表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界を変える女  作者: 此花サギリ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/39

第39話 入洛の時

 秋の朝、近江(おうみ)の空には薄い雲が流れていた。


 観音寺城(かんのんじじょう)を出た織田軍(おだぐん)は、西へ向かって進軍を続けている。旗印は風に揺れ、槍の穂先は朝日を受けて鈍く光っていた。


 軍勢の数はおよそ二万。


 その先頭を進むのは、黒馬に乗った一人の武将。


 織田信長(おだのぶなが)


 彼の視線は、遥か西――京都(きょうと)の方向へ向けられている。


 その後ろには柴田勝家(しばたかついえ)丹羽長秀(にわながひで)滝川一益(たきがわかずます)木下秀吉(きのしたひでよし)らの重臣たちが続いていた。


 秀吉(ひでよし)が馬を寄せる。


「殿」


 信長(のぶなが)は視線を前に向けたまま答える。


「何だ」


「このまま進めば、数日で山城(やましろ)に入ります」


 山城(やましろ)の国。


 つまり京都(きょうと)のある地域である。


 信長(のぶなが)は短く言った。


「進め」


 その言葉だけで軍は動いた。


 進軍は速かった。


 各地の豪族や小城の主たちは、織田軍(おだぐん)の勢いを恐れて次々と降伏していったのである。


 戦はほとんど起きない。


 兵の士気は高く、勢いは増すばかりだった。


 数日後。


 織田軍(おだぐん)はついに山城(やましろ)の国境へ到達した。


 そこには一つの関所がある。


 逢坂関(おうさかのせき)


 古くから都の入口とされてきた場所だ。


 ここを越えれば、いよいよ京都(きょうと)である。


 兵たちはざわめいていた。


「都だ……」


「ついに来たのか」


 戦国の世で、京都(きょうと)は特別な意味を持つ。


 天皇の都。


 そして将軍の都。


 その地に軍を進めるということは、天下に名を轟かせることでもあった。


 信長(のぶなが)は関所の前で馬を止めた。


 静かに都の方角を見る。


 遠くに山並みが見え、その向こうに都がある。


 秀吉(ひでよし)が言った。


「殿」


「ついにでございますな」


 信長(のぶなが)は小さく頷いた。


「そうだ」


 そして言う。


「都へ入る」


 織田軍(おだぐん)逢坂関(おうさかのせき)を越えた。


 その知らせは、すぐに京都(きょうと)へ届いた。


 都では大騒ぎになっていた。


 町人たちは家に籠もり、商人たちは店を閉める。


 寺院では僧が祈りを捧げていた。


 武士たちは武具を整えている。


 その中心にいるのが――


 三好三人衆(みよしさんにんしゅう)


 三好長逸(みよしながやす)

 三好政康(みよしまさやす)

 岩成友通(いわなりともみち)


 彼らは都の政を握る実力者であった。


 三好長逸(みよしながやす)が言う。


「本当に来たか」


 三好政康(みよしまさやす)が険しい顔をする。


「美濃を取った男だ」


「油断はできぬ」


 しかし岩成友通(いわなりともみち)は不安そうに言った。


「兵の数が違う」


「二万だぞ」


 都にいる兵はそれほど多くない。


 しかも各地の武士たちの多くは、すでに織田信長(おだのぶなが)の勢いを恐れている。


 重苦しい空気が広がった。


 そしてその夜。


 密かに話し合いが行われた。


「戦えば負ける」


「都を捨てるしかない」


 こうして。


 三好三人衆(みよしさんにんしゅう)京都(きょうと)から退くことを決めたのである。


 翌朝。


 織田軍(おだぐん)京都(きょうと)の郊外に到着した。


 町は静まり返っている。


 城門は閉ざされていたが、戦う気配はなかった。


 やがて城門が開く。


 白旗が掲げられた。


 都は降伏したのである。


 兵たちはどよめいた。


「戦わずして……」


「都が開いた!」


 信長(のぶなが)はゆっくりと馬を進めた。


 京都(きょうと)の町へ入る。


 長い歴史を持つ都。


 古い寺院。


 貴族の屋敷。


 細い路地。


 町人たちは道の脇で頭を下げていた。


 誰も声を上げない。


 ただ静かに、新しい支配者を見ていた。


 やがて一行は大きな屋敷の前で止まった。


 そこに現れたのは一人の男。


 足利義昭(あしかがよしあき)


 将軍家の血を引く人物である。


 義昭(よしあき)は深く頭を下げた。


「よくぞ参られた」


 信長(のぶなが)は馬を降りた。


 二人の視線が交わる。


 義昭(よしあき)は言う。


「これより私は将軍として幕府を再興する」


「どうか力を貸してほしい」


 信長(のぶなが)は静かに答えた。


「よかろう」


 それは短い言葉だった。


 しかし。


 その瞬間。


 歴史が動いた。


 京都(きょうと)を制した織田信長(おだのぶなが)


 そして将軍となる足利義昭(あしかがよしあき)


 こうして新しい幕府が始まろうとしていた。


 だが――


 この同盟が、やがて大きな戦乱を生むことになる。


 その時、まだ誰も知らなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ