第19話:砂漠のオアシスと蜃気楼
再び砂漠を越える。
喉が焼けるように渇く。
蜃気楼の向こうに、オアシスが見えた。
(……ここ、覚えてる)
三百年前、ここで私は倒れた。
カイゼルは私を背負って、この砂漠を歩き続けた。
「重い」「痩せろ」と文句を言いながら、その足取りは力強かった。
彼の背中で聞いた心臓の音。
トクン、トクンというリズムが、私の子守唄だった。
「大丈夫? お姉ちゃん」
オアシスで水を汲んでいた少年、ハルが声をかけてくれた。
日焼けした肌、屈託のない笑顔。
「ありがとう。……生き返ったわ」
「この砂漠は厳しいからね。一人じゃ無理だよ。……誰か、頼れる人はいないの?」
ハルが尋ねる。
私は視線を巡らせた。
少し離れた岩陰に、カイゼルが立っていた。
彼は私たちが話しているのを見て、ふいと顔を背けた。
「……いるわよ。素直じゃないけど、頼りになる人が」
私はハルに礼を言い、カイゼルの元へ向かった。
「水、飲む?」
「……いらん」
「また強がって。……ほら、背中貸してあげるわよ。疲れたんでしょ?」
私は冗談めかして言った。
彼は呆れたように私を見た。
「お前に背負われるほど、落ちぶれてはいない」
「そう? 昔は私が背負われてたけど、今は対等よ」
私は彼の隣に並んだ。
三百年前、私は守られるだけの存在だった。
でも今は違う。
自分の足で歩ける。
そしていつか、彼が倒れた時は、私が彼を背負ってやるのだ。
†
「水じゃああああ! 生き返るうううう!」
ズゴゴゴゴ!
龍神がオアシスに顔を突っ込み、掃除機のように水を吸い込み始めた。
水位がみるみる下がっていく。
「ちょ、龍神! 全部飲まないでよ!」
「プハーッ! 五臓六腑に染み渡るわ! ……ん? 何じゃ、水がなくなったぞ?」
オアシスが干上がった。
ハルが泣きそうな顔をしている。
「……行くぞ。これ以上ここにいると、村人に殺される」
カイゼルが私の手を引いた。
その手は、昔背負ってくれた時と同じくらい、力強かった。
砂漠の向こうに、王都の城壁が微かに見えた気がした。
あと少し。
私たちの旅も、もうすぐ終わる。




