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はるかの日々  作者: 鮃
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13.初デート

計画通りに事を進めて午前10時、5分前にマモルの家の前に立つ遥。

僅かな躊躇(ためら)いのあと、呼び鈴を鳴らした。

数秒後にインターホンのスピーカーから少年の声が。


「ハルカ! 直ぐに行くね」


………既に可愛いい。本日の期待値がギュインと上がる。

ソワソワしながら門の先の玄関を見つめる。

あ、親とか出てきたらどうしよう?

平日の午前中に年下の美少年を連れ回す女子高生は………反社会的と思われないだろうか?

ヤバい。そこへ想いを致すことを失念していた。唐突に不安感がグワンと頭をもたげさっきまでの高揚感が急落する。

そんな焦燥にかられた直後、玄関扉が開きマモルが一人で現れた。

施錠をしてから花々に彩られた庭をコチラへと小走りに近付いてくる金髪の妖精。ギュギュギュインと沈みかけた気持ちが天を突く。

上がったり下がったり忙しいことこの上ない。


「ハルカ、お待たせ。さぁ、行こう!」


「えぇ、何処までも!」


何かが噛み合っていないご挨拶。普段の彼女を知る者が見たら驚愕間違いなしの遥の表情とリテラシー無視の対話である。


手を繋いで歩き出す二人。

因みに昨日はマモルと別れた直後に物陰に潜んでマモルの手を握っていた自分の手指を舐め回している。

初めてのフェティシズム、初めての性欲、初めての恋。全てがない混ぜとなり、もはやどうしてよいのか理由もわからずにネットの海を彷徨うしかない夜を………そこで自身を慰める術を知り………実践した。

だが、その指を中へ入れるのは違うと思った。そこはマモルにこそ………マモルを最初に迎え入れるべきだと………だから今日は………致さねばならない。

だって今もモンモンとしている。


だががっつくのは宜しくない。前のめりの男子どもの鬱陶しさは興醒め以外の何物でもない。スマートにいこう。自然に、流れるように………昨晩予約したホテルへと誘導しよう。プランも完璧だ。その筈だ。多分大丈夫だ。きっと…………。


「ハルカ、今日はどこへ連れて行ってくれるの?」


「互いをより深く知るためには沢山お話して、全てを見せ合って……鼓動までも感じ合うのが近道だと思うの。その為には邪魔が入らないお部屋に二人っきりで籠もるのが良いとネットにも書き込みとかがあってね? ただ、予約したお部屋には13時以降じゃないと入れないからそれまではお茶をしたり、お食事したり、お散歩したり………ね?」


長セリフを早口でつっかえることなく滑舌も滑らかに説明する遥。

けっしてがっついている訳ではない。少なくとも本人はそう信じている。


「………ふーん………ねぇ、ハルカ。ハルカってさ、強いでしょ?」


予想外の方向から弾が飛んできた。


「へ? なんで?」


「だって昨日隣で寄り添ってくれたでしょ? すっごい筋肉だったもん。アスリートっていうよりも武道家って感じの筋肉だよね?」


正解。小野田流では筋トレはしない。むしろ禁止。

指先や拳を鍛えるとかもしない。

打撃は掌底、肘、膝、踵、指先を折り曲げたつま先、それら鍛えずとも硬い部位のみを使用。インパクトの瞬間に全身の捻り込みを一点集中することで発勁のような効果を相手体内へ深く打ち込む。

靭(しな)やかさと柔軟さと瞬発力。それらを養うには動作に資することのない筋肉はむしろ邪魔となるのだ。

技を実現する為だけにある筋肉。実践の為の実利的筋肉。それが遥の筋肉である。

野生動物は筋トレなどしなくとも強い。生まれ持った適性と日常があるのみだ。

しかしだ、マモルは何故それを理解しているのか? 武道家の筋肉だと確信しているのは何故か?


「マモルちゃんは………格闘オタクなの?」


「違うよ、いや、違わないかな? おじいちゃんが古武術の師範なんだ。ママも達人だよ。そしてボクもね、小さい頃から鍛錬しているんだ」


「そうなんだ。ちょっと身体触ってもいい?」


「うん」


肩から腕、背中、首回り、セクハラには見られにくい部位をさらりと触れてゆく………


「ふむ、打撃系の技はあんまり無い、合気柔術みたいな系統の流派だね。この辺でそれ系だと………新堂流かな? あ、そう言えばマモルちゃんちの表札、新堂だったね。そうかぁ、古武術系ね、そうかぁ」


マモルはびっくりした顔をしている。


「スゴイや、ハルカ。身体に触れただけで系統が分かるなんて! ねえ、ハルカの流派も教えてよ?」


「あー、ゴメン。それはね………マモルちゃんのおじいちゃんにね、聞いてみて? 私の名前、小野田遥っていうのは昨日教えたでしょ? この辺の人で小野田って聞いてみたら………分かるよ」


「有名なの?」


「極一部でね。うちは家内相伝だから弟子は取らないし、他流試合も禁止だから、一般には知られていないの。でもこの界隈の武道家なら知っている筈だから」


マモルが何やら考え込んでいる。やがて意を決したように顔をあげて遥へ強い目を向けて言った。


「組手をお願いします!」


「………この後のホテルでね?」


合意形成はこうして成り立った。

本当にそうか?


公園で足運びの形を披露するマモル。それに助言と指導をする遥。

言われた通りにしたらなんかスムーズに体捌きが出来るようになり感激するマモル。

何だか実によい雰囲気である。

その際公園に居合わせた人々。その目の保養になる和の麗人と洋の天使のブッキングは尊いことこの上ない。周囲の人々に鮮烈な記憶を残した。彼らは去りゆく二人を何時までも目で追い続けるのであった。


昼食は和でも洋でもなく中華にした。点心と雲呑のスープが売りの名店だ。当然予約してからの来訪である。

マモルは器用に箸を使い実に美味しそうに食べている。


「スゴイね、美味しいね! ハルカといるとなんだかね、ずっと幸せな気持ちになるんだ。なんでかな? アハハ………」


もはや人外ともいえる遥は目眩と動悸に見舞われた。その魅惑の笑顔には抗えず、もはや乞われれば言われただけ貢ぐ女の奈落へと………落下中。

コレだけの手練手管で意図なく、無意識になど有り得ようか?

エゲレスからの刺客、恐るべし!


「うん! マモルちゃんと一緒だから私も嬉しいよ!………だから………組手しに行こうか?」


「うん、楽しみだね!」



チェックインが機械受付となっているホテルのロビー。玄関先にマモルを残し、記帳を済ませて受付も完了。エレベーターのボタンを押してもうすぐ到着というタイミングでマモルを呼び寄せる。

扉が開き、無人なのを確認したら速やかに二人して乗り込む。7階でエレベーターから廊下へ。715号室へと向い、解錠、内部の壁面に取り付けられたホルダーへ部屋キーのカードを差すと灯りがともる。


割と広めの部屋にはダブルベッドが鎮座している。

そのダブルベッドを一瞥しただけで何かが高まるのを感じる。膨張する、発火しそうな、荒ぶる如き………遥は今日、女になるのだ。きっと、必ず、絶対になるのだ!

そして狩るべき獲物に鋭い視線を向ける。


「広いね? それじゃあ組手、お願いします!」


あろうことか、獲物のほうが襲い掛かってきたではないか!

初手から立て続けに連続技を打ち込んでくる。基本的には投げ技がメインの流派なので、打撃技の殆どが捨て技であり、掴むのが目的。蹴りも足払いに変化したりとか、中々工夫されている。マモル自身の動きも制御されキレもある。早さはまだまだだが、仮にルールを覚えて高校生のインハイとか出たら軽量級あたりで全国上位へ行けそうなレベル。

うん、可愛い。

遥は払い避けなどせず、全て躱して一切触らせない。どれほど近接していても指一本すら触れない。それがもどかしくてマモルは更に熱を籠めて遥に向かってゆく。

5分くらい経過したところで遥は気付いた。自身の致命的ミスに。「触ってもらわなきゃ! なに避けてるの私!?」方針は直ちに変更となった。

遥の右腕がマモルの振り切った右腕肘辺りにフワリと触れた。

次の瞬間宙を舞うマモル。そしてダブルベッドの上にうつ伏せで落下する。直ぐに起き上がろうと力を入れたが身体が動かない! 壁に掛けられた大きな鏡にはベッドの上に立ち片足のつま先で背中を押さえる遥が見えた。手すら使わずに完璧に全てを制されている。完敗なんてものではない。次元が違う。母相手でもここまで絶望的な差はないのに、こんな………。


「さぁ、次は………寝技かな? あ、その前に、服が皺になるから脱ごうか、ね?」


屈み込んだ遥に抵抗する間もなくパンツ一枚にされるマモル。キレイな遥に裸体を晒す羞恥に頬を赤らめ明後日の方向を向いていると………「コッチ向いて?」と声がかかり遥を見る。

そこには一糸纏わぬ女神の如き女神がいた。折角の勝負下着まで脱いでいるうっかり女神が。

余りの力量差から尊敬は崇拝へと至り、余りの美しさに憧れも崇拝へと偏移した。その果に………女神の裸体があった。

マモルとて13歳の健康男子である。当然性欲がある。しかも他者よりも多めな性欲が。だが、自制心も人並外れて涵養(かんよう)してきたつもりだ。

初対面の昨日だってそうした欲求には蓋をして、導かれたような不思議な出逢いに想いを委ねて努めて思いやりと慈しみを持って接したつもりだった。

今だって敬愛を超えた尊崇にも近しい想いが彼女には向けられている。いや、いた筈だ! なのに………唾を飲み込むマモル。自身の股間がムクムクと頭をもたげ始めているのをもはや止められない。


「ハルカ? 何故裸なの?」


遥の視線はマモルの股間に釘付けとなっている。


「………マモルちゃんは私と………したい?」


「……………………………………うん」


遥は脳内に優子を呼出した。あの子ならこの後どう動く?

そうだ、あの時もまずはキスからだった。だから………キスをした。


それからの僅かな時間、それは耽美な一時であった。だが、若い二人には人並外れた情熱が内包されていて、人並外れた体力も具備していた。


一応、日のある内に部屋を引き払い帰宅した。

手を繋いで二人で夕刻の街を歩いて帰った。実に幸せそうな顔をして。

後述しますが避妊は完璧ですからごあんしんを。

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