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はるかの日々  作者:
90/175

90.小野田一族の新年会

小野田一族恒例の新年会。

族滅回避の為に総員が集まることなどあり得ないことなのだが、今回は全ての一族が招集された。

それに比例して会場となった鉄邸はサミット会場にも引けを取らない厳戒態勢が敷かれている。


「皆のもの、よくぞ集まってくれたな。海外からはるばるやってきた者、仕事で一箇所に長く詰めていた者、様々に抱えた仕事を一時的に離れて態々来てもらったのは一族の未来に大きく関わる発表があるからだ」


一同は静かに鉄の話に聴き入っている。上座には鉄に並んで要が座っており、その両脇には常ならば左手に翔、右手に茜が座していた。しかし今回は茜の更に右手に遥が座っていた。


「この席次が物語っておろうが、この度茜の子、遥が免許皆伝となった。さらに師範の位も授けた」


俄にざわつく場内。


「この決定は一族を割るものではない。あくまでも一族の未来に資する役付けだ。もう皆は知っていようが、遥は魔法の使い手であり我らが師範でもある。この魔法を………一族の皆に授ける為のこれは布石だ」


「「「「「「おおー!」」」」」」


皆が感嘆している。


「遥は魔法を以て翔を降した。勿論魔法無しでははるかに及ばぬのだが、それでも魔法は力だ。今後は世界に広まること疑いない、理を越えた力だ」


幾人かが頷いている。


「始めは弓、やがて銃火器へ備えた我らでも魔法への備えは絶望的であった。遥や伴侶のマモルの真の力を見れば分かる。アレには抗えん、人外などと生温いものではない。超越者とでも形容しようか、神にも近しい絶対的力………」


誰しもが険しい顔を浮かべる。流派の存在意義が問われているのだ。当然であろう。


「まぁ、そのレベルは核兵器に抗うようなモノだ。対処不能な案件だな。だが一方で魔法はすべからく対処不可能であるのか? 答えは否だ。他ならぬ遥が導き出した答えだ。その気付きは小野田に未来という希望をくれた。それ故の師範でもある」


皆の表情から険が取れた。数人は遥をにこやかに眺めている。


「本日はこれより新年会を催し、明日は富士山へと皆で赴く。課していた鍛錬はしていような? 運のある者は或いは明日、魔法に開眼するやもしれぬぞ? フフフ、明日は遥師範に刮目せよ!」


「「「「「「「「「「はっ!」」」」」」」」」」


鉄の挨拶が済み、要の音頭で乾杯をして新年会は動き出した。



一頻り飲み食いをした者らが鉄から順に要、翔と挨拶をしてゆく。そしていつもは不参加の茜へと赴きその隣の遥にも挨拶をした。

一族の誰しもが認める実力者達。

そこに新たに加わったのは皆が知る、皆が慈しんで止まない姫の子であり、当代の姫だ。年嵩の者ほど眉尻を下げて遥に接する。

遥からしてもここにいる全員が小さい頃からの馴染であり、近しい親戚の伯父さん叔母さん、そして従兄弟らだ。15歳以上で目録となった者だけが参加できる新年会には遥より年下は修以外いない。だから安心して緩い自分でいられた。


若い子らが集まるような催しだと稀に勘違いした男の子なんかが遥を落とそうと近寄ってくる。あとはそっち系のお姉さんなんかも。かなり鬱陶しい。だからそうした場で遥は殆ど喋らない。修を弾除けに使い丸投げだ。

だがここではそうした気遣いは不要だ。まあ、以前は「うちの息子なんだが、少し技をみてやってくれないか?」なんていう下心見え見えのお誘いなんかがあったりもしたが、マモルと伴侶となる決定がなされてからはそうした行いも影を潜めた。


「遥、魔法無しだと翔には敵わんのか?」


祖父である要の二番目の弟である伯父さんから問われた。


「うん、無理。父ちゃんはやっぱり小野田流最強だったよ。もうね、魔法使ってもギリギリだったし、マジもんの化け物だよ」


「父ちゃん?」


「うん、あれからは父ちゃんって呼んでる。小さい頃とは違うから………勘違いはしてないし、でも私の父ちゃんは父ちゃんだけだから」


「お、おう。そうか、翔もその辺りにはかなり悩んでいたからな。そうか、うん、良かったじゃねえか。こりゃあまた翔のとこへ逆戻りせにゃあな」


「アハハ、父ちゃんは喜んでくれたよ? 龍美母ちゃんも母ちゃんだし」


「………茜は?」


「母ちゃんだよ。当然じゃん」


「そうか、うん、そうか。お前は小野田の宝だからな、我らが姫として健やかにあれよ?」


「姫って………まぁ聖女よかましか」


「うちの兄弟末っ子は聖女の下僕だかに加入してるぞ? アレはなぁ、まあ、うん。そっちも頑張れ、な?」


「頑張らないから!」


「母さんね、聖女はいいなって思うんだけど」


「いーやーだー。マジで嫌!」


そこへ当の本人である快がやってきた。


「おぉ、聖女様。あ、いや、姫。相変わらず神々しいまでの美しさよ」


「快伯父さん………マジで止めてくんない? もうね、嫌いになりそうだよ」


「………それでも下僕は止めない。そう誓ったからな」


「キモい!」


「くぁっ! 太刀で貫かれたような痛み………クソッ、いいな、これ」


「やだ………変態………生まれ変わらない方の変態がいるよ? 母ちゃん助けて」


「あらあら、遥ちゃんってば、こんなの普通よ? 鍛錬だと思って当たるといいわよ? 遥ちゃんなら5年、いえ、2年もあれば姫から女王になれるわよ。あらぁ、楽しみ」


「現役からの助言………助けてマモルちゃん」


この会には一族ではない伴侶は参加出来ない。よって龍美や優子、マモルも不参加。異常者に囲まれた遥はたった一人でこの場を凌ぐより他ない。

事前に魔力滞留を目一杯に溜め込んだ遥はかなりの魔法が使える。水や風や火はあとが大変だからこの場では使えない。ならば………近頃やっと発現するようになった光を。


「快伯父さん、痛くするよ?」


「望むところだ!」


レーザー光が瞬いた。音はしない。無音の光線が快の左耳に小さな穴を穿った。


「な、何が!?」


「天罰!」


ざわつく室内。鉄と要、翔までもが腰を上げる。


「「「何をした?」」」


「光魔法でレーザービーム?」


「「「「「「「「レーザービーム!」」」」」」」」


やられた快までもが一緒に叫んでいる。


「また小野田に新たな力が………」


鉄がなにやら呟いている。


「アレは躱せないだろ。まだ隠し技があったなんて………遥、お前は………さすが我が師たる器」


翔は負けたのだと改めて自覚した。あの場では敢えて躱せる水魔法とトドメの風魔法のみを駆使して反則級の光魔法を行使しなかった。それは戦いを成立させる為の遥の気遣いなのだろう。そんな事を思った。

まぁ、光魔法が制御出来るようになったのはつい最近で、あの頃は自傷しそうに危険技だったから使わなかったのが正解なのだが。


「フフフ、変態伯父さん。次は何処にピアス穴空けて欲しい?」


決まった。ご満悦な遥。


「いい………なんだ、このドキドキは? あぁ、遥姫の一刺しの甘美なること………ハァハァ………」


「い、嫌あ〜! マジで嫌! 3m以上近寄らないで!!」


「快、離れようか。もういいだろ? ほら、行くぞ」


次男の伯父さんに連れ添われてその場を離れる快を見てハァーっと大きな溜め息。


「さすが遥ちゃん。キスが黄金どころかレーザービームでメロメロなんて私の想像のはるかに上を行くのね?」


「やめて!」


力は無闇に振るうものではない。長じるほどに使い処を選ぶもの。散々戒められてきた筈の基本をしみじみと噛み締める遥であった。

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