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ダンジョン嫌いの元英雄は裏方仕事に徹したい ~うっかりA級攻略者をワンパンしたら、切り抜き動画が世界中に拡散されてしまった件~  作者: 厳座励主(ごんざれす)
第1章 ダンジョン嫌いニキ、バレる

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第2話 運命を変えるワンパン

「代わりに、その装備でいいよ。ホラ、()()()()()

「え……」


 少女はきょとんとした顔で男を見た。

 冗談だと思ったのだろう。

 だが、男はお構いなしに距離を詰める。


「聞こえなかった? 早く脱いでよ。テンポ大事よ、テンポ」

「や、やめてください……!」


 少女は後ずさるも、壁に逃げ場を潰される。


「金も払わないし脱ぎもしないんじゃあ、視聴者の皆は納得しないよ……お!」


 男は、撮影用ジンバルに取り付けられたスマホを見た。


「いいねいいね! ぐんぐん伸びてる! 皆やっぱこういうの好きなんだねぇ~。ということで、皆をあんま待たせないでよ。ホラ」

「っ……こんなことしたら、アカウント凍結されますよ!」

「オレずっとこんなんばっかだけど、凍結なんて一回もされたことないよ? やっぱ運営も稼げる配信者には甘いって感じ?」

「そ、そんな……」


 男に手を伸ばされ、少女は咄嗟に振り払おうとする。

 だが、相手は微動だにしない。

 力の差は明らかだ。


「……マズいな」


 俺は喉の奥で小さく呟く。

 助けに行くべきだろうが、今は男が配信中。

 あの位置関係だと、俺が出ていけば確実に映ってしまう。

 だが……。


「やっ……! やめてくださいっ……いやっ……」

「おっほ! 視聴者数50万人!? いいねいいねぇ~!」


 このままでは、あの少女は50万人の前に裸体を晒されることになる。

 そんなこと、許せるはずがない。

 俺の拳には、自然と力が入っていた。


『マスター。介入した場合、配信に映る可能性が非常に高いかと』

「分かってるよ、忠告ありがとう」


 分かってる。

 一瞬だけ視線を伏せて、俺は息を吐いた。


「……上手くやるさ」


 そう答えると同時に前を向き、アリスへ指示を飛ばす。


「ゴブリンの音声、再生できるか」

『可能です』

「三秒後だ。音量はMAXで」

『承知いたしました』


 俺はイヤーカフを耳元から外した。

 そして、彼女の宣言通り三秒後。


『――キシャアアアァ!』


 イヤーカフから、耳障りな咆哮が響いた。


「チッ……ゴブリンかよ、せっかく良い所だったのに。……仕方ない」


 配信者の男はそう言いながら、少女から手を離す。


「視聴者の皆、ちょーっとだけ戦闘配信に切り替わるよ。邪魔されたら厄介だし」


 軽い足取りで、俺のいる方向へ歩いてくる。

 もちろんカメラは構えたままだ。

 俺はイヤーカフを再び耳にセットして、曲がり角の内側に身を寄せる。


『接近中です……サン……』


 最小音量の声が耳元に落ちる。


『ニ……』

「うわっ、ぐんぐん視聴者減ってるじゃん……あー、ルクシア様が配信始めたんだ? 皆ー! チャンネル変えないでー!」


 近づいてくる軽薄な声と足音。


『イチ……』


 男が角を曲がるその直前に、俺は動いた。


「それじゃあ、ゴブリンとご対め――ガフッ!?」


 思い切り拳を振りぬく。

 腕に伝わる鈍い衝撃。

 男の身体が、ありえない勢いで吹き飛んだ。


 同時にその手からジンバルが離れ、スマホが宙を舞う。

 俺は即座に足元の小石を拾い、空中の的ねらって投擲(とうてき)した。


 ――バキン!


 乾いた音。

 画面が砕け、スマホが地面に転がる。

 配信者の方はというと、壁に叩きつけられ、そのまま気絶していた。


「……よし」

『お見事です。あのタイミングであれば、撮影にも映っていないでしょう』

「お前もな。テレビ出れるくらい似てたぞ」


 一息ついて、俺は少女のほうへ向かった。

 彼女は背中を壁につけたまま、呆然とこちらを見ている。


「大丈夫か?」


 声をかけると、びくっと肩が跳ねる。

 揺れたポニーテールが背中で弾み、青い髪が淡く光を反射した。


「っ……はい」


 それから、堪えていたものが切れたみたいに、表情が崩れた。

 唇と声が震え、青い瞳に涙が滲む。

 整った顔立ちが、今はひどく心細そうだ。


「ありがとう、ございます……」


 深く頭を下げられて、少しだけ困った。

 正直、こういうのは得意じゃない。


「気にするな、ただ個人的な鬱憤(うっぷん)をぶつけただけだ。嫌いなんだよ、ダンジョン配信者とかいう奴らは」

「え……そ、それは何で……?」

「……ダンジョンってのは、そういう場所じゃないからだ」


 青髪の少女の問いに、俺はため息をつきながら答える。

 彼女は俯いて、指先をぎゅっと握った。

 そこで、耳元からアリスの声が割り込んだ。


『マスター。彼女が困っています』

「あ……わ、悪かったな、変な話して」


 普通な調子で言い直すと、少女は驚いた表情をしていた。


「い、今の声は……?」

「ん?」

「それ、何ですか?」


 少女が指さしたのは、俺の耳元のイヤーカフ。


「これは俺が開発している人工知能だ。名前は――」

『――アリスと申します。探索から戦闘まで、ダンジョン攻略の全てをサポートし、マスターを危険からお守りするのが私の使命です。以降、お見知りおきを』


 途中で俺に代わり、アリスが自己紹介をした。


「ダンジョン攻略をサポート……!? す、すごいです……!」


 少女は目を見開いた。

 俺はその素直な反応を見て、肩の力を抜く。

 よかった。

 どうやら、心の傷は深くないようだ。


「今日はアリスの試験でここに来たんだが……さっきの奴が魔物を狩り尽くしたらしい。今日はもう無理だな」


 俺はため息をついて、踵を返す。


「じゃあな、気をつけて帰れ」


 背中越しに、少女の声が飛んできた。


「本当に、ありがとうございました!」


 俺は軽く肩越しに頷いて、その場を離れた。

 しばらく歩みを進めた所で、ふいにアリスが話し始める。


『よろしかったのですか?』

「何がだ?」

『先ほどの女性から、好意反応を検知しています』

「はぁ?」


 思わず、足が止まる。


「好意反応って……んなわけないだろ」

『瞳孔径の拡張、呼吸数の上昇、心拍リズムの乱れ。恐怖反応は既に収束し、人間が好意を寄せる相手に接近している状態の身体反応に酷似しています』

「仮にそれが事実だったとして、俺はどうもしないよ」

『なぜでしょうか? 彼女の容姿はマスターの嗜好に沿っているはずですが』

「ぶほっ――!?」


 アリスの爆弾発言に、思わずせき込んでしまう。


「な、何言ってんだ!」

『マスターはポニーテールで童顔な女性が好みだと、メモリに記録されています』

「はぁ!? ……他には?」

『記録事項は以上ですが、マスターの嗜好に沿った年代の近い女性が現れた場合は、マスターの婚活サポートをするようにとプログラミングされています』

「……わかった。犯人は()()()だな」


 俺の脳裏に、職場の後輩の顔が思い浮かぶ。


「アリス、そのあたりの記録と指示を全削除だ」

『承知いたしました。マスター結婚支援プロトコルに紐づく全データを消去します』

「何だそりゃ……次出勤したら覚えてろよ、アイツ」


 俺はそのまま歩き出し、ダンジョンの出口へと向かった。




------




 東京の郊外にある安アパートの一室が、我が家だ。

 とは言っても、職場に寝泊まりすることがほとんどで、滅多に帰ってはこない。

 

 俺は靴を脱ぎ、玄関を上がる。

 照明も点けないまま、机の上にアリスのケースを置く。

 底面の接点を充電用のプレートに合わせると、微かに振動した。


「……今日は疲れたな」


 上着を脱ぎ、適当に放り投げる。

 着替えもそこそこに、ソファへ腰を落とした。

 何となくテレビの電源を入れる。

 画面では、つまらないニュース番組が流れていた。


「あー……ダメだ、眠い……」


 久々のダンジョンだったせいか、全身の疲労感が半端ない。

 テレビの光と音がどんどん遠く、小さくなっていく。

 

『……続いてのニュースです』


 はっきりとは聞き取れない。

 俺の意識は、あっという間に闇の底に沈んで行った。


『Gランクダンジョン内にて、とあるA級攻略者を倒した謎の日本人男性を撮影した動画が、世界各国のトレンド動画ランキングを席巻して――……』


 その時の俺は知る由もなかった。

 自分がどれだけ、面倒な事態を引き起こしてしまったのかを。

あとがき(読者の皆様へ)

 第2話までお読みくださり、ありがとうございました。

 ここから、黒野の物語は大きく動き始めます。

 黒野の過去、強さの秘密、待ち受けるトップストリーマー、そしてゆくゆくは世界の命運を左右する戦いまで……!

 

 最後まで面白く、そして熱く駆け抜けたいと思っています。

 皆さまからの応援が、執筆の一番の励みになります。

 どうかこれからも、本作をよろしくお願いいたします。

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