92.美味しい旅
昼食後は鋼鉄の精神で優子の手技を凌ぎきり、景勝地なんかも経由しながら無事に宿へ辿り着いた。
「優子、指ふやけてね?」
有理がニヤニヤしながら優子の手を見ている。
「………舐める?」
優子は動じない。性欲に素直で正直な自分に誇りさえ持っている。だってそれを行使する権利をもぎ取った自分。それを受け止めてくれる恩人の遥。全てが誇り、全てが憧れ。与えられるだけだったあの頃とは違うのだ。だから自分を誇れる優子である。
そんな優子の指先の匂いを嗅ぐ有理。
「あ………遥の匂いがする」
やっべ、今夜………遥と………優子も同じ部屋だっけ?
我慢できなきゃ………3Pか?
この歳であり得ない経験値が積み重なっていく。いや、流石に優子まではちょっと……
「今夜、三人でしよっか? 今更なんも恥ずかしいことないでしょ?」
「先読みされた!?」
「二人掛かりで遥を……舐め回すのよ?」
「それって遥の身体を介した優子との間接キッスじゃん」
「不満か?」
「………やったるわ」
覚悟は決まった。まだ明るいうちに。
◇◇◇
「アンコウ鍋、初めてかも」
「優子んちって鍋物やらないの?」
「パパがグロい見た目の魚とかダメだったから………ママは愚痴ってたけどね。パパがいない時に色々やってたけどアンコウは食べた記憶がないな?」
「家は冬には何回かやるよ。兄貴も好きだし」
「家も一緒かな。龍美母ちゃんと父ちゃんも好きだし、私や修も好きだからね。みそ仕立てが旨い。あ、そうだ、優子の泊まりの日にやってもらおうか?」
「いいねー、とは言え先ずはお味見を………美味っ! 何これ、マジ美味いじゃん! パパ、ふざけんな! アンタのせいでこんな美味いもん知らずに生きて………食べれば良かったのに。パパ………スゴく美味しいよ?」
隣に陣取る優子を優しく抱きしめる遥。
「パパの代わりに色々経験してさ、幸せになれよ? 私が付いてるから、ね?」
「…………ズルルル……うん。遥、好きだよ」
「私も好きだよ」
「妬けますね。二番手とか言いながらちゃんと芯から繋がってるじゃないですか。蛍、ああいうのも良いですね?」
「ええ………本当に」
有理はお絞りで顔を拭いている。だが目が赤いのでバレバレ。
その後は皆んなでワイワイと鍋をつついて最後のシメまで美味しくいただいた。
そして遥達の部屋で駄弁ってから22時頃には倉持、結城ペアは二人部屋へと離れて行った。
因みに遥達の部屋は4人部屋で、この二部屋だけは離れの建屋にある。つまり声や音出しによる苦情は出にくい立地ということだ。但し………微かに蛍の声が聞こえてくる。それと同時にまるで調教でもしているかのような倉持友梨佳の声も聞こえてくる。
同じ建屋内なのだ、そりゃあ聞こえるだろう。それにしても部屋入りして直ぐに? なんてお盛んなのだろうか。
「ねえ、遥………アタシらもさ、しよっか?」
「え? 有理もいるよ?」
「遥ぁ、皆んなでしよ?」
「なに、その割り切りの早さ! アンタ良識はともかく常識だけは有ったほうじゃん!」
「今更だって。もうさ、遥は存在自体が非日常なんだよ。それならわたしもそれに染まる。だから………しよ?」
二人が躙り寄る。遥は後ずさる。その小さな追いかけっこは壁に背を着けて終わりを迎えた。壁の向こうから喘ぎ声とも叫び声ともつかない色香漂う甘い空気感が伝播してきた。
「「さあ、脱がせてあげる」」
こちらでも甘い時間が始まる。なるべく声を抑えなきゃと一応自分に言い聞かせる遥であった。
◇◇◇
宿で美味しい朝食を頂いて、8時頃チェックアウトした。
今日は車中で関東の仲間外れ扱いされていた栃木県へとクルマを走らせる。日光でお参りして渋滞のいろは坂をのんびりと上り、華厳の滝、戦場ヶ原を巡って沼田方面へとかなりのハイペースで駆け抜ける。そうして夕刻には都内へと至り、倉持友梨佳と結城蛍を自宅前で降ろして別れた。
そんで今夜は三人でもう1泊。都内の高級ホテルで政治家のオッサンら、というか、ジイさんらと待ち合わせだ。もう、あんまり煩いんで、已むを得ず了承したのだ。
「おお、我が姫、我が聖女様。お待ちしておりました!」
「ご無沙汰しております。お招きにより参上致しました。以前の申し合わせの通り三人で」
「総理、ちわッス」
「遥には触らないように」
「やぁ、有理ちゃん。こんばんわ。優子ちゃん、勿論触れたりしないよ。三人とも、今夜は宜しく頼むよ」
「オレもな? 他にもいるんだが、部屋に待たせている。移動してもいいかい?」
「うん、麻尾さん。案内してくれる?」
「おう、任せろ」
そうして始まる………カラオケの集い。ジイさんらに混じり幾分若い58歳のオッサンがかなり遥らによせた選曲をしてなんとかノリを維持しながら会を継続している。
派閥違いだというオバサンも参加しているのだが、この人がめっちゃ上手い! シャウトがキマってる! なんと楽器演奏もできるんだとか。しかも以前は単車にも乗っていた? もう遥がノリノリで話し込む。
優子は………まぁ、安心してそれを眺める。有理はドライな自分に蓋をした。何故か接待魂に火が付いて乗せて乗せて乗せまくる。
ジイさんらは気持ち良くど古いフォークソングを歌い、ど古い洋楽を歌い………みんな意外と英語が上手い!
サイモンアンドガーファンクルやビートルズ他を歌い尽くすとあるジイさんがめっちゃ上手いし。
この日、有理の隠れた才能が花開いた。ジイさん殺し。誰もがメロメロだ。勿論魂は遥に捧げているのだが。
そうして二泊三日の旅の夜は更けていく。
勿論その夜も遥は二人に貪られた。




