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ダンジョン嫌いの元英雄は裏方仕事に徹したい ~うっかりA級攻略者をワンパンしたら、切り抜き動画が世界中に拡散されてしまった件~  作者: 厳座励主(ごんざれす)
第1章 ダンジョン嫌いニキ、バレる

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第39話 まだ戦れるぞ

 煙の奥から巨大な影が現れる。


 細身の黒い鎧を身に纏った上半身。

 だが顔面はむき出しで、皮膚は黒く、目は赤く光っている。

 まるで悪魔を具現化したような顔だ。


 肩から先は、人間の腕ではない。

 触手のように何本も分かれ、うねりながら空中を這っている。


 下半身は巨大な蜘蛛。

 長い胴体の左右から、無数の鋭い脚が伸びていた。


 そして尻には(サソリ)のように反り返った尾。

 先端の針が不気味に揺れ、毒々しい色の液体を垂らしている。


 見たこともない化け物だった。


「そ、そんな……形態変化だなんて……」


 ルクシアが呟く。

 俺は唇を噛んだ。

 最強のボスに、まだ先があったのだ。


 怪物はゆっくりと宙から降りてくる。

 蜘蛛の脚が床石へ触れ、軽い音を立てた。

 その瞬間、俺は叫ぶ。


「――来っ」


 来るぞ。

 そう言い終わる前だった。

 目の前に、既に化け物の姿があった。


 速すぎる。

 反応が間に合わない。

 触手のような腕が横殴りに振り抜かれる。

 俺は咄嗟に腕を上げてガードした。


 ――ドォン!


 身体ごと吹き飛ばされた。

 視界が回る。

 空気が肺から押し出される。

 次の瞬間、背中に凄まじい衝撃。

 どうやら壁に叩きつけられたらしい。

 だらりと崩れ落ちながら、なんとか顔を上げる。


 その視界の中で、怪物が超高速で移動した。

 次の瞬間、ルクシアたちのいる位置に影が現れる。


 一撃。


 轟音が鳴り響く。


 二撃。


 洞窟の壁が震える。


 三撃。


 地面が揺れ、砂埃が舞い上がった。


「……ば、ばけもの、め……」


 俺は壁にもたれながら、かすれた声で呟く。

 ルクシアたち三人に対し、きっかり三発。

 その場にはもう、誰も立ってはいなかった。


 勝てない。

 勝てるわけがない。

 先ほどまでの状態ですら、ぎりぎりだった。

 それがさらに力を増している。

 人間が勝てる相手じゃない。

 さっきまでは、頑張ればそこそこ戦うことができた。

 

 だが、今は違う。

 完全に相手の方が格上だ。


 俺の魔法、『断絶の刻ディメンション・ブレイク』の使用回数はあと一度残っている。

 それで時間を止めることはできる。

 が、しかし。そんなことは何の足しにもならない。

 

 止めたところで、いったい何ができるのか。

 攻撃するにしても、たった三秒で奴を倒しきれる気がしない。

 つまり、ここから俺たちが勝利できる確率は……限りなくゼロに近い。


 ――だが、それでも。


「う、おおっ……」


 俺は歯を食いしばり、身体を起こした。

 全身が痛む。

 さっきの一撃で、骨の何本かはやられているかもしれない。


 だが、そんなものは関係ない。


 世界中の人間が俺たちの勝利を望んでいる。

 外では羽生田社長や仲間たちが必死に戦っている。

 愛沢が、帰りを信じて待っている。


 ……そして、今は亡き恋人(香奈)も。


 俺が生きているのは、彼女に生かされたのは、きっとこの時のためだ。


 諦めるな。

 最後まで戦うんだ。


 自分で自分を鼓舞しながら、ふらつく足で一歩踏み出す。

 視界が大きく揺れる。

 血が目に入って、世界が赤く滲んだ。


 それでも前へ進む。

 床に落ちていた二本の短剣を拾い上げる。

 それぞれ逆手に握り、胸の前まで持ち上げる。


「まだ()れるぞ……!」


 俺は構えた。

 命を賭したファイティングポーズ。

 怪物は無表情のまま、首をわずかに傾けた。

 まるで理解できない生き物を見るように。

 そのときだった。



『――解析が完了しました』



 耳元で、機械音声が響いた。


「あ、アリス……?」


 思わず声が漏れる。


『頭部・バフォメットデーモン、上体部・ブラックデュラハン、腕部・アラクネテンタクル、下半身・ナイトメアスパイダー、尾部・デススコーピオン……』


 挙げられた魔物の名前群を聞いた瞬間、俺は理解した。


「こいつ、魔物の集合体なのか……!」


 もちろん、動きの速度や肉体の強度は先に挙げられた魔物たちとは段違いだ。

 だが、各部位の機能はまるで同じ。

 それぞれの特徴的な部位を限界まで強化して、無理やり一つにまとめた化け物。


『以上が解析結果です』

「……で、戦闘のナビゲートをしてくれるって?」

『いいえ、私の性能ではこの敵の速度についていくことはできません』

 

 アリスはそこで区切り、淡々と続ける。


『ですが、マスターであればその限りでないのでは?』

「っ……そういうことか」


 アリスが言わんとしていることが、わかった。

 自己申告の通り、今のアリスの性能では、このボスの動きについていくことができない。

 仮にアリスの演算が間に合ったとしても、言葉にして伝達するまでに敵は攻撃を放ってくるだろう。

 だから、アリスはこう言いたいんだ。

 

「俺が直接、敵の動きを読めばいいんだな?」

『はい。私の製作のため、長年にわたりあらゆる魔物の動きを解析してきたマスターであれば……勝機は十二分にあるかと』


 俺の脳の奥で何かが噛み合った。

 正面からまともに()り合えば、確実に後れを取る。

 だがしかし、相手が次に何をしてくるのかが分かればついて行ける。

 ……いや、ついて行けるどころじゃない。


 俺はゆっくりと息を吐き、顔を上げる。

 怪物が無感情な瞳でこちらを見ていた。

 次の瞬間、高速で迫ってくる。


 俺は目をかっ開いた。

 奴の一挙手一投足を逃さない。

 攻撃の起こりを確実に捉えろ。


 触手の腕がうねる。

 蜘蛛の脚がわずかに沈む。

 尻尾が空中で揺れる……不自然に。


 ――来る!


 中枢神経に超高速のパルスが走る。

 脳内に蓄積された無数の魔物のデータから、奴の尾――デススコーピオンの動きをサーチする。

 そして、見つけた。これから来る攻撃の記録を。


 俺は一歩だけ横へずれた。

 そして奴が来るであろう位置に拳を置く。

 次の瞬間、さっきまで俺が立っていた場所を尾の針が一直線に貫く。

 岩床が砕けたが、そこに俺はいない。

 すでに攻撃の射線から外れている。


 ドカン!


 鈍い衝撃音。

 俺の拳が怪物の腹にめり込んでいた。

 そのまま力強く振り抜くと、怪物は押されて数歩後退する。


 赤い目がぐらりと揺れる。

 奴の無機質な瞳に、初めて感情らしき動きが宿った。

 その手応えを感じながら、俺は確信した。


 ――勝てる。

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