表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
はるかの日々  作者:
97/169

97.ありふれた外交

米国大統領の来日は意思表明から僅かな期間で実現した。

それは情報部からの報告に端を発する。


「小野田一族がほぼ総出で浅間山山麓にある小野田の係累企業が経営する宿泊施設へと集結し、そこで極秘裏に魔法の指導が行われたようです」


「なに? 指導者は………あの魔女か?」


「はい。ハルカ・オノダです。その様子は監視衛星からの映像でかなりの精度で分析出来ました。どうやら一族のかなりの人数が魔法の取得に成功したようです」


「隠さなかったと?」


「そうです。敢えて公開したのでしょう。何処まで、どれだけ、そうした情報を開示して………まぁ、威圧とは思えませんので、次の段階を世界に示したと見るのが順当かと」


「そりゃあな、オノダが今更威圧など、無意味に過ぎる」


「世界中を圧しましたからな」


「次の段階か………何を、どう導こうと言うのか。いや、誘われているならば乗ればよい。そういうことか。直に問いただそう。ミシェル、日本訪問のスケジュールを組んでくれないか? できるだけ早期にだ」


「承知致しました。主軸はオノダとされますか?」


「オノダ………のハルカだ。魔女に会いに行く。2日間はその為に開けておいてくれ」


こうしてすぐに日本政府へと打診して、約2ヶ月後に日本訪問が決まった。

プロジェクト初期の強奪作戦の失敗で諸々譲歩させられた過去を持つ米国の彼は日本への隔意が強い。だが国益に利するならば自身の蟠りなど犬にでも喰わせるさ、という実利主義者でもある。

元より東洋人の少女などに興味はないが、事前に個人情報を頭に入れておかねばならない。そんなことを考えながら溜め息を一つ吐いたのであった。



◇◇◇



エアフォースワンにて日本へ。

厚木基地では日本の外務大臣が迎えてくれた。お茶をする間もなくクルマに乗り込み迎賓館へと車列を連ねる。


「あの頃の首相も岸辺だったな。いつか煮え湯を飲ませたいものだが………今回は趣旨が違うか。ミシェル、晩餐会にハルカ・オノダは参加するのか?」


「いえ、やはりダメでした」


「ただの学生だからだったか? フンッ、白々しい。魔女であり、最凶のテロリストであり、プロジェクトの中心メンバーでもある。何がただの学生だ………」


鼻を鳴らす米国大統領。彼の名はロナルド・タロット。徹頭徹尾自国優先主義者であり、ビジネスマンでもある。ワンマンプレジデントとしてつとに有名だ。


「接触機会は持てたのだろうな?」


「彼女が在籍する大学で彼女の為のプログラムがあります。その講義への参加を打診しております。許可は下りていますので、そこでは顔合わせが叶うでしょう」


「どうにもガードが固いな。しかも徹底して一般人を装っている。

“偶然”の初対面からあの天才を懐へ取り込み自陣営にガッチリと囲い込み、諸外国から派遣された最優の科学者や技師らを“自発的に祖国からの離脱を決意”させる。それらが一市民の成り行きの果てに成立しただなどと………馬鹿をいうな! だが道義上は批判できない状況だ。全く、サキュバスかなんかじゃないのか? その魔女は」


「並外れた魅力の持ち主なのは疑いがありませんね。それに彼女のブレーンにはあのカエデ・サクラがついています」


「あのタフな日本人か。確か同性愛者だったな?」


「はい、調査情報の分析からもハルカ・オノダと彼女はそうした関係にあると断じて差し支えないでしょう」


「男の婚約者を持ちながら至高のタフネゴシエーターをも身体で取り込むか。いよいよ淫魔の疑いが濃厚だな。ふん、精々私も気をつけるとするか」


「冗談ではなくお気をつけを」


「うむ」



明日にはマギプロジェクトからの出張講義を聴講するロナルド。

因みに講師はクロエ女史である。



◇◇◇



迎賓館到着時、正面玄関へと米国大統領を出迎える岸辺総理。

報道各社に加え各国のプレスも多数待ち構える中、大統領を乗せた車列が敷地内へと流れ込む。

停車後直ぐに米国大使館員がドアを開けると直ぐにタロット大統領が降車してきた。一斉にシャッター音が鳴り響き、フラッシュが瞬く。岸辺総理が待つ場所まで歩み寄った大統領へ岸辺総理から右手を差し出した。その手を右手で握り返してさらに左手を添える。再度シャッター音とフラッシュが大量に浴びせられる。

たがいの肩に手を掛けて軽くハグをし、もう一度握手の手を振りながら英語で挨拶を交わす二人。


にこやかに横並びとなり、プレスらへ向けて笑顔で応じると岸辺総理の誘いに応じたタロット大統領が迎賓館内へと歩き出す。

実に堂々たる態度である。


用意された会談部屋へと二人をはじめとした政府高官らが入室してゆく。一先ずは冒頭の挨拶や軽い会話を公開するためのプレス同行を許容し、10分ほどで彼等は退室となった。


「ふう、到着早々お疲れ様でした。タロット大統領」


「ハハハ、慣れたはずのこんなことも国外だと気疲れするものだね」


「確かにそうですね。先ずはお飲み物は如何ですか?」


「ああ、頂こう」


気持ちを解しながら少しずつ会話をはじめる2カ国のトップは肝心なところには互いに触れない。

喫緊の外交課題はないし、経済政策の遣り取りや為替対策なども特に問題はない。安保でも今の日本はかなり安定している。なにしろ近場の軍事強国は瓦解し地の底へ落ちたし、国際社会での既得権益も国連加盟国の総意で取り上げられた。

やたらと日本を敵視する隣国はもはや立ち上がれないほどに打ちのめされている。まあ、その北側に不穏な国があることはあるが、小野田の神通力により沈黙して久しい。そしてロシアはマギプロジェクトに参画している一応の友好国だ。

かの国も最初期に荒事を仕掛けてきて撃退された過去を持つ。故に米国同様にペナルティとしての外交取引に応じざるを得なかった。10年以内での領土返還というペナルティを。


今の世界、日本は一人勝ちと言って差し支えないだろう。

ならば米国大統領は何を話し合うために来日したのか。岸辺総理はその辺りの裏事情を概ね把握している。いや、誰でも分かりそうなものだ。だって遥の大学への訪問とか、あからさまも良いところだ。先だっての小野田一族魔法伝授は包み隠さず公開していた。「未だ十代の娘に取り入ろうと他国に先駆けて来日した国のトップ」ビジネスマンの面目躍如といったところか。


二人は当たり障りのない協議を熟してから何のこともない合意書にサインして今回の成果とした。

そして盛り上がりに欠ける晩餐会を経て初日の行程を終えたのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ