第4話 魔王との対面
清洲城の天守を見上げながら、望月梓は静かに息を吐いた。
戦国時代。
その中心人物の一人。
織田信長。
歴史上、最も革新的な戦国大名。
そして後世では――
**第六天魔王。**
「本当に会うことになるとは……」
梓は苦笑した。
隣を歩く男が笑う。
「怖いか?」
木下藤吉郎。
まだ足軽上がりの若者。
だが後の豊臣秀吉。
戦国最大の出世男である。
「殿は変わり者だが、気に入られれば悪いようにはされぬ」
藤吉郎は軽い口調で言った。
だが梓は知っている。
織田信長。
気に入らなければ、容赦なく首を落とす男だ。
つまり。
「プレゼンは一度きり」
証券会社の営業より遥かにシビアである。
二人は城の門をくぐった。
城内では武士たちが忙しそうに動いている。
足軽。
家臣。
武将。
戦国の空気が満ちていた。
藤吉郎は案内しながら言う。
「殿は今、評定の最中だ」
「少し待つことになる」
梓は頷いた。
しばらくすると、一人の武将が現れる。
鋭い目。
厳しい顔。
「藤吉郎」
「その女は何者だ」
藤吉郎は笑う。
「面白い女です」
「殿にぜひ会わせたい」
武将は眉をひそめた。
「女だぞ」
「それが?」
藤吉郎は言う。
「米を空から出します」
沈黙。
武将は完全に怪訝な顔になった。
「何を言っている」
藤吉郎は肩をすくめる。
「本当です」
武将はしばらく考えた。
そして言った。
「……殿に聞いてみる」
彼は奥へと消えた。
数分後。
戻ってくる。
「来い」
短い言葉。
梓の鼓動が早くなる。
二人は城の奥へ進む。
障子の前で止まる。
武将が声を上げた。
「殿」
「例の女を連れて参りました」
中から声がする。
「入れ」
低い。
だがよく通る声。
武将が障子を開けた。
その瞬間。
梓は一人の男を見た。
黒い着物。
鋭い目。
若い。
だが圧倒的な存在感。
この男が。
織田信長。
信長は梓を見て言った。
「女か」
声は静かだ。
だが空気が重い。
梓は深く頭を下げた。
「望月梓と申します」
信長は頬杖をつきながら言う。
「藤吉郎が申しておった」
「米を空から出す女だと」
梓は答える。
「正確には空ではありません」
「収納しているだけです」
信長の目が少し細くなる。
「ほう」
「やってみよ」
周囲の家臣たちがざわつく。
梓は静かに言った。
「アイテムボックス」
光。
次の瞬間。
部屋の中央に米俵が現れた。
どさり。
さらに。
どさり。
十俵。
二十俵。
次々と現れる。
家臣たちが驚く。
「なっ!」
「妖術か!」
「化け物!」
だが。
信長は笑った。
「面白い」
彼は立ち上がる。
米俵を触る。
本物。
完全な米だ。
「どういう仕掛けだ」
梓は答える。
「術ではありません」
「技術です」
信長の目が鋭くなる。
「技術?」
梓は言った。
「殿」
「天下を取るつもりはありますか」
部屋の空気が凍った。
家臣が怒鳴る。
「無礼者!」
だが信長は手を上げた。
「続けよ」
梓は言う。
「戦は金です」
「兵を動かすのも」
「鉄砲を買うのも」
「全て金」
信長は頷いた。
「当然だ」
梓は続ける。
「ですが」
「戦国の国は皆、貧しい」
「理由は簡単です」
「経済が弱い」
信長の目が光る。
梓は言った。
「もし」
「国の収入が十倍になったら?」
家臣たちがざわめく。
信長は静かに聞いている。
梓は続けた。
「農業改革」
「物流整備」
「商人資本」
「金融」
「信用取引」
「株式会社」
家臣たちは何を言っているのか理解できない。
だが。
信長だけは違った。
彼は笑った。
「面白い」
梓は言う。
「戦国日本を」
「巨大な商業国家にする」
信長は聞く。
「その結果は?」
梓は答える。
「世界最強の国になります」
沈黙。
数秒。
そして。
信長は大きく笑った。
「はははは!」
家臣たちは驚いた。
信長がこんなに笑うのは珍しい。
信長は言った。
「女」
「おぬし」
「気に入った」
そして宣言する。
「望月梓」
「今日より織田家に仕えよ」
歴史が動いた。
戦国最大の革命家。
織田信長。
そして。
未来から来た経済の天才。
望月梓。
二人の出会いが。
やがて日本を。
いや――
世界を変えることになる。




