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はるかの日々  作者:
96/168

96.重要議題

初回出張講義から2ヶ月余りが経過した。

聴講生の殆どは遥を賛美する下僕と化した。立ち会った教授らも例外ではない。その中には学長も含まれる。


「姫、習志野でも単位は取得出来ますが本校への出席数をもう少し増やしては頂けませんか?」


学長からの話しかけだ。既に呼称が姫になっている。


「姫は止めて? その件についてはあっちでも同じこと言われていますので………」


「姫は歴史や文化人類学などにもご興味がおありだとか。如何でしょう、そちら系の講義でも単位取得が可能とするのは。姫の物理学や工学系の識見は既にかなりの高みにありますし、文系を同時に修められては?」


かなり美味しい話だ。詐欺を疑いたくなるくらいには美味しい話だ。


「そんなの制度として不可なのでは?」


「私の立場ならば可能です。不具合があるならば制度そのものを変えれば良いのです。今回の出張講義や他所での単位取得のように」


大人の論理だ。いや、寧ろ私欲が入っているだけに小賢しい類の大人の屁理屈。


「学長、それが姫の人生に何かしらの加点となるならば法改正も視野に我々も協力を惜しまない」


岸辺総理が補完発言をする。


「議論を経ると立法精神に改変が加わりかねませんし、時間も掛かります。姫の利益とする為には遡及法にもなりかねません。ですのでここは文科省での大臣決裁か事務次官決裁としては?」


「法ではなく省令とするか………よし、それでいこう。竹市さん、さすがだね」


「姫の為ですから」


「うん、姫の為ならば」


「ホントにその姫とか止めて?」


「「「聖女様のほうが?」」」


「………やっぱり姫で」


「ハハハ、遥ちゃんなんて呼ぶとオレでも睨まれるんだよ。まぁ、諦めな?」


そうして周りのジイさん達から睨まれる麻尾。



ここは首相官邸。岸辺総理、麻尾最高顧問兼副総裁、竹市政調会長、夷隅防衛相、小山文科相、守谷経産相、石岡財務相、そして鉢屋学長らが遥、優子、有理を囲むように席についている。この面子で上座のひな壇に小娘三人という異常さよ。

本日の議題は次回カラオケ大会と食事会のスケジュールすり合わせ、及び米国大統領来日に伴う視察希望の要請への対応についての話し合いだ。希望する視察先に遥らの大学での出張講義の聴講も含まれる為、学長も参加している。そして彼はあわよくば次回カラオケ大会に参加したいとの野望を抱いている。彼にとってはこの場での最重要議題だ。

寧ろ米国大統領よりもそちらがメイン。


「大統領が聴講とか、自分とこでいくらでもやれるじゃんね?」


「有理、違うって、遥と一緒に受講したいんだって」


「またオッサン………」


「姫、この場でのオッサン発言は遠慮してね?」


「竹市さんは………慣れたのか。もうね、整髪料とか香水とかの匂いが混ざって………もう帰っていい?」


狼狽えるオッサン達。


「済まない。次回からは控えさせるから、今日のところは我慢してくれねえか? って、オレも臭えのか?」


そう言いながら胸元の匂いとかを嗅いでいる麻尾。


「あ、麻尾さんのは曾祖父ちゃんと同じ匂いだから大丈夫だよ。うん、麻尾さんのはね………」


「姫は政治家には向かないわね? でも姫はそれでいいと思うわよ。一応あちらへは外交ルートを通じてそれとなく伝えておくわね」


「え、なんて?」


意地悪有理の好奇心。


「そうね、若い娘に嫌われるから香水は控えめにってかんじかな?」


「消極的………あ、若い娘ってのが遥を指してるのか。政治家って迂遠」


「想いを直に発言するなんて三流よ? 一般の人には何を言ってるのか分からないくらいにオブラートに包んでさらに段ボール箱へ梱包して、それでも解らせるのが一流なの」


「なるほど、確かに遥には向いてない!」


「マジそれな」


「悪かったって。ゴメンね、岸辺さん」


「いや、言われなきゃ分からないこともある。むしろ若い者に嫌われる要素を排除できるよい機会を貰ったよ。ありがとう。姫」


「もう宜しいですか? 大統領対応をさっさと済ませて本題に入らないと、皆さんお時間が」


実は議事進行役として佐倉が遥の後ろに控えている。部屋の端っこには鉄もいる。


「それでは………」


米国大統領の案件は30分ほどで話し合いを終えて、カラオケ大会と食事会についてはたっぷり2時間かけて話し合った。

その際のドレスコードとして香水の禁止と匂いがする整髪料の禁止なども盛り込まれた。実に遥ファーストな会である。

学長の参加も承認されていよいよ小野田というよりも遥と官学の癒着が親密化してゆく。

それはいずれ遥の力となるのだろう。

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