背伸びはするもんじゃない 5/6
家の中。やはり母親はまだいない。はぁ。
収まってきたはずの涙がまた込み上げてきた。心配そうに妹が俺を見る。そんなのにかまっていられるほど、俺の精神状態は正常ではない。
俺は家の中で母親の帰りを待った。
鏡で自分の顔を見る。ひどいことになっている。右目はもう開かない。顔も腫れている。さらには、両ひざが傷だらけのため、足も曲げれない。
俺はこれから先どうしたらいいのだろうか。
待つ時間。これは永遠のように感じるものだ。授業中もたまに経験するこの感覚。どれぐらいの時間が経っただろう?と時計を見るも、全く時間は進んでいない。
遊んでいる時はあっという間の時間。いやぁ。不思議である。本当に時間は絶対なのだろうか。人によってはもちろんのこと、自分自身でも変化するのではないだろうか。そうじゃなくては、この感覚は説明できないだろう。
時間は絶対に一定に進んでない、と傷だらけの俺は思う。
「ただいま」
母親が帰ってきた。
「わぁ。どうしたの?」
俺を見た時の第一声。それそれ。俺はそれを待ってましたよ。早く、さぁ早く。もっと俺を心配して、この痛さから解放してくれ。
「ちょっと、まずは消毒とかしないと」
母親が薬箱を持ってきた。
「てか、まず風呂入って来なさい。傷口が砂まるけになってるよ」
目を赤く腫らした俺。母親が帰ってきた安心感。さすがは大人だ。こんなにも小学五年生の俺を安心させるなんて。いつかは俺も、こんな大人になるのだろう。はぁ。なれるのだろうか。
俺はゆっくりと服を脱ぐ。いつもの倍どころの時間じゃない。
風呂場で体を洗う。さぁ、シャワーで体を長そう。
いやいやいや。全身痛い。痛くない場所がない。髪の毛も洗えなければ、指先も洗えない。どこにもお湯が当てれない。マジで激痛。
しかしそうも言ってられない。俺は全てを優しく、丁寧に、なるべくお湯がかからないように。そう。丁寧に洗うしかない。ガサツな昭和生まれの江戸っ子男子とは違う。
これほど全身に愛情をかけて洗ったことがあるだろうか、と思う程に洗った。
風呂を出る。
全裸の俺に母親が消毒をしまくる。痛い。いつの間にか買ってきた、デカい絆創膏を全身に貼りまくる。
とりあえずは安心。痛いが安心だ。




