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はるかの日々  作者:
100/168

100.タロットの懺悔

周辺に多数配置してあった自衛隊の特殊作戦群の隊員らは事態の発生直後から各員が自律的に稼働し、さらに佐倉からの指令を受けて警察とも連動し、効率性を増して策動した。

結果、実行犯とその観測員らを速やかに発見し制圧した。どうやら南米の麻薬組織からの長い手らしい。

一通りの調査、取り調べをした後、米国大使館へと引き渡した。

本来国内犯罪であって日米地位協定が及ぶところでもない。テロ犯罪の容疑者として日本の司法で裁くべき事案なのだが、諸々有ってタロットの顔を立てることとなったのだ。



あの襲撃直後、ミシェルとタロットは怪我の回復はしたものの、出血が多かった為に立って歩くことが出来なかった。SSらに支えられながら大統領専用車へと運び込まれてそのまま米軍基地の病院へと移送されて行った。

そうして翌週末、岸辺を通じてタロットに呼ばれた遥は厚木基地内のとある応接室へと赴いた。人払いされ、室内には遥とタロットの二人だけ。


「Missハルカ。私はあなたに謝らなければならない。私は勝手な妄想によって貴女を貶めるような発言を多々行い、全く根拠なく貴女を………その、淫魔などと………我が麗しの聖女様になんてことを………ここに懺悔し、償いと贖いを以て貴女に赦しをこいねがうものであります。どうか………どうかお赦しを」


「そんなのいいんですよ。知らない同士なんですから、好き勝手なイメージで馬鹿にしたり貶したり。誰もがやっていることだし、まぁ、人の業みたいなものじゃないですか? 皆んなの………なんて云うのかな、あ、原罪みたいなもんですよ。私だって背負ってる」


「おぉぉ、聖女様。我が至誠を捧げましょう。神が人の世に下された奇跡の使徒よ。貴女こそがこの穢れた世界を正して君臨すべきお方。貴女の周りに侍りし同胞と共に世界を捧げましょう」


「その考えがもう俗物のそれだよね。私の望みなんか知ろうともしないで好き勝手言って! 私、そういうの嫌い」


「はあうっ! 如何様にも、如何様にも致します。啓示を下されませ!」


「私は家族や友達や………伴侶と楽しく幸せに暮らせればそれでいいの。地位も身分も権力も望まない。そういうのはそれをうまく使って役立てる人が持てばいいんだよ」


「………ならば私は自らの権力を使い貴女が望む世界に」


「それでいいんじゃないですか? 私には分かり合えない人達の調整だとか無理だし、そもそも分かり合える訳ないし。政治家がそれをするのならば欲心の多寡に拘らずどうぞ頑張って下さいですよ。私の興味はそこにはないので」


「………私に限ったことではありませんが、そうした調整には力と圧力が必須です。日本は限定的な領土内で長い時間をかけて融和と調和を成し遂げてきました。そんな日本人には理解しがたいでしょうが、多種多様な雑多な人々は纏まらないのですよ。日本という国は言ってみれば奇跡の国なのです。そんな国に貴女が生まれた。それはある意味に於いて必然だったかもしれません」


「あー、崩壊したあの国の末路を見ているとそれは理解出来ますね。強権は秩序を押し付ける。それが正邪何れにせよ。重しがなくなれば一気に弾け飛ぶ。ホントに人間って………」


「正しく。我々は日本型統治に至ることは出来ないでしょう。故に俗物たる私は力で抑えつける術しか持たないのです。過去の行いに対する否定は今も出来ません。それはその時には必要であったのですから。まあ、そのツケは払わされた訳ですが」


そう言って自嘲気味に笑うタロットは少しだけ可愛いかった。


「タロット大統領、その辺りは私のマターではありません。内省は構いませんが、吐露せずとも良いのでは?」


「ここでの私は懺悔の中にあります。貴女はその受け手だ。あ、それから………私のことはどうかロナルドと。いや、ロンとお呼び願いたい」


「上がりですか? あ、ロナルドだからロンですね。なるほど………あの………懺悔ってカソリックの………神父じゃなきゃ受けられないのでは?」


「神職以上ならば問題ないでしょう」


「私、神職じゃないですよ?」


「神の使徒は神職の上に在る者です。よって問題ありません」


「あー、私は聖女とかじゃないですからね? 魔法は突き詰めれば論理的体系に当てはめることができる原理原則の元にある………何れは日常の業となるものです。治癒は中々できる人が現れませんが、何れは現れるでしょう。つまり特別な力などではないのですよ。だから一時の高揚感に流されず冷徹な視点をもって私を見てください」


「貴女こそがご自身を分かっていないようだ。私はじめ、あの場にいた全員が貴女に帰依致しました。

その中には戦場で殺し合いをしてきた者、狡猾な犯罪者らと対峙し続けて心が冷え切った者、権謀術数に満たされた誰も信用出来ない小さな世界で勝ち上がり人でなしになって久しい者。そんな………神など不在の世界だと割り切って生きてきた彼等を真実の奇跡と慈しみを以て改心させたのは貴女だ。彼等は騙せない。彼等は誘導などされない。確固たる自己を持ち本物を見抜く術を得て生き抜いてきた強者ばかりだ。そんな彼等を魅了した貴女は………本物なのなのですよ」


二の句が告げない遥は視線をずらして息を吐いた。既に出来上がっているなと理解した。もう何を言っても無駄だ。

有能で自分に自信があるものほど自身の決断に絶対の信を置く。それがうまく作用すれば大成功し、外れれば大きく転ぶ。だからその自信は絶対的でも論理的でもない。なのに脇目もふらずに信じて貫くのだ。鬱陶しいことに。


ハァ〜………もういいや。割り切った遥である。

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