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なぜ異世界ファンタジーに和風地域スタートが少ないのか?

作者: 間充識

 島嶼皇国イサナガハラ。


 <幽世>と呼ばれる異界へ繋がる門の利権を巡って数々の英雄たちが立ち上がり、群雄割拠の乱世を駆け巡った時代も今は昔。

 今では勅令を以て全国各地に配置された<幽世守>が浪人たちを差配して<幽世>を探索させ、上がりを上へと献上する支配体制が確立されていた。

 浪人たちは浪党を組んで複数で探索する事を許されているが、その管理は厳しく、最低限以上の大勢が徒党を組むことは禁じられている。

 強い束縛を受けながらも浪人という職業は、食い詰め者や継ぎ目のない次男坊以降が立身出世を目指す登竜門であり、また多くは夢破れて日銭を稼ぐに甘んじる底なし沼でもあった。


 そんな異世界事情など露知らない主人公、渡部謙志は海水浴中に美女から逆ナンを受けたと思ったら神隠しに遭い、もっこ岩の招き手として異世界転移させられる。

 まつろわぬ神、妖の類としてタカマガハラの神々から目を付けられているもっこ神は、生き延びる処世術として事情を知らぬ稀人に加護を与え、実益でもって信仰を受ける腹積もりであった。

 渡部はその稀人の中でも大当たりの類で大浪人としてメキメキと頭角を現し、もっこ神をもっこす様と言って呼び慕う敬虔な信者であった。事あるごとに渡部謹製のつるりと硬い質感を放つ不思議な装身具を捧げられてはもっこ神さまも満更ではない。

 それもそのはず、もっこ神の十八番である<神隠し>の加護を授けられた渡部がそのアイテムボックス能力を十全に活用して素材を乱獲し、まつろわぬ故に迂闊に頼る事が出来ない鍛冶衆を欺くために<幽世>の一つ、<桜火の煙竈>の深淵、灼躍ヶ淵まで赴いて厳選した素材を鍛え誂えた、見た目はともかく品質としては極上の逸品ではあるゆえに然もありなん。

 しかし、そうこうする内にこのネズミのような蠢動を悟られて敵意アリと断じられてしまったもっこ神はとうとうタカマガハラから誅夷の令が下り、もっこ神の宿る大岩へ破壊の魔の手が伸びてしまう。絶体絶命の危機に乾坤一擲の策としてもっこ神は依り代を大岩から渡部謹製の人型へと移し、移動する足を手に入れたもっこ神はそのまま船に潜り込み、イサナガハラを離れる事に決めた。




   *   *   *




「そんなこんなで新天地に着いたはいいのですが、もっこす様」

「なんじゃ?」


 海辺の街にしては柔かな湿気を孕んだ温かな風が、急斜面を登ってなおも遠く響いてくる港の喧騒を運んできた。

 交差する剣と杖を抱えた両翼。この地では冒険者ギルドと呼ばれているらしい。


 しってる。


 むしろ馴染み深い。


「最初からやり直しだそうです」

「やりなおし」


 冒険者ギルドの受付では隻眼の凶面が仏頂面なのか苦渋の顔なのか判断つかない威圧感で腕組みをしている。そういうとこだからお前の所だけ空いてるんだぞ。好都合だからいいんだけど。


「こちらとしても不本意ではある。

 イサナガハラの<幽世守>の連中だったか。あれは世界が大昔の魔王大戦で一丸とならざるを得なかった時代であっても協調する事なしにあの小国のみで乗り切ってしまってな。

 だから我々冒険者ギルドの干渉も交渉もまるで受け付けずに今も独自規格を貫いているんだ」

「独自規格」

「それで<討竜位浪人>、だったか。

 一応流れのイサナガハラ出身冒険者もいなくはないし、今はこのザマだが俺も昔はそれなりに鳴らしたもんだ。

 あんた達が凄腕だってのは知っているし識っている。

 が、スマンがそれだけでは高ランク冒険者の位をポンとくれてやるわけにはいかないんだ」


 信頼と実績。

 その無形の財産は日々の積み重ねの総体であり、<幽世守>と冒険者ギルドとの間に相互のやり取りが無ければその財産は蜃気楼のように虚無へと消える。


 つまるところこの<竜紋の額当て>を持って来たところで無用の長物に過ぎず、この地で冒険者として活きて行くためには最底辺から、子供の遣いとそう変わりない些事から社会貢献して行くしかない訳だ。


「のう、謙志や。そなた、路銀は幾ら持っていたかのう」

「……あの地で我々が許された物持ちはまあ、お察しかと」

「で、あろうな」


 だからこそ金銭は最低限に素材は<神隠し>でちょろまかしてひたすら溜め込み、パーフェクトもっこす様の完成と相成ったわけだが。

 それに国を出る際の騒動でほぼ着の身着のまま状態で逃げてきたために僅かばかりとはいえ偽装用に利用していた<討竜位浪人>として怪しまれない程度の預け金証文や貸し蔵の中身は今頃全て接収されている事だろう。

 <神隠し>の中に一年は籠城できる水と食料、それから船員と護衛をまとめて『分からせ』られる程度の武力を持ち合わせていなかったら今頃貿易船から突き落されてサメの餌にでもなっていたかもしれない。


 つまりは今現在素寒貧ということだ。


 持たざる者最下層スタート。再走。


 その是非は人によりけりだろうが、まあ悪くはない。

 渡部は脳内のスケジュールを書き換えると、凶面受付おじさんから渡された様式に一通り情報を入力し、代わりに木切れに錆の様な赤茶けたギルド紋が捺されたドッグタグのようなものを受け取る。随分と適当なシロモノだが、その品質が示す通りに赤褐級冒険者は信用も身分もゼロに等しいため、この程度では無償で街門を潜る事すら出来ないらしい。つまりは街中で完結する依頼しか受けられない訳だ。

 幸いこの街にも<幽世>ならぬダンジョン(これも馴染み深い)はあるらしい。

 こちらも赤褐級の上、橙鉱級になってからでないと入場を許可されないようだが逆に言えばそこまでの辛抱だ。


 不景気な会話をする俺たちを哀れにでも思ったのか、やたら親身な凶面受付おじさんから、とにかく数をマジメに堅実にこなす事だとのアドバイスも貰ったので無下にする事なく真摯に取り組むとしよう。

 渡部はそう結論付けて、概ね人の捌けてきた昼前の冒険者ギルドの掲示板に貼られた赤褐色の差し色のクエストから三つ、ボロ拾いと剥落敷設レンガの修繕、魔獣避け海中網の確認と清掃のクエストを請け負った。

あとがき


和風ファンタジーを名乗る以上ある程度独自規格が無いと和風感がないけれど、初手で独自規格を出すと世界旅行モノにして他の地域に移った時に説明とかしっちゃかめっちゃかになるよねって話。


王道としてはテンプレナーロッパをそこそこ啄ばんだ後に何故かよく東の方にある和風国家を訪れて馴染み深い異文化をナーロッパ尺度から雰囲気だけ楽しむ流れがそこら中で散見されるけれど、やはりこの王道の方がスムーズに話が運びやすいと思う。(故人の乾燥


異世界ファンタジーに和風モノが少ないのではなく、世界旅行モノでは初手共通規格の導入をする方がスムーズだからナーロッパが採用されやすく、世界旅行モノの和風編は中盤以降に設定されるために和風も混じっていると判断される事はない。結果として世界旅行モノは括りとしては洋風モノに分類されるために総計として異世界ファンタジーはナーロッパが主流になるんじゃないか。(故


紛らわしいけれど世界旅行モノと純洋風モノを分けたらその他の文化風モノと量的にはそう変わりないのではないかと思う。とはいえ違う文化圏が出てくるがあくまで洋風文化圏との対立対話を主軸とした話は世界旅行モノに当たるのかといった線引きが難しい作品もあるだろうけれど。(ry


世界旅行モノでなぜナーロッパを採用しやすいかと言えばヨーロッパには旅行記や探検家、航海日誌などの旅行文化が重厚に根付いていて出せる引き出しが多いからだと思う。(


結論として異世界ファンタジーになぜナーロッパが多いのかという疑問についてはこの旅行文化が色々な属性を描ける世界旅行モノとの相性がいいからだと思う。(









…………この作品は、煮詰まって来るとサイドワークが無性に捗るアレの提供でお送りしております。(小声

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