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木枯らしの吹く季節の精霊とキャンパー

「ほら、コーヒー沸いたぞ」

「ありがとー、いただきまーす」

 十一月半ば、肌寒くなる季節。

 地主のご厚意で開放される森の中。

 高一の冬川(ゆう)は、週末になると一人キャンプを満喫していた。

 そんなある夜、森で不思議な女の子と出会った。名前は椿、自らを木枯らしの精霊だと言い張る。

 透き通った銀色の長髪に青い瞳、そして白い和服を着ている。明らかにキャンパーというわけではなさそうな装いだ。

 悠の下に現れては、コーヒーをごちそうになり、他愛もない話をするようになった。

「悠はキャンプを始めてどれくらい?」

「今年の九月からだよ。急に暇になっちまってな」

「急に? 何かあったの?」

悠は数秒の沈黙ののち、語り始めた。

「小二の頃からサッカーやってて、中学では大会でも活躍したんだ。推薦を受けて名門の春風北高校に入学した。けど夏大会で、足の靱帯をやってしまってな……」

「え、怪我したの?」

「生活には支障がない程度さ。けど、選手としてはもう――」

 悠は無言でマグカップに入ったコーヒーをゆっくりと飲み干した。

 しかし、その顔には後悔の念は見受けられなかった。

「まあ成績はいい方だし、今も学校には通えてる。それで、図書室で見た専門書でキャンプに興味を持ち始めたんだ。いい趣味を見つけた」

「悠は……、学校が嫌になったりしないの?」

「現実から目を背けたって、いい事なんかないだろ?」


そして木枯らしが過ぎ去り、冬本番を迎える頃、椿は姿を見せなくなった――。


――時は流れ、季節は春。

二年生になった悠は、入学式の直後の校内で、新一年生の女子に皮肉交じりに話しかけた。

「こんなところで何しているんですか? 木枯らしの精霊さん」

「フフフ、よく見つけたね悠」

 椿との数カ月ぶりの再会だった。

 彼女の本名は『椿・ホワイト』

 アメリカ人の父と日本人の母のハーフ。

 両親が亡くなり、日本の母の実家にやってきたが、学校ではいじめに遭い、親族ともうまくいかず家出した。

 悠と会った森のさらに向こうにある、母名義の土地にある別荘に隠れ住んでいた。

 冬頃から猛勉強し、悠と同じ学校を受験したんだとか――。

「何で……急にいなくなったんだ?」

「フフフ、現実から目を背けるのをやめただけだよ?」

 木枯らしの精霊は一人の少女に戻り、春には彼とともに新しい世界を歩き出したのだった。


3か月ぶりの投稿

『木枯らしの吹く季節の精霊とキャンパー』

文化放送の下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオの

コーナーで読まれたネタを短編小説にしました

こぼれ話は活動報告で

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