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19話 記憶

暑い、なんで急に?


さっきまで凍えるように寒かったのに急に暑くなった、最後の足掻きで体温が上がっているのか?


そう思いつつも目を開けると思っていたよりも眩しく目を開けるのに時間がかかった。


え?


今僕の視界にある景色は明らかにあの世界とは違う、まるで死ぬ前の世界みたいな…服に違和感がありすぐに確認する。


これ僕が中学生の頃の制服、それにあのビルかなり前に無くなってたはず…まさかあの世界に転生とかは僕の妄想だったのか?それにしては出来すぎじゃないか。


「ねえ大丈夫?急に座り込んだんだからびっくりしちゃったよ」


頭の中が混乱していると急に懐かしい…声が聞こえた。


「え?」


顔を上げるとそこに()()はいた。もう二度と会えないはずの見ることも叶わず会話することさえも出来ないと思っていた人。


「あ…あぁ」


驚きで声のならない声が出た。


「生き…てるの?」


「もう!酷いなぁほら私はちゃんと生きてるでしょ?」


そうして僕は手を取られ彼女の頬に手が当てられる。


暖かい…本当に彼女は生きてるんだぁ。


その事に僕は安堵にも似た気持ちを感じると同時に不安が出てきた。


じゃあ、あの葬式は?あれも妄想?いや違うはず………。


そうして彼女の死因を思い出そうとして記憶を思い返し始めた、しかし


あれ?なんで彼女は死んだんだっけ?あれ名前なんだっけ?あれ?あれ?なんで忘れてるの?あんなに忘れたくない人のはずなのに、あれ顔は?声は?なんで彼女の事が分からないの?


さっきはちゃんと認識できていたはずがそれに気付いた時一気に認識できなくなった。


どんどん疑問の洪水が頭の中で巻き起こる。


「あ、やっと動いたー」


え?俺は動いてない…あ。


そこには俺がいた、対する俺は半透明な状態、そして両者とも顔がなかったそれにあの時は驚きで気づかなかったのか?声が…明らかに違う。


分からないはずなのに体が違うと訴えている。


そうだ僕の記憶が間違ってるんだ。


元々あんな所にビルなんてなかったじゃないか。


少し歩くと見えない壁にぶつかった。その先には俺と彼女…。


あ…そっか。


そうか…これが…僕が気付きたくなかった事。


これこそが僕の妄想の世界僕の中でずっと願い続けた世界。


するとさっきまであったはずのビルが崩壊を始める。


僕がこれを妄想と認識したからだろう、そうして世界にヒビが入り始める。


あぁこれが現実だったら良かったのに、そんな事を思いながら世界が崩壊していくのを見届ける、世界が音を立てて崩れ始め黒く染まっていった。


そしてそれは俺の足元にまでやってきて俺は……そう思っていたが俺足元が崩壊しても俺の体は落ちなかった、代わりに果てしない闇が俺の前に現れる。


妄想って分かったんだったらここに止まる理由はないんだよな…早く覚めなきゃいけないよな…………覚めたくないなぁ。


そんな思いから僕は歩き出そうとする、しかし足が何かに引っ張られた。


引っ張っているのは無数の手。


その手は俺をまた闇に戻そうとまた引き摺り込もうとしている手だった。


それはどんどん数が増えていった。


まるで俺をまたあの妄想の世界に戻そうとするように夢から覚める事は許さぬと言いたげに。


でも俺は抗った、どうやって抜け出したかはよくわからないでも連れて行かれたくないと強く願った、すると少し手の力が弱まったので足で地面?を蹴り走り続けた。


きっとこの世界は僕が中心だ。きっとあの手も僕がどこかこの世界に止まりたいと思ってるから現れたのだろう。


正直に言ってしまえばあのまま気付けなければどれだけ良かっただろうと思った。


妄想とわかってしまえばもう受け入れられない。


そうして走り続けた。走り続けて走り続けた何故か僕の中には早く行かなければいけないと言う気持ちがあった、何度も体力の限界にぶつかったがそれでも走り続けた。


するとそこには小さな紙が落ちいていた。


これは…その物体を拾い上げる。


拾い上げた途端記憶の一部が戻った。


彼女からもらった『桔梗の押し花しおり』その裏に確か名前が書いてあったはず。


そうして裏を見る[天原 恵麻]


ああ、そうだ恵麻だ。なんでこんな事を忘れていたのか。


だんだん記憶の靄が晴れていく、思い出した。


彼女が天原家の長女であり歴代の中でも上位の強さを持っていた事、そして次期当主として期待されていた事。そして僕の家である月城家から昔からの習わしとして婿を取る事。


その婿として選ばれたのが俺だった事弟の方が俺より遥かに強く家の反対を押し切って婚姻を結んでくれた事。


もう前が見えないくらいぼやけている、僕の服はとっくにびしょ濡れになっていた。


なんでこんな大切な事を忘れていたのか?僕の生きる意味の一つとなっていた恵麻の事なのに。


でも不思議な事に恵麻が何故なくなったのかがまだ思い出せない。


するといつの間にか扉があった、その扉は何十もの南京錠がかかっていて本来であれば入れそうにない、しかし僕が南京時に近づくと南京錠は音を立てて壊れた。


とても嫌な予感がする。僕の本能が体がこの先へは行くなと言っているような拒絶反応がある。


でも、もう恵麻の事で忘れている事は無くしたいんだ。それがどんなに辛くて苦しい事でも。


そうして扉を開けて中に入る。


浮遊感、そして次に現れるのは夏本番の蒸し暑い匂いと汗の不快感。


そこに俺と恵麻がいた。


俺は半透明の状態で誰にも認知されず幽霊のように存在していた。


するといきなり何かに引き込まれる。目を開いた瞬間後ろから彼女の声が聞こえた。


「危ない!」


それと同時に背中に強い衝撃が走り僕は突き飛ばされ後ろを向いた時に見えたのは男が持っていた刃物が恵麻のお腹を貫かれ引き抜かれた光景だった。


「ーーーーーー」


俺は叫んでいた、怒り?そんな物じゃないそれ以上の憎悪。


今の状態は当時の俺と今の俺の意識が混在している、その為俺は記憶をなぞっている感覚に近かった。


でも今は冷静になれなかった。


何かに当たらなければ全身がバラバラになってしまいそうな激昂。


自身の耳に聞こえた猛獣のような声が自身の喉から発せられた物だと気付いた時には男の刃物を奪い取り男の胸に突き刺した後にそれを引き抜いた。


何かを貫いた感覚がある、男は動かない、視界が赤くなる、だがそれは心底どうでも良い。


すぐに僕は恵麻に駆け寄る、周りの人が騒ぎ出した、俺にはその雑音がとても不快だった。


「恵麻!恵麻!」


僕は必死に声をかける、恵麻の手を握るが帰ってくる力は弱い。


「柊君…似合わ…ないよ…そんな…顔」


恵麻は必死に笑顔を作って声を出していた。


「やめて、喋らなくて良いとにかく救急車を…っ」


すぐにカバンに入れていた携帯電話を取り出して救急車を呼ぼうとすると恵麻は俺の腕を掴んだ。


「もう…無理だよ…自分の体だから…分かる…もう…手遅れだよ」


視界がどんどん見えなくなってくる、かけたい言葉があるはずなのに…喉で止まってしまう。


「最後の我儘…聞いてくれる?」


「ああ!聞くよ何度だって我儘聞くから!最後だなんて言わないで…」


「亡くなった人はね…胎児に…宿るの…だからさ…もしね…また会えたら…また…恋をしよう…」


そうして腕を掴んでいた力が消える、目からはあの輝いていた光が消えていった。


僕の腕にあった恵麻の重さはもうただの物体の重さとなってしまった、その瞳が閉じることはもうない。


その事実を認識した時俺の中で何かが壊れたような音がした。


恵麻がいなくなったという現実がとても受け入れ難くて…それで…僕は記憶を失った。


次に目を開けた時さっきの扉は消えて元の場所に戻っていた。


それから俺はどれぐらい泣き続けたのか分からないでも長い時間泣き続けてもう涙が出てこなくなる頃にやっと顔を上げる事ができた。


頭にかかっていた霧が全部晴れた、あの後の事はよく分からない、警察に連れて行かれたけれど周りの人の証言で無実が証明された。


俺にはそれすらもどうでも良かった、むしろ何か罰が欲しかった。でも誰も俺を責めなかったみんな慰めてくれた。


恵麻を失った喪失感が酷く数ヶ月は魂のない人形のように暮らしていたと思う。


でもある時恵麻との思い出を思い出したのか分からない、でも無性に強くならなければと思った、それから俺は何度も何度も自分の限界なんて無視して刀を振り続けた、何故か分からないがあの時はそれで満たされていた、そして見続けたくない現実から目を背けられた。


それから数年後俺は弟を倒し月城家の当主候補者となった。


当然天原家からも縁談はきたが全て断った、何人かは死人に心を奪われ続けていると暴言を吐いていったが何も思わなかったのを覚えている。


半分死人に心を奪われていると言われ理解できなかったのもあるだろうが。


それだけ恵麻を失った事が俺にとって辛い事だったのだ、今になってやっと抱える事ができた。


未だ俺の心には悲しさや男に対する憎悪、喪失感と色々混じっているが少し落ち着いた、時間の力って偉大だ。


もしかしたら神様が俺の記憶を完全に戻さなかったのは俺が壊れる可能性があったからかな。


でも…ごめんなさい、これも一つの俺なのでちゃんと抱えていきます。


そうして歩いていると急に足場がなくなった。


今回はさっきの感覚とは違う。


そういえば俺は死にかけてたんだったな、じゃあこれは走馬灯だったのか。


よく出来てるな。


浮遊する中何か一つの蛍のように物が自分に降りてきた。


朦朧とする意識の中俺はそれを。


“そっと握った”










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