわぁ。たまんねぇ。和にもそんなこと言われたし」

「人気者だね、と言いたいとこだけど。

 あんまりしつこくするのも、されるのも、お互い、いい結果にはならないだろうから。

 お店の方に来たら、あたしが何とか言っとくから。

 神楽は少し、尚哉くんと行動してた方がいいと思うよ」

「あんまり希空に迷惑かけたくないな。尚哉も姫香のことがあるし」

 僕が顔をしかめると、希空はリビングのテーブルを隔てて、僕と反対側に座っていた椅子から立ち上がって、僕の頭に手をのせた。

「家族なんだもん。迷惑なんていっぱいかけてほしいな……」

 だから。僕が泣くって、希空。

「一度言おうと思ってたんだけどさ。そんなこと言っていると、僕は希空を異性として好きになっちゃうでしょ?たださえ、希空のこと理想の女性って思ってるのに……」

 きょとんとした表情で僕を見る希空。僕のこと、スルーしてたって顔だよね。

 たしかにこんな童顔男から言われたくないだろうけど。

「……うれしいなぁ」

 希空の笑顔で、みるみる僕の顔が真っ赤に茹で上がっていく。

「でもね……」

 あ。ここまで盛り上げて、オチってやつっすか。

「神楽は尚哉くんとあたしを比べて、どちらが好きなの?」

 そうきたか。やばい、なにも考えられない。僕は完全に、フリーズした。

 どっちって、そんなの……。

「さっき鏡の前で練習してた告白の相手。誰かな?」

 きゃぁぁぁぁぁっ!!!完全に見られてたぁぁぁっ!!!

「でも、少しでも迷ってくれたのなら、あたしは感激だなぁ」

 僕はその言葉を聞いて、今度、「仮想希空」で鏡の前で練習しようかと本気で考えた。

 かなりの浮気者かもしれないな、僕。


  「神楽。24日忘れないでね」

 例のクリスマスパーティーのことを、希空は僕に確認してきた。

 おととい和がみんなを呼んでやりたいと言い出したやつ。

 和にしては、そんなこと言い出すのはすごい進歩。

 ここでみんなで暮らしだしてから、とってもいい感じでまとまってきている。

「忘れるわけないでしょ!楽しみにしてるんだから!」

「うんっ!!呼びたい人、もし前もってわかるなら教えて。料理頑張るから」

「またぁ。みんなでつくろうよ!!和も楽しみにしてるから」

 ささやかな楽しみ。でも、今の僕にとって、こんなに楽しみなことはないよ。

 頑張ろうね、希空。そのとき、僕は尚哉ともっと仲良くなっていたいな。


  希空と話したお陰で、少し気晴らしが出来た。

 希空ってほんと。こういうのうまいよなぁ。店長っていうのもわかる気がする。

 でも、きっとすごくストレスもたまるんだよね。

 こんなことで、大騒ぎしている僕が、ほんと希空に申し訳ない。

 

  僕の部屋。

 尚哉が来る前に、ここでパソコンを開く。

 僕ら付きの諜報部のメンバーに、「畑中晶」の調査について頼んでおいた件。

 僕との関係を明かさなければ、調査報告はまともに返ってくるはず。

 もし、綾香さんにでも見つかると、少々厄介になるかもしれないけど。


  メールが届いていた。

「畑中晶についての調査結果」というタイトル。

 そのメールを開いて、僕はじっと見つめた。


「父   畑中 保 40  職業 飲食店「ラーメン 栄えや」等オーナー

 母   畑中 利恵 36 職業 無職 専業主婦  旧姓 辻 利恵

兄弟なし。

「先天性白皮症」の病気あり。

そのため、生まれつき弱視あり。左右とも0.03。

それは、母親 利恵の遺伝子異常による発病と考えられる。


父親 保の両親は健在。ともに、埼玉県八尾市在住。

母親 利恵の両親は、10歳のとき離婚。母親 時恵が引き取る。

          3年前に母 時恵 死去。享年68。死因 心筋梗塞

夫婦仲は良好。 晶に対する利恵の反応は、利恵の母親、時恵からの虐待に起因するものと思われる節がある。今だその影響があり、数年前より精神科への通院歴がある」



  僕はメールを読み終えると、なんの感情も沸いてこなかった。

 読む前は、本当は少し怖かった。

 でも……なにも感じなかった。「そうだったんだ」というだけで。

 そう。あのおばあちゃん、亡くなっていたんだ。

 まさか晶にも、ひどいこと言ってなかっただろうか?

 でも、今度のお父さんは優しそうだものね。

 利恵さん……精神科へ通っていたこともあるんだ。

 亡くなった人のこと、ひどく言うのはいけないけど。あのおばあちゃんじゃね。

  

  そんなことだけ考えてた。

 ため息も出ない。僕はノートパソコンをぱたりと閉じた。


  でも、たった一つ思い出したことがある。

 僕の昔の名前。利恵さんの旧姓で思い出した。本当にこれは今の今まで忘れてた。

 僕の昔の名前。「辻瑛つじあきら」だったと言うことが。

 どんなつもりで、利恵さんは「晶」を見ているのだろう?

 すごく知りたかったけれど。それは今の僕には関係のないことでもあった。

 今の僕は「紫桃神楽」。それ以上はなにも関係ないことだから……。

 ただ……少し疲れた。それが僕が感じた唯一の感想だったかもしれない。


  部屋を見回す。

 いつもなら、なにも感じなかったのに。

 今日は、妙に部屋が広く感じた。ここのところ、この部屋は僕と尚哉の2人で使っているから。

 まだ尚哉は戻らない。姫香の護衛だものね。仕方が無いよ。

 僕もそうなのに。いつからか、和のお兄さん代わりになってた。

 あんまり姫香の護衛役って、ここ何年かまともに言えないようになってるな。

 尚哉はきっちりその任務を果たしてるのに。

 

  会いたいな。こういうときだけ、尚哉を求めてる……。

 僕から尚哉に「好きだ」って言おうって、昨日決めたのに。

 だって、尚哉はなにも言ってくれないから。


  晶や三橋を見て思ってたんだ。

 好意を持っても、相手からなにも返事がないのは、本当に辛いことだって。

 だから。好きになって欲しいから、自分をアピールするんだよね。

 晶も三橋もすごいよ。嫌われることなんて、全然怖がっていない。

 まっすぐに、僕に向かってきてくれる。本当は三橋の気持ちを知らないわけじゃなかった。

 でも、怖かった。この距離が僕には丁度よかったから。それを縮めてしまうことが。

  

  尚哉は……もっと、もっと怖かった。

 だから勝手に僕から離れた。つもりだったんだけど。

 僕もいい加減、勇気を持たないといけない。

 このままじゃいけないんだって思った。

 だから言おうって。尚哉に嫌われてもいいや。いや。良くは無いけど。

 でも、こんな関係をいつまで続けても仕方が無い。

 強くなれ、強くなれ、僕。紫桃神楽。がんばれっ!!


  なにがあっても、尚哉だけにはこの気持ちを伝えるんだ。

 後のことは、後に考えればいいだけだから……。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ