36話 侍女
うーん、まずい眠すぎる。
ダンジョンから出てからずっとこの調子だ。
しっかし精神力を過剰に消費するとこうなるんだな、水薬では精神力は回復しないし…でも薬草があるなら、どっかに精神力を回復できる薬草ありそう。
うーんこれは戻ったら即寝コースだな。
とりあえず…魔法は、よし使えるな「鉄の翼」そして「風域!」
そうして屋敷に向かって飛んだ、飛んだんだが…眠いせいか風域の力加減を間違えたようで急上昇してしまった。
やっちまった、仕方がない風域を一回弱めて、翼を安定させるぐらいの上昇気流に変えれば…。
よし上手く行った。
正直鉄の翼は空を飛ぶのには向いてないと思う、何せ金属の重さで風域を作らなければ滑空すら出来ないのだ。
非効率なのは理解してるが俺が魔法で作れる金属は少ないのだ、せめてチタン合金でも作れればマシなんだがなぁ。
生憎その構造を覚えてはいないのだ。
でもこうやって高い所から全体を見た事は無かったな、やっぱり異世界とは言っても月が何故か二つある事以外は元の世界と変わらないんだったな。
魔法の制御に脳のリソースを割かなくなったからなのか、白狐になる為に脳を育てたからなのか滑空している時に、不意に元の世界の事を思い出してしまった。
神様との契約で彼女に会えるとは言われているがただ会えるだけなんだ、この世界で一緒になれる保証はない。
前世でも今世でも俺は人を殺している、心優しい彼女がそれを知ってなお俺を愛してくれるのだろうか。
本当は今世の彼女の幸せを願って俺は彼女に関わらない方が良いんだろう、頭では分かっている分かっているんだが理性で説明できない何かがある。
彼女が別の誰かと一緒にいる事、別の誰かと幸せな家庭を築いている姿を想像するだけで胸が痛む、腹の中が黒く暗い何かが広がっていく感覚がある。
ああ、そうか。
俺って本当はこんな醜い奴だったんだ、彼女を失ってから俺は狂ってしまったのだろうか。
これが俺の天性のものなのか後天的な物かはどうでも良い。
領地の立て直しをして、俺が自由に行動しても良いぐらいになったらすぐに探しに行こう。
もし彼女が他の人と婚約しているなら…いや、やめよう魔力の流れが乱れ過ぎた。
あの時みたいに感情に支配されてしまったらきっと周りに迷惑がかかる。
今はせめて与えられた使命を全う出来るように努力しよう。
嫌な想像を振り払う為に領民やジーニーさんの事を考え続けていると、いつの間にか自身の領地の上を飛んでいたので慌てて方向を逆にし屋敷に戻った。
風を下向きに噴射しゆっくり地面に降り立つと、何かとてつもない速度で走って向かってくる人影があった。
「ルア様あああああ!!」
「う…うわぁぁぁ!?!?」
あまりにも早い速度だったので避けようという考えが湧かず、ただ悲鳴をあげて呆然と立つことしか出来なかった。
人影が俺の目の前で止まり、ゆっくり目を開けて確認するとそれはレオだった。
「ルア様!どこ行ってたんですか!アリス=グレース様がお待ちです!早く向かってください!」
「ええ!?アリスさんもう来たの!?ごめんね!ありがとう!」
慌ててダンジョン用の服装から正装のスーツに着替えてアリスさんを迎えに行った。
「…ルア様?女性をこんなに待たせるなんてどういう了見ですか?」
「いや…本当すいません。ちょっと野暮用が…」
「そうですか、そうですか私よりもそんなに大切な用事がお有りだったんですねー?」
言えない、ダンジョン攻略してましたなんて口が裂けても言えない。
慌てて屋敷の客室に入り席に座ってから数分、俺はずっとアリスさんに圧をかけられている。
ペラさんは気まずそうに目を逸らしている。
「もしこのまま私に本当の事を話していただけないなら、いくら私より身分が高いとは言えルア様は私に侍女を依頼している立場なんです。私もいい加減怒りますよ?」
もうすでに怒ってるじゃんというツッコミは飲み込んで…。
「アリスさん申し訳ありません、近くのダンジョンを探検してました!」
とりあえず謝罪の言葉を言いながら頭を下げる。
「…確かにルア様は冒険者から貴族になった方でしたものね、今回はすぐに理由を伝えていただいたので終わりにしますが次は気をつけてください」
「はい…善処します」
「じゃあ本題に入りますけど、ルア様のご希望の侍女や従者を連れて来ております。
今ペラに呼んで来てもらいますね」
そう言われて数分後3人の侍女のような服装した人々を引き連れてペラさんが入ってきた。
「ほら、あなた達ルア様を挨拶をしなさい」
そこにいたのは俺が前に見た優しいペラさんはいなくてまるで教師のような厳格な雰囲気を纏っていた。
「ルーシー=モーガンです。よろしくお願いします。」「ジュリア=エリオットです。よろしくお願いします。」「エマ=エリオットですよろしくお願いします。」
「あ、ああ」
なんだろうとても機械的な感じがする、人間らしくないというか…。
「ルア様、何かお気に召さない所がございましたか?」
「いえ、ただ少々人らしくさが無いというかまるで機械のようで少し戸惑ってしまって…後彼女達はどこかのご令嬢なのでしょうか?もしそうなら私の侍女になるのは、勿体無いような気がするのですが」
「なるほど、まず最初にルア様の質問に答えましょう。
大抵の場合我々が侍女を出す時は、分家から教育を任された少女又は、孤児達を侍女に育て上げ仕えさせます。
しかし今回はルア様という例外です。
私の家と繋がりのある様々な貴族の家から令嬢が、ルア様の侍女に立候補してきました。
ルア様は魔族を退けた、つまり我が国にとっては勇者のような立ち位置なんです。
普通の貴族としてはなんとしても関係を作りたい物です。
侍女として仕えさせあわよくば手を出してくれれば…というのが、自身の娘を侍女に立候補してきた大きな理由です」
「なるほど、しかし私は…」
彼女の名前を出そうと思ったがこの世界での彼女の名を知らないことに気づき途中で黙ってしまう。
「分かっております、姉妹国の令嬢に心を奪われているのでしょう?だってルア様はその為に貴族になった、私の個人的な判断で申し訳ありませんが、ルア様は見境なく侍女に手を出すほど野獣では無いかと思いましたので、そのような思惑の方々には丁重にお断りさせて頂いております」
「ああ、アリスさん助かるよ」
「礼には及びません、この前私の護衛に稽古をつけてくれるという約束のお返しでございます。
その為私の方で信頼を置ける家であるモーガン家エリオット家から選出させて頂きました。
彼女達はルア様の希望通り領地経営や交渉それ以外にも音楽芸術にも精通した優秀な文官です」
「それは…素晴らしいね、ジーニーさんが信頼するのも納得だ」
「我々はこの道のプロですから」
「それはそうと…」
アリスさんが侍女達の方向を向くと
「あなた達、機械的な侍女を演じる必要はもう無いわ、私との話し方で分かったでしょうけど、あなた達が思うよりずっと優しい人よ」
と伝えてくれた。
侍女達は少々まだ不安ながらも最初に機械的な雰囲気を崩したのはルーシーだった。
「わ…分かりました。改めて自己紹介をした方が良いでしょうか?」
「いや、いらないよえっとルーシーさん達が出来る楽器なんかを教えてもらっても良いかな?」
「えっと私はピアノです!」
「成程ピアノか、また時間ができた時に聞かせてもらえると嬉しいな」
「あ、はい!喜んで!」
「ルア様、私はフルートやクラリネットなどの管楽器ができます!」
「君は…エマで良いのかな」
「はい、大丈夫です。そして気づいているとは思いますが、私とジュリアは姉妹でございます」
うん、だよねー家名一緒だもんこれで違ったから結構驚くもん。
「え、えっと私…えっと私は」
「ゆっくりで良いよジュリアゆっくり深呼吸して話してごらん」
「はい、分かりました。すうぅ…………はぁぁー……。私の得意楽器はバイオリンです!」
「バイオリン…うん、ルーシー同様空いた時間に演奏してくれると嬉しいな」
「はい!その時に感想を頂けると嬉しいです!」
「うん、ちょっと齧ったぐらいの素人だけど善処するよ」
「ありがとうございます!」
「ちょっとジュリア!?ルア様になんて事をお願いしてるの!」
「良いじゃない!お姉ちゃん勝手に私の自己紹介取ったんだもん!」
「はぁ!?しょうがないじゃない!私だって緊張してるんだから!」
なんか…これ凄い既視感があるな。
部活の後輩の喧嘩してた時に凄い似てる。
「静かにしなさい!あなた達!」
昔の事を懐かしんでいるとアリスさんが声を荒げる。
「機械的な侍女を演じなくて良いとは言ったけど、ルア様の前で醜態を晒して良いだなんて一言も私は言ってないわ、あなた達二人すぐ別の人に変える事だって出来るのよ?」
「そ…それは」
「申し訳ありません」
これは…ちょっと一言添えた方が良いかな?
「アリスさん、そんなに怒らないで私は大丈夫ですから。
しかしジュリアさん、エマさんお二方そのような喧嘩はするなとは言いませんがなるべく少なくするように、ルーシーさん貴方も仲裁に入るなりしていただきたいものです」
アリスさんを宥めつつ庇うだけではアリスさんの立場が悪くなる、少し嫌な言い方かも知れないがこれくらいは言っておかないと。
ルーシーさん達も納得してくれたようで良かった。
「ルア様、侍女達にさん付けはいりません、主人としての威厳というものがありますから」
「あ…はい。善処します」
今度はこっちに矛先が向いてしまった。
「まぁ、それがルア様の良い所でもあるのですが」
「ん?何か言いましたか?」
「別に何も言っておりません」
絶対何か言ってたよね、でもこういう時には無理に問いただしてはいけない。
俺だって学んでいるのだ。
「では、我々はこれで失礼します」
「え…アリスさん帰るの早く無いですか?お茶の一杯でも…」
「誰かさんがいなかったおかげで時間が押しているのです。本当、誰かさんが遅れて来なければ良かったのですがね?」
「あ、はい失礼しました」
これ、結構な期間言われるん感じ?嫌だなぁ。
「貴方達、ルア様の前で粗相の無いようにね」
「「「はい!」」」
そうしてアリスさんが馬車で去ってからルーシー達は早速領地の収支の計算に入ってくれた。
読んで頂きありがとうございました少しでも面白い。続きが読みたいと思ったらブックマークと感想、星をたくさんつけてもらえるとモチベーションになりますのでお願いします!
体調を崩しておりかなりの期間が空いてしまってすいません。




