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ダンジョン嫌いの元英雄は裏方仕事に徹したい ~うっかりA級攻略者をワンパンしたら、切り抜き動画が世界中に拡散されてしまった件~  作者: 厳座励主(ごんざれす)
第1章 ダンジョン嫌いニキ、バレる

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第14話 姫宮のお願い

「はい、お客さん連れてきたっすよー」

「お邪魔します……」


 愛沢(あいざわ)の後ろから遠慮がちに顔を出したのは、姫宮(ひめみや)だった。

 いつも通り、長い青髪を後頭部でまとめ、ポニーテールを作っている。

 姫宮は俺の前にやってくると、ぺこりと頭を下げた。


「まあまあ、そう固くならずにっす」

「そうだな。……姫宮も何か飲むか?」

「えっ、わ、悪いですよ……!」


 姫宮は首をぶんぶん横に振った。

 俺はその必死さに軽く笑いつつ、スマホを自販機にタッチする。


「遠慮しないでいいぞ」

「じゃ、じゃあ……オレンジジュースを」


 落ちて来たペットボトルを取り出し、キャップを開ける姫宮。

 そのまま「いただきます」と小さく言って、こく、こく、と喉を鳴らした。

 姫宮はペットボトルを口から離すと、少し頬を染めて言う。


「奢ってもらっておいてですが、今日はお礼を言いに来たんです」

「お礼?」

「はい。おかげさまで、末の妹の治療は順調です」


 彼女の家は母子家庭。

 末の妹が難病で、母親も無理が祟って倒れ……という話だったはずだ。

 それが、快方に向かっていると、彼女はそう言った。


「そうか……良かったよ。本当に」

「医療費も生活費も、配信の収入で賄えるようになりました。……本当に、黒野さんと愛沢さんのおかげです」


 姫宮は深く礼をした。

 俺は「いや」と首を振る。


「そんなに(かしこ)まらなくていい。感謝するのはこっちの方だ」

「そっす! 姫宮さんの配信がきっかけで、こっちもウハウハっすからね!」


 げへへ、と下品な笑みを浮かべる愛沢。

 姫宮はその光景を見ると、くすっと微笑んだ。


「ありがとうございます。……ただですね、完治まではまだ時間がかかるということで、引き続き一緒に活動していただけると助かります。よろしくお願いします」

「ああ、それも承知済みだ。アリスもまだ試験が残ってるしな」

「っすね。そういや、『羽生田マギテック(うちのかいしゃ)』の魔具(マギア)も飛ぶように売れて、生産が追い付かない~って社長も歓喜の悲鳴をあげてたっす」


 羽生田マギテックは、総勢8名の零細企業だ。

 主な事業は魔具(マギア)の開発。

 俺から見ても、うちの魔具(マギア)はかなり質が良い。

 しかし知名度が絶望的で、業績は低迷している。

 ところが、配信で俺が自社製の魔具(マギア)を使用していることが、抜群の宣伝になったらしい。

 

「……でも俺は、やっぱりダンジョン配信のことは好きになれない」


 そこで言葉を一旦区切り、小さく息を吸ってから続ける。


「だけど最近は、上手く付き合っていくのも大事なのかなと思うようになってきた」


 そう言って二人を見る。

 姫宮はまるで明かりが灯ったみたいに、ぱっと顔を輝かせた。

 肩にかかっていた緊張や不安が、一瞬でほどけるのがわかる。

 一方で、愛沢は口の端を吊り上げていた。

 何か面白いことを嗅ぎつけた子どもみたいな、悪戯っぽい笑みだ。


「へへ……先輩もようやくここまで来たっすか」

「なんだそりゃ、高みで待ってたみたいに言うなよ」


 軽口を返すと、愛沢の隣で姫宮が小さく息を整えた。


「あ、あの、早速なんですけど、配信のことで一つお願いがありまして……」


 上目遣いで話し始める姫宮。

 (かも)し出す雰囲気は、彼女が初めて会社に来た時と同じ。

 あの時は、謝罪をして許された途端に、俺に配信参加を要請してきた。

 彼女はビクビクしてるように見えて、案外肝が据わっているのかもしれない。


「私に……()()をしてほしいんですっ」

「と、特訓……?」


 姫宮は少しどもりながら, それでも言葉を続けた。


「先日の黒野さんのお話を聞いて……私、ダンジョンに軽く向き合ってたなって思ったんです。配信は確かにお金を稼げるし、人気者にもなれます。現に、増えた視聴者さんの中には『みそらちゃんに憧れてる』って言ってくれる人もいます」


 姫宮の運営している『みそらチャンネル』は、先日の配信前の時点で既に30万人の登録者がいた。

 ルクシアとの一件があった今では、さらに人気を増しているだろう。

 姫宮に憧れるファンができるのも、自然な流れだ。


「でも、だからこそ……良い面だけじゃなくて、危険な部分とか、残酷なところとか……正しいダンジョンとの向き合い方を、ちゃんと伝えなきゃいけないんじゃないかって思ったんです」


 姫宮は言葉を選びながら、それでも目は逸らさない。

 握りしめた拳が震えているのは怖さか、それとも覚悟か。


「そのために、もっとダンジョンのことを知って、私自身も強くなりたいんです。お願いします、私に特訓をしてくださいっ……!」


 想いのこもった彼女の言葉。

 先に反応したのは、愛沢だった。


「ひょえ~、真面目っすね~……今どき、先輩の言葉なんて『労害の戯言』ってスルーするのが普通っすよ?」


 ぺしん。


「あいてっ」


 乙女のキューティクルとやらを破壊し、姫宮に向き直る。


「……立派だな」


 それは、飾りのない本音だった。

 配信で稼げるようになり、生活は上向いた。

 それでもなお、楽な道に流れず、自分のやるべきことを模索している。

 決して、簡単な選択じゃない。


「わかった。俺にできることなら、協力する」

「ほ、本当ですか!? ありがとうございますっ」


 勢いよく頭を下げる。

 だがすぐに顔を上げ、困ったように言った。


「で、でも……特訓って、何をしたらいいんでしょう? す、すみません、何も考えてなくて……!」

 

 俺はがくっと崩れ落ちる。

 ……そこからか。


「そうだな……強くなるっていうなら、まずは『知識』だろうな」

「知識、ですか……? てっきり戦闘の訓練をするものだと……」


 怪訝な顔をする姫宮(ひめみや)に、俺は首を横に振る。


「ダンジョンには謎が多い。まだ研究が追いつかず、理屈で説明できないことばかり起こる。……だが、『起こる』ということを知っているだけでも、生存率は上がる」


 そう。

 これは、かつて俺が身を持って味わったことだ。

 姫宮に同じ思いはさせたくない。

 ここでしっかりと、ダンジョンに関する知識を叩き込んでおきたい。

 ……せめて、出口にもゲートはあるんだよ、ということくらいは。


「でも、勉強ばっかだと飽きちゃうっすよ?」


 愛沢(あいざわ)が口を尖らせた。

 なぜ当事者でもないお前が嫌がる? 

 という言葉を呑み込んで、俺は続ける。


「もちろんそれだけじゃない。知識を学んだら、それを実践で活かす。座学とフィールドワークを交互にこなすんだ」

「な、なるほど……家での勉強と、ダンジョンでの実践とってことですね」


 頷く。


「実践については、俺が同行しよう」

「ありがとうございます。じゃあ、座学は愛沢さんでしょうか?」


 姫宮は俺に頭を下げた後、視線を愛沢に向けた。

 すると、愛沢は拳で自分の胸を叩く。


「ふっふっふ、どーんと任せ――」

「いや、コイツはダメだ」


 自信満々に座学講師の任を引き受けようとした愛沢。

 だが、俺は就任を却下した。


「なっ、何でっすか!?」

 

 ありえない! という顔で詰め寄って来る愛沢に、俺はため息をつく。


「……なら、魔力変換の理論について説明してみろ」

「いいっすよ! まず魔力ってのは誰の体内にもあるものなんで、そこを意識するところから始めると、まずは公式がポンと浮かんでくるっす。で、その公式がばひゅーんって突っ込んで来るっすから、そうなったらこっちの式がベコンってなって、それで――」


 愛沢は身振りと擬音を駆使しつつ、得意げに語り続ける。

 俺は二言目で聞くのをやめて、姫宮を見た。

 当然、彼女はぽかんとしている。


「……な? 頭は良いんだけどな。感覚派すぎて教師には向かない」

「す、すごいです……」


 これを「すごい」と表現できるのが、姫宮の優しいところだな。

 俺だったら、「なんだコイツ」って言っちゃいそうだ。


「ここまで来たら今までの式を全部ごちゃ混ぜにするっす! すると――」


 なんでだよ。

 混ぜたら今までの計算の意味ねーだろ。

 舌が止まらない愛沢は置いておいて、俺は姫宮に向き直った。


「……というわけだ。愛沢は却下」

「じゃあ、座学も黒野さんが教えてくれるんですか?」


 首を傾げる姫宮に、俺はにやりと口角を上げた。


「いや、適任がいるんだ」


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