第23話:雨の日の決別(回想)
街道で、私たちは「星喰いの眷属」に襲われた。
黒い霧のような怪物。
カイゼルは私を庇って、背中を切り裂かれた。
「……っ、ぐ……」
「動かないで! 今、治すから!」
私は彼の上着を破り、傷口に手を当てた。
息を呑んだ。
彼の背中には、無数の古傷があった。
切り傷、火傷、刺し傷。
三百年分の戦いの歴史が、そこに刻まれていた。
「……こんな体で、ずっと戦ってたの?」
涙が落ちて、彼の傷に染みる。
「……お前が、無事ならいい」
カイゼルはうわ言のように呟いた。
彼は、自分の体なんてどうでもいいのだ。
ただ、私を守ることだけが、彼を生かす唯一の燃料になっている。
「……死なせない。絶対に」
私は魔力を注ぎ込んだ。
かつて「国のために捧げろ」と言われた魔力を、今、彼一人のために使う。
それが、私の答えだ。
†
「貸せ! わしの魔力も使え!」
龍神が私の肩に手を置いた。
膨大な魔力が流れ込んでくる。
「こやつを死なせるわけにはいかん! こやつは、わしの唯一の戦友じゃ!」
龍神の声が震えていた。
彼もまた、カイゼルを愛していたのだ。
種族を超えた、戦友として。
光が溢れる。
カイゼルの傷が塞がっていく。
彼は静かに寝息を立て始めた。
「……よかった」
私はその場に崩れ落ちた。
雨が止み、雲間から光が差す。
その光は、私たちの未来を照らしているようだった。
だが、安心するのはまだ早い。
王都の城壁には、無数の敵影が見えていた。




