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はるかの日々  作者:
103/176

103.雑談

優子と有理、それに倉持友梨佳と結城蛍も同席して食事会は行われた。

オッサン、ジイさんらの面子は前回に加えて鉢屋学長が新たに参加している。あとは紅一点の竹市女史。政治家や学長らとは別枠として佐倉も参加している。


さて、学長が言い出しっぺの国立大学入学後の別学部単位取得は文科省事務次官決裁にて既に認可が下りている。

それを受けて遥は来週から文化人類学の講義を取ることになった。

だがこれを決める際に一揉めあったのだ。


「なんで? なんでフランス文学を取らないの!? 面白いよ、フランス文学! 価値観が拡がるよ? フランス文学! リリカルでシニカルだよ? フランス文学!!」


「………無理」


「どーしてよ! ねぇ、友梨佳ちゃん、友梨佳ちゃんはフランス文学取るよね?」


「………無理」


「どーしてよ!!」


なにやらフランス文学に偏見だか隔意だかがあるらしい二人は蛍の目を見ようとしない。


「…………有理ちゃんは?」


「何故アタシには聞かない?」


「だって優子ちゃんはフランス文学って感じじゃないし?」


「偏見だぁ! 耽美とかアンニュイだとかシニカルじゃなきゃフランス文学は齧れないのか!? じゃあアタシは何文学なのよ?」


「………落語?」


「「「ブハッ!」」」


「ぶっとばすゾ!」


ヒハァ〜プハハハハ! 大笑いの一同。蛍までもが笑っている。


結局有理だけが試しに受講することになった。



◇◇◇



卓を囲み歓談する皆々。敬語はほぼ排してタメ口に近い会話がそこかしこで交わされている。


「それでフランス文学は誰も取らなかったと? あ、有理ちゃんは取るのか。いやぁ、私が現役ならば蛍ちゃんの講義、取りたかったな」


「小山さんって法学部でしたよね? 文学とか眼中にないでしょ?」


「………まぁ法学部だしな。あれは文学的なもんを引きずってはダメな分野だからなぁ」


「なぁ、遥ちゃん。なんでフランス文学はダメだったんだ?」


「………麻尾さんだから言うけど、蛍ちゃんってフランス文学の入り口がラ・ミゼラブルだったって………アレを原文で読み下す所からキャリアを始めた人の心情がまず理解できないし、この人基本的に悲観的で後向きで………粘着質で、そんな人の講義を聞き続ける自信が………全くないんで!」


「本人にも聞こえる人格否定! 酷すぎる虐め。遥ちゃんがそんなふうに私を見ていたなんて!」


「あ、いやちょいちょい言ってたよね、私」


「友梨佳ちゃん、違うよね? 私のこと可愛いって言ってくれてる友梨佳ちゃんなら………」


「あ、いや、基本的には私の見解も遥ちゃんと一緒だよ? ただね、その上で蛍は可愛いんだよ」


「なっ! どうすれば? 悲しむべきか喜ぶべきか………文学的命題にも通じるこの悩ましさは………はっ! 私を成長させる為に? 友梨佳ちゃん、私は友梨佳ちゃんにずっとついて行くからね?」


「めでたしめでたし」


「どんとはれ」


「どんとはれとか、よく知ってるな、有理ちゃんよ?」


「岩手の遠野とかの昔語りする婆ちゃんらのシメの言葉ッスよね。他にもバージョンがあるとか」


「ネット知識かい? にしても良くそこに興味を持ったな? ああいうのもそれほど無為ではないってことか」


「岸辺さん、本来的には情報はお金を出して買うものですよ。だから書籍を買って読むのが推奨なんですがね。ネットはリテラシーがないと騙されたり誘導されたり、それこそ無為に時間だけ取られたり。彼女はリテラシーが高いのでしょう。会話の端々に確かな知性を見て取れますし、思想誘導を受け付けない強さも感じます。

ねえ、有理ちゃん、卒業したら私のところに来ない?」


「アハッ。竹市さんに誘われるとか、遥が嫉妬しそう。スゴく嬉しいッスよ。でも私はマギへ行く予定なんで」


「あー! 取られたか。そりゃあマギは魅力的よね。

ねぇ、有理ちゃん。貴女は政治力を育てる素養があると思うの。そのリテラシーで、その政治力で、姫を、遥ちゃんを助けてあげてね?」


「言われるまでもないッス。私も遥の女ですから」


「まぁ、羨ましい!」


「男には踏み込めない会話だな。私も女に生まれていれば………」


「学長、そっち系のお勧めラノベ幾つか紹介しましょうか?」


「………頼む」


「夏休み明けに学長が女装で登校!」


「何それ、ちょっと、いえ、かなり見てみたい!」


「結城君、読み物に影響される度に性別までも染まるというのは良くあることなのか?」


「………ありませんね」


「君は姫達に染まり過ぎだ。ま、それすらも羨ましいのだが。その立場は君の宝だよ。自覚はあろう?」


「ええ、勿論です。こうして友梨佳ちゃんと再会できたことも含めて遥ちゃんのお陰ですから」


「友梨佳ちゃんは倉持だったよな? あの砧の倉持かい?」


「はい、そうです。何故に財務相がご存知?」


「そりゃあ知ってるさ。はあー、大地主だな。その娘がこんな美少女で美女を侍らすご身分だとは………羨ましい。どの角度から見ても羨ましい」


「倉持家って有名?」


「なんだ姫、知らなかったのかい? 都心含め広大な土地を有する不動産王だよ。とは言え事業としての規模は小さいのだがね。所謂不労所得で稼いでいるような家系だな」


「あ、うちの本家と一緒だ」


「小野田はそれ以外の資産がえげつない。要氏が管理する株式や各種事業、それに国債とかの安定資産なんかも………姫が日本国に嫁いでくれたら国庫は倍化するだろうな」


「国の嫁! 吐き気がしそう!」


「酷いな!」


「やっぱり遥ちゃんの実家は突き抜けてるね? ねぇ、私に嫁いで?」


「友梨佳ちゃんは魅力的だけど蛍ちゃんに刺されそうだからパス。それに私はマモルちゃんのだから」


「アタシのでもある」


「そーだねー、優子のでもある」


「私は?」


「楓ちゃんのでもある」


「わたしは?」


「有理のでもある」


「「「「「「まだ隙がある!?」」」」」」


「「ねーよ!」」


「皆さん、政治生命が終わりますよ?」


「佐倉君のは洒落にならないじゃないか………アイツは今も地元で謹慎中」


「皆んなスネに傷があるんだね。それは私でも癒やせないなぁ」


「「「「「「「「はぁ〜………」」」」」」」」



楽しい楽しい食事会の時間はこうして過ぎてゆく。


そしてカラオケ大会へと移行する。

誰もが笑った楽しい夜だった。

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