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転生したら寄生鎧だった ー女盗賊ミランダとアメジストの大ダンジョンー  作者: えぐれっと
ー女盗賊ミランダとアメジストの大ダンジョンー
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64 フェクトが作った出どころが謎の新しい機材ダイナモ

後日。


使者が朝一番でエリスの下にやってきた。フェクトは朝一から外出して不在。いるのは護衛の衛兵達とエリスとフェイルだけだ。

ドイネルとカイルは、共に塩の川の街や南の街を通じて、領地内の村落の巡視に出払っている。

手紙を受け取ると、エリスは立ち上がった。


ロルサーグ国王、ルメリア公王が共にエリスの要求を呑んだ。

彼女を女伯として認め、次期領主をダンジョン踏破者にする任命権を許可した。

更に西のロルサーグ国を主導に同盟を組んで増援と共に帝国に対して連合軍を結成して反撃をすることを約束する。ディミトリの件は、戦闘が終わるまで目を瞑るとのことだ。

戦闘の主導権は完全には渡せないものの、ドイネルの戦列への参加を要求している。


完全にフェクトの思い描いた通りに動いた。帝国に対する対処を最優先している。

「やりました!やりましたよ!国王が承諾しました!」

思わず隣にいたフェイルに抱き着いて、驚いた彼はぐるぐると回る。

「よかったですね。」

「はい!使者の方、ありがとうございました。下がっていいですよ。」

一礼すると使いの人間は帰っていく。扉が閉じられると、フェイルは大きく安堵のため息をついたあと、再び表情を戻した。

「ですが、ここからが正念場ですよ。後になって掌を返すことだってできましょう。息子の件、根に持たれているものとみていてくだされ。」

「分かっております。ですが、これが通らなければ本当にどうなってしまうかと…」

「一歩前進、ですね。」

「えぇ!」

「外で作業している先生に連絡しましょうか。」

「私は返答の手紙を書きますね!」

2人は謁見の間から離れた。



フェイルが向かった先は、中央街区から西へ離れた郊外だ。庁舎の裏庭の水堀代わりになっている大河に接している空き地。旧市街区の教会の裏庭から塀を超えれば来ることも出来る。

元は貴族専用に羊毛を作っていた牧場だったが、南の街を占領した折に、庁舎から南側が完全に自領となって安全になったため、牧場主には移動して貰っている。


新設された水車の粉ひき所の隣に、ハーバーボッシュ法用のタンクが無数に張り巡らされたパイプと共に設置されている。

超臨界状態の高温・高圧タンクは内圧が、最低でも20MPaを優に超えるもの。

水を噴射させるだけで木材が真っ二つになるウォーターカッターにほど近い圧力で、故障を起こして破裂した場合の危険度は計り知れないものとなる。

少しでも市街地から離れたところに設置し、尚且つ安全な領地内である必要があった。


稼働前のテストが既に始まっている。規定圧力に達する前に段階を踏んでテストし、故障が出なければ実用だ。理屈上は行けるが、問題はその他の接手やパイプに破断が発生する恐れがある。

慎重に慎重を重ねて試運転する必要があり、フェクトはその管轄を行っている。

「順調ですか?」

「あぁ、稼働まであと一歩だ。こっちで話そう。」

フェクトに続き、新造された水車のある粉ひき所へ入った。

「こちらは…知らない機材みたいですが。」

中へ入ってみると、石臼もなく粉ひき所ではない。地面に埋まっている半円形の巨大な物体が目に映った。ゴウンゴウンとゴーレムの歩く様な、低い唸り声の様な機械音をあげている。

「これは…そのだな。」

フェクトは目を逸らす。

「ダイナモ…発電機だ。」

発電機は半分地面に埋まっているが、半径だけでフェイルの腰ほどまである高さだ。目測でみて、直径が男性の身長の170センチを超える。そんな巨大な構造物を作るとなると、結構なお金がかかる。

「予算足りてるんでしょうね?エリス様、怒らせると怖いですよ。」

「ギリギリマイナスで留めてあるよ。」

「…アナタの作る産業に肖る以上、我々は目を瞑る以外できませんけど。程々にお願いしますよ。」

「善処する。」

フェイルは表情を一変させた。

「で!これは何をしているんです!」

「アンモニア合成には純粋な水素が必要だ。石炭をコークス化させる時に出るコールタールから水素を抽出することも出来るんだが、中央から運搬する手間があるし、その装置も結構大がかりになる。だから別の手を講じたわけだ。」

「ほう。」

「水力発電による、水の電気分解だ。電解水素をハーバーボッシュ法のタンクに接続する。効率は少々悪いが、出した水素を爆発さえさせなきゃ、構造が単純で最も安全な代物だ。何より手放しで放っておいても水車さえ回ってれば出来る。」

まだフェクトがリザードマンの体だった頃、彼は中学3年生ぐらいまでの理科の話をフェクトから聴いている。その折に、電気のインフラを整備するには、時代がまだ追いついていないと彼は言っていた。

「電気系の産業は作るつもりはない、と以前は仰っていた様な?」

「磁石を作るには、ヒトが消し炭になるぐらいの電力が必要だったから無理……と、当時は踏んでたんだ。」


水車と繋げるベアリングやシャフト、発電機の外装ぐらいなら、エリスの許可なしでも彼の手で作ってしまえることは知っていた。


しかし、発電には発電機が、発電機にはモーターが、そしてモーターには磁石が必要だ。人工的に磁石を作るには、膨大な電力が必要だ。

順序を考えると、最初に天然の磁鉄鉱が必要になる。最初の磁鉄鉱から、更に磁石を生産する為に発電機を作る流れになる。

磁鉄鉱の加工から、モーターの作成まで。中央の工房でプロジェクトとして動くはず。


出どころの分からない磁石だ。珍物である天然の磁鉄鉱はそれほど産出されず、買い集めるにも高額になる。

ましてや目前にある人間の身長ほどのダイナモには、恐らく拳ほどの大きさの永久磁石が100個近く必要になる。

それほどの予算はなかったはずだ。


「…一体どこから磁石を?」

「天然の磁鉄鉱は錆び付いた鉄鉱石が落雷を浴びたものと言われてる。」

彼は聞きかけた後に、フェクトの顔を見て思い出した。

「落雷…そうか複合魔法か!」


フェクトには、砂嵐を雷に変換する複合魔法『塵雷』と、そのチャージした電気を放出する『落雷撃』がある。

フェイルがフルパワーで放つ強雷撃でも、50万ボルトの0.5アンペア程度。眩い閃光と共に人間の首を軽く千切り飛ばすことが出来るが、太い樫の木に向けて撃っても幹に拳大の破断ができるぐらいで終わりだ。

落雷撃は天然の落雷を生み出すもの。シトリンと協力した時は、巨大な木の魔物を真っ二つにして炎上させている。その威力は数百万ボルトの数千アンペアで桁違いだ。


複合魔法の塵雷はいわば、自力で発電するコンデンサーだ。風で砂をかき回し続けている間、摩擦で無尽蔵に発電する。体積が大きくなるほど発電量は増え、天然の雷雲に近くなっていく。

内部に電流が流れて続けているから接触は危険だが、外部から雷撃を加えることで充電することも可能で、誘雷や通電させることで相手の雷撃を吸収する防御技としても使える。


「魔法って便利だよな。」

彼は笑いながら肩をすくめた。

フェイルは考え込む。塵雷は扱いが難しく、自傷ダメージが即死級の危険な魔法だが、まさか産業用に使えるなどとは思いもしなかった。恐らく知らないだけで、これからも応用の幅が増えて行く可能性がある。

「ということは、磁石の製造装置も?」

「意外とこれは簡単に済むんだ。」

レンガの回りに銅線を巻きつけただけだ。銅線に誘雷させることで、コイルから高電圧の磁界を作り出し、酸化鉄のフェライトに浴びせることで磁鉄鉱となる。

「原料は…」

「錆びた鉄の粉を熱して押し固めたもんだ。フェライト磁石つってな。もうちょっと添加物があれば質もよくなるんだが、まぁ仕方ない。」


酸化鉄は、製鉄の折に表面に発生する黒い鉄の表皮だ。赤く熱した鉄は表面が燃えている。燃えるというのは急速に酸化しているのと同じで、冷え固まる頃には真っ黒いサビで覆われ硬化する。

出来かたは違うが、衛兵のドゥサックや銃身に施された黒錆、パーカーライジング処理と安定した錆という点でほぼ同一。

金属加工では黒皮とも呼ばれる素材面。刀剣鍛冶や旋盤など、構造物を作る折には、不要な部分の為に大量に剥がれ落ちるものだ。その錆の皮を押し固めて磁石にする。


そしてこの酸化鉄はハーバーボッシュ法の触媒にもなる、非常に重要な資源だ。


「どうすんですか、これ…。」

最初の発電所が設けられ、今後は電気産業が視野に入る。エリスはフェクトに信頼を寄せているし、新しい物好きだ。手当たり次第に実装しまくって拡充を進めようとするだろう。

モーターには精度のいいベアリングとシャフトに加えて、大量の銅線と磁石が要る。今度は銅と鉄、更にそれを作る旋盤の数にと、今度は製造作業員が圧倒的に不足する。

「とりあえずエリスには黙っておけ…。これ以上の産業の拡大には人手が足りない。」

「でしょうね…。」

まずは硫酸アンモニウムと水酸化カルシウムを用いた農業の拡充で食い扶持と人口を増やし、衣食住の生活基盤の安定化が最優先だ。

大きなため息をついたあと、フェイルは面と向き合った。

「さて、本題です先生。本国からエリス様の女伯の任命と、次期領主の任命権が認められました。」

「通ったか。」

「えぇ。本国から増援と共に、ドイネル様にも南の街の防衛線に参加して欲しいとのことです。」

「…いよいよか。」

フェクトは大きく深呼吸して、ダイナモを囲む安全柵の上に座って数回頷いた。

「侵攻はいつ頃の見込みです?」

「早ければ秋には来るだろう。猶予はもう2か月切ってるはず。」

フェイルが思っていたよりずっと早い予想だ。

「そんなに早いんですか。」

「奴ら、ディミトリの暗殺計画を知ってから、アメジストの街を落とす為に既に戦力を集めていた。秋の魔物との合戦の後に、塩の川の街から南北挟み撃ちにするつもりだったらしい。幸運にも俺達はその出鼻を挫けたわけだ。」

「その分の戦力が再編成されて、我々が守りを固める前に大挙して取り返しに来るわけですか…。」

「そうだ。最新鋭の航空戦力まで来るだろう。恐らく新月に空から壁を越えてようと夜襲をかけてくる。」

「どうするおつもりで?」

「今回の戦闘は籠城戦になる。ハーバー家とお前で、要塞壁上での防衛を頼みたい。照明のレイブライトが使える神官職が指揮官に必要だ。エリスは総大将で要塞内の指揮だ。」

「エリス様もですか…要塞内部の安全地帯とはいえ…」

「危険かも知れんが、今必要なのは英雄エリスの肩書だ。彼女を総大将に据えて撃退に成功すれば、影響力は測り知れんものになる。威圧が必要なのは同盟側の方だ。」

「同盟側への圧力…もしかして、本国からの増援は…」


「来ない。来たとしてもフルプレートの騎士などイェニチェリの火縄銃の前には何の役にも立たん。」


最低でも東西南の3方向から包囲される。近代レベルの武器とハイドゥク達の高い士気があっても不利には変わりがない。

「…。」

しかし、フェイルはよくわかっていた。フェクトという魔物は勝算のない戦いはしない。発言からして、要塞内で指揮を執るのはハーバー家だ。自分は不在とも聞こえる。

「…で、先生は如何ほど?」

フェクトは自分の手を見た。奪ってから数か月。リカルドの義父の体も限界が近く、爪が剥がれ落ちてしまう。胸元の目がギョロりと開く。

(また俺のこと着て貰えるか?)

念話で話しかけられると、フェイルは悪い笑顔を見せた。新しい体への交換時期に戦争が重なるとあれば、都合のつくことが一つ。


敵の兵士を乗っ取って化け、指揮官を暗殺する。前線の統率を乱し、混乱させれば撃退は容易くなる。


「勿論です!」


・・・


3日後。


フェイルと共にエリス専属の医者に輸血の技術を教えながら、クレアに輸血する。注射針もまだ針が太く、クレアの顔が苦痛に歪む。

「クレアお母さま…もう少ししたら、私は南の街に行こうと思います。」

「…戦争かい。」

「はい…総大将として、座っているだけですが…。」

「心配もあるけど…でも、大丈夫だって信じてるよ。ミランダから聞いてる。アンタ、ウチに似たみたいだからね。」

ミランダに自殺を仄めかして活を入れられた時も、罪人を手討ちした時も、エリスは相手から目を離さなかった。

「きっと勝てるよ。アンタなら。」

「はい!」

手を握りあい、エリスは退室した。輸血を終えると、クレアは起き上がる。

「本当に良くなったよ。ありがとう。」

彼女は注射針の痕を自ら回復魔法で塞ぐ。

「それでは、私もこれで。」

「あぁ…気ぃ付けなよ。」

「アナタこそ。ミランダさん。」

互いの肩を叩き合い、フェイルは退室する。

ミランダとフェイルが肩を並べて戦ったのはたったの一度。合戦の折に旧市街区でインフェクテッドアーマーとの戦闘のみ。

あわや街中に大きな被害が出るかの瀬戸際で、即席パーティーの3人で深層の魔物に挑んだ決死の大勝負だ。

彼女にとって、フェイルもまた大恩のある男だ。


「クレアさん…」

最後に残ったフェクトは、目を合わせられなかった。

彼には分かっていた。生きて再会はかなわないだろう。

「心配性だねアンタも。」

「すまないクレアさん…帝国との戦争の為に、この街の衛兵達も南に出払うことになる。今秋の合戦では、過去と同じような冒険者と少数の衛兵での合戦になるはずだ。直に冒険者からネストの報告があるはず。」

「あ…」「そういやすっかり忘れてたよ…」

シトリンとミランダは思い出した顔をして目を合わせた。

「2人の評価は聞いている。恐らく前線配置になるはずだ。出来ることなら極力安全圏にいて欲しいんだが。」

「そうだね…でも、2人はそうじゃないはずだよ。」

フェクトは2人を見る。

「フェクト、魔物の軍勢が旧市街区に迫ってんのを黙って見てろってのかい?あそこに出城作ったのお前だろが。」

「お義母さん動けないんだよ?私達が止めなきゃじゃんね!」

2人はやる気満々だ。

「…そうだな。でも、死ねば元も子もないからな。合戦は乱戦になる。後ろを取られやすいんだ。注意しろよ。」

「知ってら。ウチだってアンタが来る前から前線配置やったことあんだよ。」

「…そっか。余計な心配だったな。」

フェクトとミランダは顔を合わせて微笑む。

「…エリスを…娘を任せたよ……フェクト。」

クレアは始めて彼の名前を呼んだ。

彼は両膝をついて、クレアの手を取り、その甲を額に当てて誓いのポーズを取る。ミランダとシトリンには、その光景が目に焼き付いた。

2人のやり取りは、まるで女王と騎士の様だった。フェクトの所作は、やはり魔物らしさを感じさせないものがある。


「……我が身命を賭して、エリスお嬢様をお守りすると誓いましょう。」


「…頼んだよ。」


しばらく、同じ姿勢でいるフェクトはぼやく。


「…俺達はこうしているのに…なんで人間同士が仲良く出来ないんだろうな…。」


神職と魔物が手を取り合っているのに、人間の異教同士が戦争をしている。なんとも皮肉に見えることだろう。

「…魔物のアンタに言われちゃおしまいだね。」

苦笑を交えて彼女は言い放つ。

「行ってきな!」

出会った時と同じ豪胆な大声と共に背中を叩き押された。フェクトはミランダと拳を合わせる。

「暴れてこい!」

「あぁ!」

シトリンと目を合わせ、彼女はハイタッチをしようと右手を上げた。フェクトも右手をあげ、彼女と手を合わせようとする。


何故だろうか、微笑むシトリンと目を合わせた時、時間が長く長く感じる。いつまでもこの笑顔を目に入れていたいと、そう思ってしまう。



彼女のエールがとても幸せに感じてならない。勝利を託されたことが、至上の喜びにすら感じる。



「行ってらっしゃい!フェクト!」

シトリンの言葉が、彼の中の何かを揺り動かした。必ず勝てる、そう信じてしまえるほど、彼女の応援の一言は嬉しかった。


パン!


ハイタッチしたフェクトは高揚した気分で教会を出る。待っていたフェイルと共に馬に乗り、彼らは検問を出た。



いざ、南の街。



交易都市ビシュテへ。

後出しで街の名前とか出来上がっていくのでわかりにくくて申し訳ない感


交易都市ヴィシュテあるいはビシュテ

交易はルーマニア地方の現地語でタルゴ、トゥルゴとも。


1462年のトゥルゴヴィシュテの夜襲がモデルです。6月じゃないけど。


タイトル名はロックマンXネタです。ダイナモ

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