99.聖女との出会い
「このように物質からエネルギーを取り出す技術は確立して久しいですが、エネルギーから物質を生成することは実質的に不可能かと思われました。しかし魔素をある種のエネルギーへと変換することでそこから物質化する技術が既に確立しています。その論理的支柱はDr.ガーランドが構築され、さらに彼にそのインスピレーションを与えたのはそこに居られる遥姫です。我らが太陽にして闇を照らす月でもある稀有なるお方」
今日もサブリミナルかと言うほどに講義の中にちょいちょい姫をぶっ込んでくる。
それをポカンとしながら聞いているタロット。補佐官のミシェルはその隣で遥へまた別の視線を向けていた。「なんて凛々しく愛らしい乙女であることか………欲しい」などと考えている。
佐倉が謀略を駆使するまでもなくいっちょ上がりである。実にチョロい。
さて、開いた口が塞がらないタロットは遥の偶像化が出張講師によって進められている現実をまさか自身がこうして聴講している際にまでも見せられるなどと想像すらしていなかった。しかも仮にもこの国の最高学府で堂々と。どうなっている? これは洗脳教育ではないのか? 学長公認で? いや、文科相も同行しているではないか。ならば政府公認とも取れる。
魔女の、いや、淫魔の侵食は国家中枢にまでも及んでいるというのか。
絶望的心理状態へと陥りそうな時に外で何かの動きがあったようだ。
「大統領、所属不明ドローンが接近しているようです。念の為避難を」
同行してきたSSがタロットへと話し掛けた。
「猶予は?」
「分かりません。ですので速やかに!」
予め各種事態への対応策は講じてある。このケースではドローンの飛来方向とは逆側へ、つまり廊下へと移動してドローンからの視認を遮る対応をする。
佐倉へもイヤホンを通じて報告が入っており、部下達へと指示を飛ばす。
「楓ちゃん、手助け欲しい?」
いつの間にか佐倉の傍らに立っていた遥が聞いてきた。
「………そうね………外のドローンは陽動の可能性が否定出来ないから………大統領に随伴して貰える? 私も行くわ」
「友梨佳ちゃん! ここは頼める?」
実は後ろの席に蛍と並んで聴講していた倉持友梨佳へと声を掛ける遥。
「任せて!」
こうして遥と佐倉はタロット大統領らの後を追いかける。
「防弾仕様の大統領専用車が最も安全でしょう。1階へ急ぎましょう!」
補佐官が意見具申する。SSらもこれに賛同してタロットも同意した。そうして階段の踊り場へと差し掛かったところでそれは姿を現した。階段を降りきったあたりの廊下に火器装備のドローンが1機浮かんでいたのだ。
「引き返して!」
ミシェルが叫ぶ。
直後、サブマシンガンの連射音が響き渡る!
「大統領!」
SS二人がタロットに覆いかぶさる。もう二人のSSはドローンへ銃撃を加えている。だが意にも介さぬ無機質な機械は銃弾を撃ち尽くしたのか一旦空中に静止した。誰のかも分からない呻き声が聞こえた。
ドローンがタロットらへ向かい飛行を再開した。恐らくは自爆する為に。
そこへ追いついた遥が飛び込み圧縮空気弾を見舞う。
弾かれるように吹っ飛ぶドローン。そのまま階下の廊下へと墜落した。
「怪我人は!?」
タロットを庇ったSSは防弾チョッキのおかげで致命傷は見られない。一人が腕や脚に2箇所ほど被弾していたが、致命的な怪我ではない。
タロットは………腹に弾を受けていた。貫通先からの出血が多いことから肝臓がやられたっぽい。そして補佐官のミシェルは肺を撃ち抜かれたようで大量の吐血をしていた。肺の中は血液に満たされていることだろう。
「大統領、貴方はいましばらく息を繋げましょう。しかしお付きの女性は瀕死です。彼女の治癒を優先しても?」
「癒せるというのかね? ならば彼女を、ミシェルを頼む」
「さっすが男の子。よく言った、偉いね」
「フ、フハハハ。そうだとも。私は今でもクソガキで男の子だよ」
「うん、そうか。少し待っていてね」
そうして魔力滞留から引き出した魔力でミシェルを治癒した。だが喉元に溜まった血液により呼吸がままならない。遥は躊躇わずにミシェルの口に
自らの口を合わせて内容物を直に吸い出した。水魔法も駆使しながら吸い上げて、口中のそれを吐き出し、更に二回。ようやくミシェルの呼吸が安定した。この一連の過程を周囲の男たちは見ていたし、当人であるミシェルも認識していた。
そしてまだ魔力には余裕がある。
「SSさん、ゴメンね、貴方にまでは魔力が回せないみたい。大統領はなんとかするから、許してね」
「………あぁ、勿論だとも。大統領を頼む。そして、ミシェル女史を救ってくれてありがとう」
「オウヨ」
そうしてタロット大統領も治癒した。
タロットはそこに………聖女を見た。なるほど。全てに納得がいった。
そりゃあそうなるさ。誰も彼もがハルカ・オノダに堕ちるなんて………当然だ。
信心深い一人の男が改めて帰依すべき天からの使徒に頭を垂れた。
「この方をお支えすることが我が天命なのだ」
また有力なジイさんが一人、信徒として追加。あ、いや、その場の6名様追加かな。約一名は完全に恋する乙女と化しているのだが。




