第20話:古戦場の亡霊たち
錆びた剣と、朽ちた鎧が散乱する平原。
ここは三百年前、カイゼルが率いる軍と、魔物の大群が激突した古戦場だ。
(……ここ、覚えてる)
新婚旅行の途中、カイゼルはここに立ち寄り、黙祷を捧げていた。
「俺のせいで死んだ部下たちだ」
彼はそう言っていた。
でも、詳しいことは教えてくれなかった。
「……殿下……なぜ……」
風に乗って、呻き声が聞こえた。
霧の中から、首のない騎士――デュラハンが現れる。
かつてのカイゼルの部下の成れの果てだ。
「殿下……我々を見捨てて……なぜ、あの女を……」
デュラハンが私を指差す。
怨念が渦巻いている。
「……どういうこと?」
私はカイゼルを振り返った。
彼は蒼白な顔で、立ち尽くしていた。
「……あの日、俺は選択を迫られた」
カイゼルが絞り出すように言った。
「軍を率いて魔物を迎撃するか、お前を連れてアークへ急ぐか。……俺は、お前を選んだ。その結果、彼らは全滅した」
息が止まりそうになった。
彼は、私一人のために、軍を見捨てたの?
「国のために私を捨てた」と思っていたけれど、事実は逆だった。
彼は「私を守るために、国(軍)を犠牲にした」のだ。
「……許さん……許さんぞカイゼル……!」
デュラハンが剣を振り上げる。
カイゼルは動かない。
甘んじて、その刃を受けようとしている。
「駄目!」
私は杖を振るった。
光の魔法がデュラハンを包み込む。
攻撃ではない。鎮魂の光だ。
「……眠りなさい。貴方たちの王は、決して貴方たちを忘れていないわ」
デュラハンは動きを止め、光の中に溶けていった。
最後に残ったのは、「殿下、ご無事で」という、忠義の言葉だった。
†
カイゼルは膝をつき、地面に拳を突き立てていた。
「……俺は、王失格だ」
「そうね。……でも、私のヒーローよ」
私は彼の隣に座った。
彼は私を守るために、全てを犠牲にしてきた。
名誉も、部下も、そして自分自身の心も。
それを「裏切り」と呼んでいた自分が、恥ずかしい。
「……行くぞ。王都は近い」
彼は立ち上がった。
その顔には、まだ苦悩の色が残っていたけれど、少しだけ前を向いているように見えた。
王都の城門が、夕闇の中に黒く浮かび上がっている。
あそこで、全ての決着をつけるのだ。
私はカイゼルの手を強く握り返した。




