54話 刀を振る意味
お…鬼だ!
ルアさんからの特訓が始まって数十分私達はルアさんの攻撃を受けて全身ボロボロになっていた。
彼は木刀を使っているはずなのにここまでのダメージとは…真剣だったらと思うとゾッとする。
でも、彼の教え方は上手い体に教え込むだけでなく逐一私達の動きの悪いところを指摘してくれ、それに合わせた攻撃をしてくれる。
それに…
「皆さん、少し怪我増えましたね、少しお待ちください」
そうして広範囲の治癒魔法を使って我々の怪我や疲れを癒してくれる。
札を使って行なってる事から妖術の類だとは思うが…妖術は妖狐の特殊能力…しかし妖狐達が使うのはもっと禍々しい物だったはず…彼は妖狐とは別の存在なのか?
っと集中しないとな、少しずつだが彼の動きについていけるようになった。
刀を握り彼へと向かっていく。
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「今日の特訓は終わりにしましょう」
そう彼から告げられたのは少し日が落ち始めた頃だった。
初めの方と比べると彼の動きについていけるようになり彼へ反撃を入れられるようになった。
それに…私は唯一彼に教わった三つの技を出せるようになった。
こればっかりはセンスに依存するからな。
彼にも筋が良いと褒められたし。
しかし、やはりまだ彼の精度には遠く及ばない、あくまで形だけ出来ただけだ。
「それと、アリスさんかなり早く終わってしまいましたが私から教えるのはこれで最後にさせてもらっても良いでしょうか?」
え…。そんな、今日で終わってしまうのか。
「…理由を教えてもらっても良いですか?」
「アリスさんが連れてきた人の中で一人が私の技の形を習得しました、こっからは彼自身でその技を変化させて欲しいんですよ、私が教えた技は本来派生させて使いますから、家の門下生達も皆そうしました。
私は門外不出の技を教えられておりますので上手く扱えるように派生させていませんが」
「…理解しました、しかし流石に切り上げるのが早すぎると思います」
「アリスさん、安心してください今回のように皆さんを招待して特訓をするのをやめるというだけです。
元々一人が習得したらやめようと思ってましたし、こんな風に時間を取ってもらったり来て頂くのも大変でしょう。
アリスさんから連絡を貰えれば私の予定が空いた日にそちらに訪問させて特訓をさせていただきますから」
「分かりました、そういう事でしたら」
…確かに彼は辺境伯の地位を持っている流石に私達の特訓だけをしているわけにはいかないもんな。
しかし、あの事にだけは聞いておかなくては。
「ルア様、無礼を承知でお伺いしたい事がございます」
「君は…?ああ、俺の技を全部覚えてくれた人だね、すごい才能を持っているようでちょっと嫉妬しちゃうな」
「お褒めいただきありがとうございます、自己紹介が遅れましたね、私はお嬢様の護衛の指導官をやらせて頂いておりますロダン=ピエールと申します。
ルア様の技について質問させてください」
「うん、大丈夫だよ」
「ありがとうございます、しかしここでは難ですので少し離れましょう」
「?」
彼は困惑した表情を浮かべながらも私について来てくれた。
「それで私への質問は何ですか?」
私が足を止め彼に向き合うと彼はそんな問いを私に向けてきた。
「すいません、私が今する質問はもしかしたら周りに聞かれたくない内容かも知れません。
無礼かも知れませんが、ルア様の刀術は魔物から身を守ったり退治するよりは何かを壊す事…それこそ人を殺す事に特化したように見えたのです。
もしよろしければ教えていただけませんか?」
すると彼は少しため息をついた。
不快にさせてしまったか…?
「やはり見抜かれますか、ええ。人を殺す事に特化した技術で間違いありませんよ。
少し私のいた国の話をしましょうか。
私のいた国では魔物は一切おらずそのせいか魔法も殆ど発達してきませんでした。
当然こっちの国の人たちからすればとても平和な世界に見えるでしょうね、しかし歴史は争いの歴史というように我々は人間同士で争い続けました。
ある人は上に立つ者達の利益のため、またある人は復讐のため皆理由はさまざまでした、指導者に先導され相手を憎むように情報を操作され、別の正義を掲げた人を敵と見做し殺し殺され。
その繰り返しでした、そうして最近その火種は少し落ち着いた…そう思っていたのにその平和はたった300年程で崩れ去り戦争は再開、結局国は滅んでしまいました。
そんな人間同士が血で血を洗うような戦いの中生まれたのが我々が使う刀術の始まりです。
しかし我々はそんな背景があるからこそ、その破壊性を捨て芸術として昇華させてきました、それを私の国では剣道と呼ぶ、今の技術です。
…なので私の家の技はある意味人を殺すため技とも言い換えれますね」
「…そうですか」
信じられない、そんな魔物がいないなら毎日怯えて暮らす必要もなければ畑なんかも荒らされずに済んで争いは減るはずなのに…余計に増えるなんて。
「…ではそんな人を殺すための技を使うルア様はどんな事を大切にしているのですか?」
「…難しい質問ですね。
でも何となく答えは持っています。
やはりこの技術は元を辿れば殺し合いでより沢山の命を奪うために作られたものに過ぎません、しかし血みどろな過去を持つからこそ悪戯にその技術を振り回してはいけない。
そして相手への敬意を忘れては行けない、この技術は己を守るためはたまた自分の大切な物を取りこぼしてしまわないようにするため。
ナイフだって人に向ければ凶器に食材に向ければ人を喜ばせる道具に、薬も量も間違えれば毒に、毒も量を守れば薬に転じます。
このように人を殺すための技術なんかも使い手次第で色んな顔を見せます。
長くなってしまいましたがようは使い手次第だと私は思いますよ」
…鈍器で頭を殴られたような衝撃だった。
今まで魔物を恨み技を磨くことだけを目標にし自分がなぜ剣を振るのかすら考えたことがなかった。
その時点で私と彼の差は歴然、彼はこの思考に至るまでにどれだけの苦労をしてきたのだろう。
どれだけの努力を重ねたのだろう。
年下だろうが関係ない武人としては私よりも遥か高みにいる存在だ。
「ああ、それと言い忘れましたが、私が今日教えた技、決して大勢の命を奪う事に使わないでくださいね。
もしそうされたら…私が責任を取ってあなた方を…」
刹那、周りの空気が一変し重々しい空気に変わった。
「殺さなくては行けなくなります。
ですから、人々を救う方向に使ってくださいね」
…先ほどの突き刺すような空気から朗らかな空気に変わる。
ここまで相手を威圧できるのは一種の才能だな。
そう、心の中でちょっとした悪態をつきつつ、お嬢様達の元へ戻った。




