表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「国のために死んでくれ」と私を捨てた王子が、300年間ずっと私の目覚めを待っていたらしい  作者: 蒼山りと


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/32

第11話:花の都の枯れない花

 花の都は、その名の通り花で埋め尽くされていた。

 色とりどりの花びらが風に舞い、甘い香りが街全体を包んでいる。


 (……ここ、昔も来たわね)


 三百年前、新婚旅行で訪れた時、カイゼルは私に花冠を作ってくれた。

 不器用な手つきで、シロツメクサを編んで。

「似合うぞ」と言ってくれた時の、照れくさそうな顔。

 あの花冠は、旅の途中で枯れてしまったけれど、思い出だけは鮮明に残っている。


「あら、珍しいお客様」


 植物園の奥で、女性が声をかけてきた。

 フローラ。この植物園の主であり、高名な植物学者だ。

 緑色の髪、眼鏡の奥の優しい瞳。彼女はジョウロを片手に微笑んだ。


「この「エターナル・ローズ」を見に来たの?」


 彼女が指差した先には、ガラスケースに入った一輪の青い薔薇があった。

 不思議な光を放ち、瑞々しく咲き誇っている。


「……綺麗な薔薇ね」

「ええ。これは三百年前に品種改良された、伝説の薔薇よ。……枯れないの。永遠に」


 永遠に枯れない花。

 そんなものが存在するなんて。


「作ったのは、ある貴族の男性だと言われているわ。彼は愛する女性のために、この花を作ったんですって」

「ロマンチックね。……でも、その女性は幸せだったのかしら」

「さあ? でも、花言葉は「変わらぬ愛」よ」


 変わらぬ愛。

 そんな言葉、信じられない。

 人の心は移ろうものだ。花だっていつかは枯れる。

 だからこそ美しいのだと、私は思っていた。


「……実はね、この花にはもう一つ秘密があるの」


 フローラは声を潜めた。


「この花、特定の魔力に反応して色を変えるのよ。……試してみる?」


 彼女はケースを開けた。

 私が恐る恐る指を近づけると、青い薔薇が、ふわりと赤く染まった。

 情熱的な、血のような赤に。


「まあ! 貴女、この花の「オリジナルの持ち主」と同じ魔力を持っているのね!」


 フローラが驚きの声を上げる。

 オリジナルの持ち主?

 まさか。


 (……カイゼル? )


 記憶の蓋が開く。

 あの日、花冠を作ってくれたカイゼルが、小さな種をポケットにしまっていたのを思い出した。

「これは特別な種だ。いつか、お前に見せてやる」

 そう言っていた。

 まさか、あれがこの薔薇の種だったの?



「ぬおおおお! 花粉が! 花粉が鼻に来る!」


 ズボォ!

 花壇の土が盛り上がり、龍神が顔を出した。

 くしゃみと共に、大量の花粉が舞い散る。


「ハックション! ……おいアリア、こんな花より団子じゃ! 花など食えん!」


「龍神! ?」

「きゃあ! 私の薔薇が!」


 龍神のくしゃみで、エターナル・ローズが吹き飛ばされた。

 ガラスケースが割れ、薔薇が地面に落ちる。

 永遠に枯れないはずの花が、土にまみれてしまった。


「……あーあ」


 私は薔薇を拾い上げた。

 花びらは傷ついていたけれど、まだ赤く輝いていた。

 泥にまみれても、その輝きは失われていない。


「……強い花ね」


 私は呟いた。

 永遠に枯れない愛なんてないと思っていた。

 でも、泥にまみれても、傷ついても、咲き続ける愛なら、あるのかもしれない。

 カイゼルの愛のように。



 植物園を出ると、カイゼルが待っていた。

 彼は私の手にある薔薇を見て、少しだけ目を見開いた。


「……その花」

「エターナル・ローズだって。……あんた、知ってる?」


 私は鎌をかけた。

 彼は視線を逸らし、鼻を鳴らした。


「……知らん。だが、悪趣味な色だ」

「そう? 私は好きよ。……泥臭くて、しぶとくて」


 私は薔薇を胸に抱いた。

 この花は、彼が私のために作ったものだ。

 三百年経っても枯れずに、私を待っていた。

 その事実だけで、胸がいっぱいになる。


「ねえ、カイゼル。……ありがとう」

「……何がだ」

「なんでもない。……ただの独り言よ」


 私は歩き出した。

 背後で、カイゼルが小さく溜息をついたのが聞こえた。

 その溜息は、呆れではなく、安堵の色を帯びていた。

 この花のように、私たちの関係も、泥にまみれても咲き続けることができるのだろうか。

 王都へ戻れば、その答えが出るはずだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ