一つになります
手慰み、第数弾でございます。
長らく投稿しておりませんでしたが、ようやく話を作れる環境が戻りました。
またお付き合いいただければ、幸いであります。
鬱蒼とした森を越え、ようやく着いた。
勇者一行が見上げるのは、禍々しい雰囲気の居城だ。
宿敵の魔王の棲家だった。
「やっとだな」
「ああ」
長かった。
勇者は、今までの旅を振り返る。
魔王に合い見えるために、経験を積んできた日々。
辛いことの方が多かったが、時々与えられた安らぎが癒しをもたらし、気力を奮い立たせてくれた。
魔王を消滅させた後の平和のため、勇者はここまで来た。
「じゃあ、行ってくる」
振り返って告げた勇者は、不安気な仲間たちに笑いかけた。
「勇者。生きて出てこい」
「勿論だ。戻ったら、いい伴侶を、紹介してくれるんだろ?」
賢者の言葉に頷き、まだ不安気な魔法使いを見た。
「大丈夫だ。どうやって魔王を消滅させるのかは、直接顔を合わせれば分かると、古い文献にもあるそうだ。その通りにすれば、きっとすぐに済む」
「なら、良いが……村で待つあいつを、悲しませるなよ?」
真剣な言葉を背に、勇者は一人、魔王城に入って行った。
ここからだと、勇者は腹をくくった。
相手の魔王は、勇者である自分とは相反する存在だと、文献を読むまでもなく知っている。
勇者には、今の人生を一度終えた記憶がある。
魔王を消した後、世界を牛耳ったはいいが、その世界を憂いた者たちに襲撃されて死んだ記憶が。
その襲撃者の中に、外で待つ魔法使いと賢者がいて、遅まきながら恨まれていたことも知った。
だから、死後すぐに生き返り、勇者として魔王と相まみえる前に巻き戻ったと知った時、心に誓ったのだ。
今度こそは、彼らの信頼を、確固たるものにしつつも、世界を収めていこうと。
幸い、巻き戻ったのは今から数か月前で、魔王が同じような条件で巻き戻っていたとしても、対策しようがない。
その時で勇者はすでに、魔王より優位な条件を満たしていたのだ。
その事実を、賢者が神殿の文献で知ったとしても、どうすることもできないはずだ。
自信満々に先を進む勇者は、過去に魔王が待っていた広間の扉を、威勢よく開け放った。
広間の奥で、立派な背もたれ椅子から立ち上がったのは、勇者より一回り小さい人影だ。
ああ、何度見ても、萎える。
いや、女好きの男ならば、奮いつきたくなるほど妖艶で、美しい女なのだろうが、勇者は女に興味がない。
前の人生で目を合わせた瞬間、心と裏腹に、前に立つ女に襲い掛かったときは、気が狂いそうになったものだ。
相反する存在だった魔王のほうも、狂ったように襲い掛かる男に恐怖を覚え、悲鳴を上げて精いっぱいの拒否行動をしたが、心とは裏腹に体が反応し、勇者とは違って色事を全く経験していなかったらしい魔王は、完全に負けた。
勇者と魔王は、相反する存在。
それは、光と影、裏と表を意味する。
片方が真面目ならば、片方は真逆。
片方が色欲魔ならば、片方は甲斐性なし。
相まみえた相反した存在の彼らは、一つになってどちらかを吸収し、最強に生まれ変わって世界を収めると言われていた。
完全に体を重ねあって、先に絶頂に達した方が、消滅する。
今回も、やり直す必要がないほどにその未来を進んでいた。
と、勇者は思っていた。
目を合わせた瞬間、魔王にとびかかった勇者は、再び気が狂いそうになりながらも、その体の欲求に流された。
魔王の方も恐怖に顔をゆがめながらも、男の激しい行為に力を抜いた。
と思ったら、勇者の力が一気に消えた。
「……?」
同時に、魔王に力が宿り、男の体が魔王の体の下に組み敷かれる。
混乱した勇者が目を上げると、そこにはたくましい体躯の男がいた。
魔王の面影を残してはいたが、男としての妖艶さが滲んでいて、勇者の好みドンピシャだ。
驚く勇者を見下ろしながら、魔王も驚愕とともに勇者を見下ろしていた。
そっと勇者の体に触れると、その体は敏感に反応した。
「っ? はっ? な、何でっ?」
体を跳ね上げてから己の反応の敏感さに気づき、勇者は自分の体を見て、さらに驚愕した。
魔王が変わったのと同じく、勇者も変わっていた。
自分を組み敷く男の表情を見るに、ドンピシャの妖艶な女に。
「……これはいい。何度文献を読んでも、経験が全くない私では、お前に勝つすべを見いだせなかったが、これならば、双方合意で楽しめそうだな」
妖艶な男が、蕩けるように笑いながら、そっと勇者の腰を抱いた。
「っ、な、何をっ」
「心配するな。女の体には、慣れてるんだ。すぐに気持ちよくしてやる。さあ、力を抜いて……」
「あ、ああっ」
耳元でささやかれ、勇者はうっとりと力を抜いた。
この後、めくるめく夜を過ごし、幾度目かの絶頂を迎えたのちに、魔王と一つになったが、勇者はもう悔いはなかった。
……。
魔王城の外で待機していた賢者が、そっと溜息を吐いた。
魔法使いも、安堵で空を仰ぐ。
どちらも、無言だった。
人類の危機が、ここで解消された。
それをしっかりと、噛みしめる時間が欲しかったのだ。
「……魔王でも、子孫を残せるんだよな?」
しばらくして、魔法使いが問いかけ、賢者は静かにうなずいた。
「ああ。唯一神が残した文献には、そう記してあった」
「なら、あいつも、幸せになれるな」
しんみりとした呟きには、返事はない。
仕方がないか、と魔法使いは思う。
前の人生で、魔王を吸収した勇者は、世界を牛耳った後、ハーレムを作るために、人狩りを強行したのだ。
自分好みの男を率先して。
危うくその毒牙にかかりそうになった、賢者と魔法使いは逃亡生活をしながら、勇者を暗殺する力を身に着けたのだった。
今回は、魔王が勝利するように手を加えたが、それだって付け焼刃だ。
何せ、二人が巻き戻ったと気づいたのは、勇者との顔合わせの時だったのだ。
魔法使いは勇者と幼馴染で、もともと面識があったのに、賢者と顔合わせするまで、前の同じ人生を繰り返している事実を、それまで思い出せなかった。
思い出した途端、慌てたが後の祭りで、同じように思い出した賢者とともに焦った。
何故焦ったのか。
それは、勇者本人も、前の人生の記憶を持っているのに気付いたせいだ。
本人は隠しているつもりだったのだろうが、過去を知る二人には明白な違いだった。
前の人生では、友情としての好意として受け取れる程度の、軽い接触しかしていなかったのに、今回の勇者は露骨に好意を仄めかす。
何度、身の危険を感じたか分からないほどだ。
魔王城にたどり着くまでに、二人は心に決めていた。
もし、勇者が勝って出てきたら、直ぐにやっちまおう。
魔王城の端にでも埋めて、ほとぼりが冷めたころに王都に戻り、魔王とともに消滅したと報告しようと。
そんな覚悟とともに勇者の背を見送った二人に、真面目な声がかかった。
振り返ると、見知らぬ真面目そうな男が立っていた。
長身で黒髪の、目立たぬ容姿のその男は、身構える二人にあるものを差し出した。
「……? これは?」
「立場を逆転させる、術のようなものだ。お前さんたちなら、どちらでも使える魔法のようなものだ。有意義に使って、もう少しこの話を面白いものにしてやってくれ」
そう、これは本当に、付け焼刃、だった。
正体の知れない男に与えられた術を使い、二人は勇者と魔王それぞれに、性別反転の魔術をかけた。
この時ですでに、前の人生での勇者暗殺時の力を覚醒していた二人は、魔王が勇者を圧倒し、勝利したことも気配で察していた。
これで、前の人生での憂いは消えたが、これで安心はできない。
前の人生では勘違いしていたから、手放しで喜んでしまったが、勇者は人間好きだったのではない。
男を好む男だっただけだ。
その相反した存在の魔王は女だったが、ただの人間嫌いではなく、単に女が好きなだけである可能性がある。
そうなると、子孫繁栄の憂いは今回の術で解消される、はずだ。
多分。
術に期限がなければ。
期限がなくとも、魔王本人が、本来の姿がいいと戻らなければ。
今回の話の経緯
養い子、ハーレムの話を書く→暇になった養い親の白兎、その話を読んで鳥肌→養い子、兎をなだめて話の中へ行き、登場人物に干渉→こっちのハーレムなら、満足だろう?




