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「国のために死んでくれ」と私を捨てた王子が、300年間ずっと私の目覚めを待っていたらしい  作者: 蒼山りと


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第9話:双子の王子と二つの選択

中立都市の広場には、二つの大きな道が伸びていた。

 右へ行けば「商人の街」、左へ行けば「学術都市」。

 私は地図を広げて立ち尽くしていた。


 (……ここ、覚えてる)


 三百年前、新婚旅行の途中で、私たちはここで道に迷った。

 カイゼルは地図を見ながら、珍しく優柔不断だった。

「右は安全だが遠回りだ。左は近道だが山越えがある」

 彼は私の体力を気遣って、どちらを選ぶべきか真剣に悩んでいた。

 結局、私が「景色が良い方!」と言って左を選んだのだけれど。


「そこの美しいお嬢さん! 迷っているなら、僕が案内しよう!」

「いいや、僕の方が適任だ。彼女は知的な会話を求めている顔だ」


 突然、左右から声をかけられた。

 見ると、瓜二つの美青年が私を挟んで立っていた。

 右は華やかな衣装の陽気な青年、カストル。

 左はシックな衣装の冷静な青年、ポルックス。

 この都市を治める双子の王子だ。


「僕と来れば、毎日がパーティーだ! 宝石もドレスも思いのままだよ!」

「私と来れば、静寂と知識が得られる。君の魔力についての研究も手伝おう」


 二人は同時に手を差し出した。


「さあ、選んでくれ! 僕か、彼か!」


 頭がクラクラする。

 情熱的な愛と、静謐な愛。

 富と、知識。

 どちらも魅力的で、どちらも選べない。


 ……カイゼルも、選べなかったのだろうか。

「私への愛」と「国への義務」。

 二つの天秤にかけて、悩み抜いた末に、彼は国を選んだ。

 その選択が、どれほどの苦痛を伴うものだったのか、今の私には想像もつかない。


「……選べないわ」


 私は呟いた。

 どちらかを選べば、もう片方を捨てることになる。

 それが怖い。

 選ばれなかった方の悲しみを知っているから。



「両方じゃああああ!」


 バシャーン!

 広場の噴水が爆発し、水しぶきと共に龍神が現れた。


「何を迷うておる! 両方貰ってしまえ! 一夫多妻ならぬ一妻多夫じゃ! 遺伝子の多様性は確保せねばならん!」


「龍神! ?」

「な、なんだこのトカゲは!」


 双子が悲鳴を上げる。

 龍神は二人の首根っこを掴み、強引に私の方へ引き寄せた。


「右の男は体力がある! 左の男は頭が良い! 両方と「つがえば」最強の子が産めるぞ! さあ、今すぐトリプルベッドへGOじゃ!」


 ……最低だ。

 でも、そのデリカシーのなさが、私の迷いを吹き飛ばしてくれた。


「……無理よ」


 私はため息をついた。


「私は欲張りじゃないの。たった一人、心から愛せる人がいれば、それでいい」


 双子は顔を見合わせた。

 そして、同時に苦笑した。


「……振られたか」

「……どうやら、僕たちの負けのようだね」


 二人は潔く手を引いた。

 彼らは知っていたのだ。私が誰を選ぼうとしているのか、私自身よりも深く。



 夕暮れの広場。

 私はベンチに座り、オレンジ色に染まる空を見ていた。

 隣に、カイゼルが座った。


「……選ばなかったな」

「ええ。……何かを選ぶって、何かを捨てることだもの。私には、そんな勇気ないわ」


 私は彼を見た。

 彼は、私を捨てて国を選んだ。

 その勇気(あるいは非情さ)を、私は憎むべきなのか、それとも――。


「……選ばなくていい」


 カイゼルは静かに言った。


「お前は、お前のままでいい。……何かを捨てる役目は、俺だけで十分だ」


 その言葉は、懺悔のように聞こえた。

 彼はまだ、捨て続けているのだろうか。

 自分の幸せを。安らぎを。

 私を守るために。


「……馬鹿ね」


 私は彼の肩に、そっと頭を預けた。

 彼は拒まなかった。

 ただ、微かに震えるその肩が、彼の孤独を物語っていた。


「行くわよ。……明日は「仮面舞踏会」がある街へ」


 私は立ち上がった。

 選べないなら、全部抱えて進むしかない。

 過去も、現在も、そしてこの不器用な男も。

 王都への旅路は、まだ半ばだ。

 私の選択が正しかったのかどうか、その答え合わせをするために、私は歩き続ける。

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