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短編まとめ

乙女ゲームの攻略対象に転生したけどヒロインが一向に来ない

作者: よもぎ

前世のことを思い出したのは、姉に頬をフニフニされている時だった。

五歳児の俺は「姉ちゃんてこういうの悪戯でしてくるんだよなあ」と思い「姉ちゃん……?」と不思議に思い、そこから記憶の洪水。


あ、俺、乙女ゲームの攻略対象に転生したかもしんない。


そう思うと同時にバタン!と知恵熱出してブッ倒れたものだから、姉はパニックで大泣きし、見守っていた侍女たちは慌ててベッドに連行し、医者が呼ばれ、と、大騒動になった。

しかしやってきた医者が「子供にはよくある急な熱です、命に別状はありません」と太鼓判を押してくれたそうだ。


でだ。

俺はウェブ小説を嗜んでもいたので、この手の話の展開ってのは知ってる。

「乙女ゲーム 転生」ってワードだけでもう分かる。

ヒドインと呼ばれるヤベーヒロインが攻略対象を食い荒らして、婚約者だった令嬢が頑張って断罪してってヤツだろ?

そんなん大人の意識が宿った今の俺ならやらかさんて。

しかも姉に攻略サイトの読み上げさせられてた知識もあるしな。

攻略対象のツラも覚えてるしなんとかなるだろ。




なんて十年前は考えていたんだが。

俺は乙女ゲームの攻略対象らしく美青年に育ったし、婚約者もそれに相応しい可憐で勤勉で誠実なご令嬢が選ばれてだな。

めちゃくちゃ好き。

掌でコロコロされてる自覚あるけど惚れた弱みで好き勝手されてる。


いや、好き勝手と言っても可愛いもんなんだよ。

デートで行く舞台の演目をあっちが決めるとか、あそこのスイーツ屋の新作が食べたいとおねだりされたりとか。

その程度なら俺も「いいよ~」って言える範囲のワガママを聞いてるだけ。

普段は「どこの古きよき大和撫子?」って感じの「一歩二歩後をついて歩く」感じの控えめで可愛らしい人なんだよな。



まあそんなわけで、婚約者は理想が過ぎて「俺なんかでホントにいいんすか!?」って感じなので、ここから逆転ホームランは有り得んよなぁ!?ってのが俺の思うところ。

そしてヒドイン、いや、ヒロインなんだが。


なんと、入学すら果たさなかった。


いや待て待て。

目立つピンクブロンドに緑の目をしてるからいたら分かるはずなんだよ。

あと俺の親友の公爵令息が入学式のある館までの道で迷ったヒロインを道案内するはずなんだが、アイツ普通に会場の館に到着してた。一人で。

そのあとも同じ学年の生徒を見回したけどピンクブロンド、一人もいなかった。



どうなってんだ?と、調べてみたらまあ悲惨。

やっぱりヒドイン様だったようで、空想・妄想がヤバ過ぎるし、淑女教育もろくにこなせなかったからという理由で、精神病と見てその手の病院施設に収監されたとか。

「おかしいわ!私はヒロインなのに!」って日夜暴れてるそうだ。



いやいやあのさ。

転生って概念が希薄なこの世界で転生云々言っても通じねえし、そもそもこの世界が何かの創作物の舞台だなんて言ったら正気じゃないって思われるだろ。

しかも自称ヒロイン。

ちょっと珍しい髪色で爵位の割に整った顔してる程度の女が思い上がるなって言われても仕方ない。



そもそも、本家ゲームのヒロインから乖離し過ぎなんだよな。

本家のヒロインは努力の天才で、入学当初こそ家の財政的に平均よりも勉強が足りてなかったけど、学園に入って環境が良くなることでみるみる輝くような淑女になっていって、結果上位層に認められるだけの存在になってたわけだ。

だから男爵令嬢なのに王族だの公爵家令息だのと縁付けるわけで。


でもそこがダメなら何もかもダメだろ。

素材はいいのに中身がダメで乙女ゲームが成立しませんってお前さぁ。



まあいいけどな。

攻略対象の男どもの悩みだのなんだのは裏から表から手を回して解決済みだし。

結果、全員各々の婚約者との関係も良好で付け入る隙もない。

恐れ多くも王太子との縁もあるんだが、そこは双方に働きかけて関係をきっちりさせた。

お前ら次の王と王妃なんだからさ!誰より関係良好じゃないとやべえんだぞ!って感じで。

双方に婚約者共々働きかけて、ぎこちなかった関係をなんとかして、一般的な婚約者との関係程度には押し上げた。

そこから先は俺も知らん。面倒見切れない。


いやあ、各々、次代の家長としては問題ないんだよ。

でも個人、夫としてってなると問題がある奴らばっか。

抱え込んで言わないくせに相手には察して欲しい分かって欲しいって思うだけなのは問題でしかない。

そこを俺がなんとかしたわけで。


王子とか「自由なんて何一つない……王族に生まれたというだけで……」みたいに贅沢なこと言ってたから、変装させて貧民街に連行した。もちろん護衛はつけて。

そしたら絶句だよな。自由なんて誰にもない、ってお分かりいただけたろうしな。

貧民街に住んでる連中なんて一番しがらみがないのに犯罪者になるか飢えて死ぬかみたいなとこあるし。だから炊き出しとか職の斡旋して減らそうとはしてるけど一定数はどうしても残るわけだ。


で、現実を見て「恵まれてる、何もかも」って理解した後に、俺の婚約者が手に入れてきた、王子の婚約者のスケジュール表を見せた。

優雅に午後のお茶を楽しんで、毎日のように社交を楽しんでる……みたいなわけもなく。

こまめに休憩は入るけど基本勉強ばっかしてて、その合間合間に王子と交流してるって現実をな、知らせたわけだ。

普通に貴族と結婚するだけならここまで詰め込み教育してませんよ、俺の婚約者はもっと緩く生きてます、って伝えたら萎びた顔してた。


いや、あのな。

王妃業なんて半端に知識あるだけじゃやってけないって。



他の連中と同じで、そんなんだから身分低いヒロインに絆されちゃうんだな~ってこの国の未来が心配でたまらなかったっけな。

あのまま突っ走られて、しかもヒドインがなんとかうまいこと誤魔化して入学してたらって思うとぞっとする。

俺は落とされない自信あるけど、他はもう赤子の手をひねるより簡単に落ちたろうし。


だからヒロインが来なくて安心してる。

強制力?ないだろ、多分。

あったらヒドイン様は入学してるし、俺と婚約者も関係うまくいってないし、他の攻略対象も同様。


ヤバい患者ばっか収容してるから監獄より警備がキツい施設だっていうし、このまんまずっと収容されててくれ。

世界のためにも封印されててくれ。




そんなことを考えながら、俺は次の授業の教本を机の上に揃えた。


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