表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界を変える女  作者: 此花サギリ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/39

第38話 近江突破

 秋の空は高く澄み渡り、遠くの山々までくっきりと見えていた。

 岐阜城(ぎふじょう)の城下では、朝早くから太鼓の音が響いている。


 ドン――ドン――


 低く重いその音は、町の隅々まで広がっていった。


 出陣の合図である。


 城門の前には無数の兵が集まっていた。槍を持つ足軽、弓を背負う兵、鉄砲を担ぐ鉄砲足軽。馬に乗る武将たちも整列している。


 風に揺れる旗印。


 木瓜紋。


 それは織田家(おだけ)の象徴であった。


 やがて城門が開く。


 ギィ……と重い音を立て、巨大な門が左右へと開いた。


 そこから現れたのは一頭の黒馬。


 その馬に乗る男。


 織田信長(おだのぶなが)


 黒い陣羽織をまとい、鋭い目で前方を見つめている。


 兵たちは一斉に頭を下げた。


「殿!」


 その後ろには、柴田勝家(しばたかついえ)丹羽長秀(にわながひで)滝川一益(たきがわかずます)、そして木下秀吉(きのしたひでよし)ら重臣が並んでいる。


 信長(のぶなが)はゆっくりと馬を進めた。


「行くぞ」


 ただそれだけを言う。


 しかし、その声は不思議と兵すべてに届いた。


「おおおおお!」


 歓声が上がる。


 こうして織田軍(おだぐん)岐阜(ぎふ)を出発した。


 目的地――


 京都(きょうと)


 その道を阻むのが近江(おうみ)を支配する六角家(ろっかくけ)である。


 数日後。


 織田軍(おだぐん)近江(おうみ)の国境へ到達していた。


 広い野原に陣が張られている。


 兵の数は二万を超えていた。


 夕暮れ。


 本陣では軍議が開かれていた。


 中央に座るのは織田信長(おだのぶなが)


 その周囲に重臣たちが並ぶ。


 柴田勝家(しばたかついえ)が腕を組んで言った。


「敵は観音寺城(かんのんじじょう)に籠もっております」


 観音寺城(かんのんじじょう)


 六角義賢(ろっかくよしかた)の本城。


 山の上に築かれた巨大な城である。


 丹羽長秀(にわながひで)が地図を指差す。


「城の周囲には支城が多くございます」


「まず外を落とさねば」


 しかし。


 信長(のぶなが)は地図を見ながら言った。


「必要ない」


 家臣たちが顔を上げる。


 秀吉(ひでよし)が尋ねる。


「攻めぬので?」


 信長(のぶなが)は言う。


「敵は戦わぬ」


 静かな言葉だった。


 勝家(かついえ)が笑う。


「そんなことがあるものか」


 信長(のぶなが)はゆっくり顔を上げた。


「ある」


「恐れているからだ」


 沈黙が流れた。


 信長(のぶなが)は続ける。


「美濃を取った」


「二万の軍勢」


「勢いは止まらぬ」


「ならばどうする」


 誰も答えない。


 信長(のぶなが)は言う。


「逃げる」


 その予想は、すぐに現実となった。


 翌日。


 織田軍(おだぐん)近江(おうみ)へ進軍すると、各地の城が次々と降伏していった。


 戦いはほとんど起きない。


 兵が逃げていくのである。


 そしてついに――


 観音寺城(かんのんじじょう)


 その巨大な山城を望む丘に、織田軍(おだぐん)は到着した。


 城は高い山の上にそびえている。


 しかし。


 様子がおかしい。


 城門が開いている。


 兵の姿が少ない。


 柴田勝家(しばたかついえ)が目を細めた。


「……静かすぎる」


 斥候が戻ってくる。


「報告!」


六角義賢(ろっかくよしかた)は昨夜逃亡しました!」


 ざわめきが広がる。


 信長(のぶなが)は静かに言った。


「やはりな」


 観音寺城(かんのんじじょう)は、ほぼ無血で落城した。


 近江(おうみ)最大の勢力、六角家(ろっかくけ)は崩壊したのである。


 その夜。


 信長(のぶなが)は城の上から西を見ていた。


 夕焼けの彼方。


 その先にある都。


 京都(きょうと)


 木下秀吉(きのしたひでよし)が近づく。


「殿」


 信長(のぶなが)は振り向かない。


「見えるか」


 秀吉(ひでよし)は西の空を見た。


「……いえ」


 信長(のぶなが)は小さく笑う。


「すぐだ」


 そして言った。


「都は近い」


 その頃。


 京都(きょうと)では大きな動きが起きていた。


 三好三人衆(みよしさんにんしゅう)


 三好長逸(みよしながやす)

 三好政康(みよしまさやす)

 岩成友通(いわなりともみち)


 彼らは織田軍(おだぐん)の接近を聞き、城や屋敷の防備を急いでいた。


「二万の軍勢だと?」


「美濃を取った男だ」


「本当に来るのか……」


 都には恐怖が広がっていた。


 戦国最強と噂される男。


 織田信長(おだのぶなが)


 その軍が、ついに京都(きょうと)へ迫っている。


 そして。


 観音寺城(かんのんじじょう)を出た織田軍(おだぐん)は、西へ進んでいた。


 その先にあるのは――


 京都(きょうと)


 都を巡る大戦が、いよいよ始まろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ