表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「国のために死んでくれ」と私を捨てた王子が、300年間ずっと私の目覚めを待っていたらしい  作者: 蒼山りと


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/32

第15話:龍神の風邪と小さな奇跡

 山岳地帯は吹雪だった。

 私たちは洞窟に避難し、焚き火を囲んでいた。


 (……ここ、覚えてる)


 三百年前、新婚旅行で山越えをした時も、こんな吹雪に見舞われた。

 あの時、カイゼルは私を寒さから守るために、一晩中抱きしめていてくれた。

「俺の体温で暖まれ」なんて、キザなことを言って。

 でも、今の彼は私ではなく、別のものを抱きしめている。


「……うぅ、寒い……」


 カイゼルの腕の中にいるのは、手のひらサイズに縮んだ龍神だった。

 いつもは偉そうなトカゲが、今は生まれたての赤ん坊のように小さくなり、震えている。


「どうしたのよ、龍神。変なものでも食べた?」

「……わからん。急に力が抜けて……」


 龍神の声は弱々しかった。

 その体から、いつもの濃密な魔力が消えている。

 ただの、弱った爬虫類だ。


「熱があるな」


 カイゼルが龍神の額に手を当てた。

 その手つきは、驚くほど優しかった。

 まるで、病気の子供を看病する父親のように。


「アリア、薬草はあるか? 熱冷ましのやつだ」

「ええ、あるわ。すぐに煎じる」


 私は鍋に水を入れ、薬草を放り込んだ。

 カイゼルが龍神をあやし、私が薬を作る。

 その光景は、奇妙なほど自然で、そして温かかった。


 (……私たち、まるで夫婦みたい)


 そんな考えが頭をよぎり、慌てて打ち消す。

 相手はカイゼルだ。裏切り者だ。

 でも、今の彼は、私の知っている「優しいカイゼル」そのものだった。



 薬を飲ませると、龍神は安らかな寝息を立て始めた。

 カイゼルは龍神を毛布にくるみ、焚き火のそばに寝かせた。


「……珍しいな。あのトカゲが弱るなんて」

「ええ。……何か、悪い予感がするわ」


 私は焚き火を見つめた。

 龍神は「星の守護システム」だと言っていた。

 そのシステムが弱っているということは、星そのものに異変が起きているということだろうか。


「……うぅ、アリア……」


 龍神がうわ言を漏らした。


「……死ぬなよ……お主が死んだら……世界が……」


 ドキリとした。

 世界が、どうなるというの?

 龍神は、私に「子作り」を急かしていた。

 それは単なるセクハラではなく、私の命に関わることだったの?


「……カイゼル。あんた、何か知ってるの?」


 私は彼を見た。

 カイゼルは焚き火に薪をくべながら、静かに言った。


「……あいつは、お前を守ろうとしている。それだけは確かだ」

「あんたは?」

「俺もだ」


 彼は私を見た。

 その瞳に、焚き火の炎が揺れている。


「俺は、お前を守るためなら、世界なんてどうなってもいいと思っている。……だが、あいつは違う。あいつは世界を守るために、お前を守ろうとしている」


 微妙な違い。

 でも、決定的な違い。

 カイゼルにとっての最優先は「私」で、龍神にとっての最優先は「世界」なのだ。


「……馬鹿ね。世界なんてどうでもいいなんて」

「本心だ。……お前がいない世界に、何の価値がある」


 彼は呟いた。

 その言葉は、三百年前の「国のために死ね」という言葉と、完全に矛盾していた。

 どちらが嘘で、どちらが本音なのか。

 今の私には、もう答えが出ている気がした。



 翌朝、吹雪は止んでいた。

 龍神も元のサイズ(デカいトカゲ)に戻っていたが、まだ少し顔色が悪い。


「……昨夜は世話をかけたな。……忘れるのじゃ! わしが赤子のようになっていたことは!」

「はいはい。……でも、可愛かったわよ」


 私は笑った。

 カイゼルは既に荷物をまとめて、外で待っていた。


「行くぞ。……次は「温泉郷」だ。湯治でもすれば、そのトカゲも治るだろう」

「温泉? ……いいわね」


 私は洞窟を出た。

 雪解け水が、キラキラと輝いている。

 旅の目的が変わった気がする。

 ただのお見合いじゃない。

 龍神の異変、世界の危機、そしてカイゼルの真意。

 それらを確かめるための旅だ。


 私はカイゼルの隣に並んだ。

 その距離は、昨日よりも少しだけ近くなっていた。

 雪山を越えれば、王都はもうすぐだ。

 そこで待つ運命がどんなものであれ、私たちは三人で(一匹含む)立ち向かう。

 そんな予感が、確信に変わりつつあった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ