表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョン嫌いの元英雄は裏方仕事に徹したい ~うっかりA級攻略者をワンパンしたら、切り抜き動画が世界中に拡散されてしまった件~  作者: 厳座励主(ごんざれす)
第1章 ダンジョン嫌いニキ、バレる

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/36

第7話 配信スタート

 紫紺色の光が弾ける。

 足裏に硬い岩の感触。

 振り返っても、そこにあるのは揺らめく光の膜だけ。

 外の山林はもう見えなくなっていた。


 ゲートをくぐれば、そこは既にダンジョンの中。

 完全な別空間に、一瞬で転移したのだ。

 何度体験しても、この切り替わりには慣れない。


「もう当たり前になっちゃってますけど、凄い技術っすよね。『ゲート』って」


 後輩の愛沢(あいざわ)が、うねる光を見上げながら言う。


「そうだなあ、技術というか魔法というか」


 俺は苔むしたゲートの柱に手を触れながら答える。


「身体欠損の起こらない、完全な時空転移だ。肉体を分子レベルで分解して再構成してるのか、それとも空間を折り畳んでいるのか……提唱された理論は山ほどあるが、どれも確証には至ってない」


 今から10年前、2026年1月18日。

 世界各地に、ダンジョンへ通じるゲートが同時発生した。

 内部は『魔力』や『魔石』といった未知の資源で溢れ、同時に『魔物』という正体不明の怪物も観測された。

 人類は魔物に対抗するために、何とか魔力を利用する術だけを覚え、原理にはほとんど触れられていないのが現状だ。


「へぇ……ふむふむ」


 愛沢のグレーの瞳が、珍しく真面目な光を帯びる。


「興味あるのか?」

「かなりあるっす。アリスの方はひと段落ついたんで、次はこれに手ぇ出そうかなーって思ってるっす」

「へえ、いいじゃないか」


 軽く返事をしたが、本気で良いと思った。

 ゲート研究は国家レベルの案件だ。

 しかし、愛沢の頭脳なら十二分に食い込んでいける。

 ただのお調子者に見えて、その頭脳は紛れもなく天才のそれなのだ。


「あ、無駄話してすいませんっす。ええと、配信の方は――」


 愛沢は端末を確認した瞬間、目を見開いた。


「わっ、まだ開始してないのに、もう3万人もいるっすよ!」

「さ、さんまん……!?」


 姫宮(ひめみや)が、青いポニーテールを揺らしながら固まる。


「マジか……俺が出るって?」


 視線を向けると、姫宮はぶんぶんと首を振る。


「い、言ってませんっ。黒野(くろの)さんが来るなんて、一言も……!」

「もしかしたらって感じで、皆スタンバってるんすよ。きっと」

「そんなにか……」

 

 人気者は辛いな、なんて気取った思考を振り払う。

 今日もここまで来るときは変装して来たし、動きづらくてしょうがない。

 ……ま、一過性のものだとは思うが。


「準備はいいっすか?」


 愛沢の問いに、姫宮は深く息を吸った。

 その胸が上下する。


「……はい。お願いしますっ」

「それじゃ、いくっすよ……サン、ニ」


 イチは言わない。

 代わりに、指でカウントを示し、最後に掌をぱっと開いた。

 配信開始だ。 


「――み、『みそらチャンネル』へようこそっ!」


 やや上ずった姫宮の声が洞窟に響く。


「今日もダンジョン攻略の様子をお届けします……が、何とですね。今日は特別ゲストにお越しいただいておりますっ」


 姫宮が手で俺を示す。

 愛沢の構えたカメラが、わずかにこちらへ向いた。


「なんと、『ダンジョン嫌いニキ』こと黒野さんです……!」

「その名前で呼ぶな!」

「あっ、す、すみませんっ」


 反射的に言った直後、強く言い過ぎたかと反省する。

 レンズの向こうに何万人もの視線があると思うと、発言しづらいな。

 俺は一瞬だけカメラを見て、すぐ逸らした。


「黒野だ。……特に言うことはない」

『いえ、マスター。私の紹介がまだです』


 耳元のデバイスから割って入ったのは、落ち着いた女性音声だ。


「そ、そうでした!」


 姫宮が慌てて言い直す。


「特別ゲストは黒野さんだけでなく、もう一名いらっしゃいます」

『視聴者の皆さま、こんにちは。私の名前はアリス。ダンジョン攻略をサポートし、マスターを危険からお守りするのが私の使命です』


 柔らかな声色。

 意図してだろうか。

 俺と会話する時より、わずかに抑揚が強められている。


「おおー、コメント欄盛り上がってるっすよー」


 愛沢が楽しげに報告する。


「『アリスちゃん可愛い』、『ダンジョン嫌いニキ、コミュ障すぎて草』とかとか」

「なっ……誰がコミュ障だよ」

「視聴者数も爆増してるっすねえ」


 愛沢はこちらに向かって、手首を示すジェスチャーをする。

 

「ん……そう言えば、腕時計みたいなやつ付けられてたな」

 

 愛沢によってセットされた、腕時計型デバイスに視線を落とす。

 そこには、配信時間と視聴者数が表示されていた。

 

 現在、5万8千人。

 と思ったら、6万2千人。

 瞬きをした間に、6万5千人。

 カウンターはまだまだ跳ね上がる。

 土曜の昼間っから、暇人の多いことだ。


「き、今日はですね、特に企画とかは無いんですけど……」


 気を取り直して、姫宮は懸命に言葉を紡ぐ。


「この黒野さんとアリスさんと、あとサポートの愛沢さんと一緒に、ダンジョン攻略をしていきたいと思います。それじゃ早速、いきましょうっ」

「おー! っす!」

「……ふん」


 しばらく3人で通路を進むと、ふいにアリスが言葉を発した。


『――前方100メートル先に魔力反応を確認。99.8%の確率でゴブリンです』

「了解」


 俺は足を止めないまま、背後の姫宮に声をかける。

 ……ついでに、視聴者への説明も兼ねて。


「今日の目的は、アリスの戦闘指示の精度確認だ。戦闘は基本、俺が担当する」

「は、はいっ! それにしても、敵が近づいてきていることも分かっちゃうんですね……凄いです」

「不意を突かれでもしたら、命に関わるからな。索敵は必須機能だ」

 

 そして通路の先、影が揺れた。

 緑がかった皮膚に、濁った黄色の目。

 粗末な棍棒を握った小柄な体躯。

 アリスの予測通り、ゴブリンだ。


「――キシャアアアアッ!」


 ゴブリンは、甲高い鳴き声とともに突進してくる。


『左斜め上から棍棒が来ます。右側へ回り込みましょう』

「右だな、よし」


 アリスの指示に従って、身体をゴブリンの右へ滑り込ませる。

 スローモーに振り下ろされた棍棒は、むなしく空を切った。


「グギャッ!?」


 攻撃を躱されたゴブリンは、ちょっとしたパニックになっている。

 絶好のチャンスだ。

 さあ来い、アリス。

 攻撃指示を――


『:【悲報】ゴブリンさん、相手が悪すぎる

 :ダンジョン嫌いニキがんばえー!

 :俺むしろアリスたんに逆らって叱られたいよハアハア』


 突如、耳元で再生される、想定外の音声。

 俺は一瞬、思考と動きをフリーズさせる。


「き、急に何だ!」

『コメント読み上げ機能です。戦闘が始まりコメント数が増加したので、一部をご紹介いたしました』

「どう考えても戦闘中にすることじゃないだろ! あと読むなら読むで内容選別しろ! 機能オフ!!」


 こんな無駄機能(もの)を付けるのは、1人しかいない。

 俺は視線で、カメラの奥の愛沢を射抜く。

 愛沢はそれに気づくと、舌を出した。

 ……あとで覚えておけ。


「はあ……ほら、早く攻撃指示を出せ」

『ゴブリンの頚椎(けいつい)を、右側から打ち抜きましょう』

「前回も頚椎だったろ? ワンパターンだな」

『もっとも効率よく、かつ確実性の高い攻撃をご提案していますので』

「ま、そりゃそうか」


 なんて喋りながら、右手の短剣を振る。

 鈍い音とともに、ゴブリンは崩れ落ちた。


「お、お見事です……!」


 姫宮がぱちぱちと拍手する。

 青い瞳が尊敬の色で輝いている。


「これくらいはな……さあ、先へ進むぞ」


 俺は背を向ける。

 ……が。


『お待ちください、マスター。まだやることがあります』

「う……」


 アリスに引き留められ、踏み出そうとしていた足を止める。


「どうしてもか……?」

『はい。魔物を鮮やかに倒した今が、絶好の機会かと』

「だよなあ」


 ため息をつき、振り返る。

 愛沢のカメラは、しっかりとこちらを捉えていた。


 俺は決心し、大きく息を吸った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ