94.アンコウ鍋の罪
遥達は2年生になった。倉持友梨佳も新入生として入学してきた。
一般教養の授業も受けつつ遥らにくっついて出張講義をほぼ全て受けるつもりだそうだ。しかも習志野駐屯地での講義も受講を許可されていて、彼女も単位が貰えることになったのだとか。
倉持はマギプロジェクトの謂わば恩人であり、研究者連中からも歓迎されている。何しろ聡明で意思表明がはっきりとしていて彼らからすれば馴染みやすい。そして遥に対してかなり強めの好意を抱いており、親しくしながらも遥を立てているのが傍から見ていても分かるのだ。
彼らの聖女様へのリスペクトが感じられる若き天才に研究者らも好意を持ったということだろう。
「友梨佳ちゃん、明日から先ずはDr.ヘインズの講義だけど、受ける?」
「勿論。素粒子系でもかなり異端なDr.よね? 米国で学生やってるときにも一度だけ受講したけれど、ものすごく刺激的だったの。またあのヘインズ節が聴けるなんて、遥ちゃんのお陰よね」
「むしろマモルちゃんとクロエさんのお陰だよ。私は………ただの子羊だから」
「まだ生贄意識が抜けてないんだ? 遥ちゃんは皆んなのアイドル、いや、違うな。御本尊なんだから、ドンと構えていればいいんだよ」
「そして拝まれる」
「遥ってばまだそんな事いってるの? そんなら明日からは覚悟しなきゃね?」
「………何をッスか?」
「色々と聞いているのだよ、アタシは。ま、明日のお楽しみだよ」
「学校休むか………」
「士気の著しい低下待ったなし!」
「うぐぅっ! マモルちゃんにもなんかそういうこと言われた………」
「だろうね。ま、御本尊はそこに居るだけでいーんだよ。だからさ、施無畏与願印にて座していれば時は過ぎてゆくさ」
「妙な知恵を………よし、覚醒状態で受講するか」
「あら、遥ちゃん。覚醒状態ってなに?」
「機密事項ッス」
そこへずっと黙っていた有理の渾身のツッコミが。
「遥には秘密がいっぱいだからね。アンコウ鍋とか」
「「「ブハッ!」」」
倉持までもが噴き出す激アツネタ。学長名で事実無根との声明まで出される始末だ。未だに信じ込んでいる奴等が多数いる。しかも大学外にまで頒布されているアホらしさ。
「アングラ系の裏アカサイトなんかでもとりあげられていてさ、東大医学部と何処ぞの薬学部が秘密裏に開発した万能鎮痛剤で、処方をいじると習慣性無しに飛べるんだってさ。しかもセックス前にキメるとイキ地獄に堕ちるんだとか? わたしも是非キメてみたい!」
「「「わたし(アタシ)も!」」」
…………………
「「「「プハハハハ………!」」」」
大爆笑だ。
そこへ結城蛍がやってきた。
「あらぁ、楽しそう。どんなネタなの?」
倉持と有理が解説する。
「ああ、アレね。学生達と旅行に行って、なにか気持ち良くなることしたとか、私自身としても報告出来ないから、会議とかで笑いを堪えるのが大変よ?」
「およ? パブリック向けの良識はお持ちなのね? 蛍ちゃん。少し安心したよ………いや、やっぱおかしいだろ!? こんな美少女のさらに幼少時に肉体関係持つとか!」
「有理ちゃん、赦してあげて? 私が我慢出来なかったの」
「その時蛍ちゃんは抵抗した?」
珍しく遥が色ごとについて問う。
「………しなかったかな? むしろ前戯無しで出来上がっていたような?」
「口づけでイッたくらいには高まってたかな? あの頃から友梨佳ちゃんの触り方はエロースの息吹に満たされていたわ」
「何を詩的な言い方してるんだか」
「ね、遥。アタシのお触りはどう?」
「初めの頃は中2男子。佐倉レクを受けてからは熟れた古強者。但しがっつき気味なのは変わらず」
「………うん、自覚はある。がっつき気味なのは………嫌?」
「それだけ私が好きなんでしょ? ならば已む無しだよ」
少し呆れ顔の結城蛍がツッコむ。
「遥ちゃんってば凄い自信ね? でもまぁ、うん。分かるかな」
マモルの個室なので会話がかなり赤裸々。
「お茶にしましょうか」
倉持友梨佳が声をかけてティーセットを棚から取り出す。
優子は持参した焼き菓子を皿へ並べる。有理が茶葉と湯沸かしポットをテーブルへと持ってきて、蛍が友梨佳とお話しながら紅茶を淹れている。
遥は砂糖と蜂蜜を奥の棚から取り出すついでに室内防諜クリーニングの処理報告書を確認する。
全員で諸々準備して香り高い美味しい紅茶をいただいた。優雅で楽しい午後の一時を皆んなで堪能したのだった。
「あ、そう言えばクロエ女史の講義が予定表に無かったんだけど、なんで?」
「あ、来月はくるそうだよ? 今月はちょっと立て込んでて無理だったんだって。蛍ちゃんも受講する?」
「是非に!」
「それじゃあ蛍ちゃんの講義スケジュールとかちょうだい。クロエさんには蛍ちゃんの時間が取れるタイミングで来てもらうから」
「! 遥ちゃん大好き!」
「こらこら、友梨佳ちゃんが見てるゾ?」
「あら、いやん」
「昭和の香り漂う“いやん”だよな」
「有理、まるで昭和を知っているかのような物言い」
「爺ちゃんや親に古いのを散々見せられたからな。染まってはいないけど知ってはいるんだゼ?」
「私、昭和じゃないよ?」
「「「えっ?」」」
「なあに、その驚きは? 私は平成元年生まれだよ?」
「「「マジかぁ」」」
そこで倉持友梨佳が疑問を投げかける。
「あなた達って信じられないくらい息があっているわよね? タイミングだけじゃなくて発言までも同じなんて………まさか訓練とかしてる?」
「「「まさか、ないない。あっ」」」
「ほらね?」
まぁ、楽しい午後であったそうな。




