第3話 清洲の商人
尾張国の朝。
村を出た望月梓は、街道をゆっくりと歩いていた。
行き先はただ一つ。
清洲城。
現在の尾張国の中心地であり、織田信長が拠点としている城下町である。
そしてもう一つ。
「商人が集まる場所」
梓は小さく笑った。
彼女の頭の中ではすでに次の計画が組み上がっていた。
資本はある。
【所持金】
18,000円
だが、それだけでは足りない。
未来の商品を本格的に購入するには、桁違いの資金が必要になる。
「資本を増やす」
「そのためには――市場」
戦国時代でも、商人は重要な存在だった。
特に城下町。
そこには米、塩、鉄、布、様々な物資が集まる。
つまり。
**経済の中心。**
しばらく歩くと、人の流れが増えてきた。
荷を担ぐ男。
牛を引く農民。
旅人。
やがて、城下町の入り口が見えてくる。
木柵に囲まれた町。
門の前では足軽たちが見張りをしている。
「通れ」
軽く調べられただけで、梓は町に入ることができた。
その瞬間。
彼女は目を見開いた。
「……すごい」
城下町。
市場。
露店が並び、人が溢れている。
米屋。
魚屋。
鍛冶屋。
布商人。
まるで巨大なマーケットだ。
梓は冷静に観察する。
商品の価格。
取引の様子。
商人たちの交渉。
数分も見れば理解できた。
「非効率」
価格は不安定。
品質管理も甘い。
そして何より。
**信用取引がない。**
現代なら当たり前の制度。
だがこの時代では、ほとんど存在しない。
つまり。
「ビジネスチャンス」
梓は市場を歩く。
すると、米屋の前で言い争いが起きていた。
「そんな値段で売れるか!」
「去年より米が少ないんだ!」
「ふざけるな!」
米の値段を巡る争い。
典型的な供給不足。
梓は近づいた。
商人の一人が彼女を見る。
「なんだ女」
「客か?」
梓は微笑んだ。
「米を売りたいんです」
商人は鼻で笑った。
「農民か?」
「違います」
「でも大量にあります」
商人は興味を持った。
「どれくらいだ」
梓は言った。
「二百キロくらい」
周囲の商人がざわついた。
「そんな量どこにある」
梓は静かに呟く。
「アイテムボックス」
光。
次の瞬間。
米俵が地面に並んだ。
十俵。
二十俵。
次々と出現する。
市場が凍り付いた。
「な……」
「術か!?」
「陰陽師か!?」
商人たちは完全に驚いていた。
梓は冷静だった。
「買いますか?」
商人の一人が慌てて近づく。
「いくらだ!」
梓は少し考えた。
市場価格はすでに見ている。
「永楽銭三百枚」
商人は驚く。
「安い!」
周囲の商人が一斉に動いた。
「俺が買う!」
「いや俺だ!」
「全部買う!」
完全な競争状態。
梓は言った。
「落ち着いてください」
「順番に売ります」
その日。
彼女は市場で米を売り切った。
結果。
永楽銭
六百枚。
梓は静かに計算する。
【売却】
米
【残高換算】
38,000円
「倍になった」
資金が一気に増える。
だがその時。
後ろから声がした。
「面白い女だ」
振り向く。
そこに立っていたのは、一人の男。
立派な着物。
鋭い目。
商人というより――
**武士。**
男は言った。
「その術」
「どこで覚えた」
梓は少し笑う。
「秘密です」
男はさらに興味を持ったようだった。
「名を聞こう」
「望月梓です」
男は頷く。
「私は木下藤吉郎」
その名前。
梓の脳が一瞬止まる。
木下藤吉郎。
後の。
**豊臣秀吉**
戦国最強の出世男。
まだ若い。
だが目は鋭い。
完全に歴史の人物だ。
藤吉郎は笑った。
「おぬし」
「殿に会ってみぬか」
「殿?」
藤吉郎は言う。
「織田信長様よ」
空気が変わる。
梓の鼓動が早くなる。
ついに。
歴史の中心人物。
戦国最大の革命家。
織田信長。
藤吉郎は続けた。
「殿は変わり者でな」
「面白い人間が好きだ」
そして笑う。
「おぬしは間違いなく気に入られる」
梓は空を見上げた。
戦国の空。
そして小さく呟く。
「歴史が動く」
彼女の目的。
それは。
天下統一。
武力ではない。
**経済による覇権。**
そして今。
運命の扉が開こうとしていた。
織田信長との邂逅が。
もうすぐそこまで迫っていた。




