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転生したら寄生鎧だった ー女盗賊ミランダとアメジストの大ダンジョンー  作者: えぐれっと
ー女盗賊ミランダとアメジストの大ダンジョンー
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48 衛兵達の合戦

大体5月中旬。初夏に入り、教会の聖堂騎士の重鎮がアメジストの街に招待された。合戦を目前に、フェクトは配備された兵器を見て前線に立っていた。

「遠路はるばるお越し頂き、ありがとうございます。」

要塞の壁上でエリスは将軍に向けて挨拶する。後ろにはミランダとシトリンが聖堂騎士の護衛として同じ場所で合戦を眺め見ていた。

衛兵達は自信ありげな笑顔で活気づいている。

「随分と賑わっていますな。」

「えぇ、お陰様で。本当は夫の両親も招待したかったのですが…」

「問題ありません。彼の采配、しかと伝えさせて頂きます。これだけ冒険者達も活気づいていれば、安心でしょうな。」

「ふふ、皆さま頼もしい限りですよ。」

「アレフ殿が辺境伯として婚約すると聞いて、正直我々は懐疑的でしたがね。彼は弁達者で多方面から気に入られていましたが、内情を知る者にとっては正直、大言壮語ばかりで…その…こちらに来てから、奉納金も満額ではないと聞き及んでいます。」

軍人である彼は比喩表現が苦手で、思わずエリスにストレートな発言をしてしまう。

「それについては、考える必要はありませんよ。」

彼女は裏のある様な笑顔で即答した。フェクトとの言葉のやり取りはハッキリさせるものの方が多く、彼女としてもそちらの方がやりやすかった。

「…失礼ながら、どういう意味でしょう?」

「彼は燻っていらしたのでしょう。目の付け所が違いますから。」

「んふっ…」

上手いことを言ったと、エリスは少しどや顔をして、後ろにいたミランダは思わず笑う。

「…ほう?」

「始まりますよ。」

昼、正午になりアメジストの大結晶に真っ直ぐ太陽が差し込むと、高原からモンスターの群れが現れ、角笛の音が鳴り出した。エリスは怖気るどころか、笑みを浮かべる。

聖堂騎士の将軍は彼女の笑みを見て、恐れおののいた。明らかに勝利を確信している好戦的な笑み。まだ幼さは残るが、英雄ドイネルと共通する豪胆さがある。

投石器が石を投げると同時に攻撃が始まった。


ダァンダダダダダダァン!


けたたましい量の銃声が絶え間なく鳴り響く。将軍は思わず耳を塞いだ。

「なっ…なんだこれは…!?」

ガトリングガンの一斉射撃が高原に白煙をまき散らし、ゴブリンの群れやリザードマンが倒れていく。

フェクトの魔法で黄色い光が上がると、ガトリングガンは後退してリロードに入り、衛兵達がライフルを持って入れ替わった。銃撃を絶え間なく続ける。

日差しを浴びている少数の死霊剣士は簡単に砕け、6層の粘土質のゴーレムや7層の触手のモンスター、毒を持つクジャクの巨鳥、クリスタルのゴーレムに8層のカマキリ人間。

人間大のモンスターは銃で、大型の魔物は進化した野砲で一撃でのされていく。フェクトや魔法の使える下士官の衛兵が風魔法で強風を起こし、白煙を振り払うと、再び銃撃が始まった。

インフェクテッドアーマーが2体、6門のガトリングガンの餌食になって酸をまき散らしながら、悲鳴と共にその場に倒れた。50数発は物理防護の魔法や持前の固さで持ったが、それでも弾雨の前には数歩前進するのが精いっぱい。

進化した野砲もまた、フェクトの技術を用いた後送式のライフル砲弾。装填方法は元より、照準器も改良されているおかげで、たった数十メートル先の見えている相手に対して外すことはまずありえない。

一発で最後のインフェクテッドアーマーの四肢が吹き飛び、跡形もなく消し飛ぶ。


ライフル砲の砲口から、一本筋の最後の白煙が、静かになった戦場に横切る。衛兵達は周囲を見渡し、立ち上がる敵の存在がないか確認する。

そしてひとりまたひとり、フェクトの方を向き、目を合わせると、頷いて彼は角笛を鳴らす。


「勝鬨を上げよ!!!」

「「「ワァァァァァァァーー!!」」」


ほんの30分で合戦が終わった。モンスターの死体が1つ2つ空堀の中に転がっただけ。冒険者の出る幕もなく、合戦は終わった。




衛兵達だけが両手を上げて万歳する。冒険者達は腰を抜かし後ろで茫然としていた。聖堂騎士の将軍は余りの出来事に言葉を失い、エリスと顔を合わせる。


彼女は見下す様な笑みを浮かべていた。


彼は直感で理解する。奉納金の事を考える必要がないと言ったのは、教会の十字軍の全てを相手取ってもいいと、絶対的な勝利の自信があるからだ。


【わざわざ弱くて嫌いなヤツの側に着くというのも妙な話だ。勝てる戦なら、誰だって挑む。】


過去にフェクトはカイルにそう伝えた。今や帝国相手にも同じことを言えるだろう。エリスのほくそ笑んだ目が言っている。やれるものならやってみろ、負けるのはお前達だと。


立場の逆転は明らかだ。板金鎧のスネ当てが震え、小刻みに金属音を鳴らす。


ミランダはまだ日も暮れていない時間に教会に戻った。重々しいライフル砲は正門を通って2匹のロバが牽引している。ベアリングとサスペンションのおかげで、砲の運搬効率は大きく上がった。

馬が嫌がって嘶きながらムチを打って引っ張っていた1年前とは考えられない景色だ。

「アッハッハッハッハ!笑いがとまんねえ~!見たかい聖堂騎士のアイツ、エリスを前に足震えてたよ!」

ミランダは大笑いする。

「凄かったねぇ今回の合戦…」

シトリンは未だ信じられないという目が丸いままの顔でいた。自分達が訓練に励んでいたのは何だったのかと思ってしまう。

フェクトは過去に、3年あれば帝国に逆侵攻できると言っていた。ミランダには正直、半信半疑だったが彼の発言は現実味を帯びて来た。

人的損害ゼロ、戦闘時間は30分。後片付けに2時間。戦った後に2日は衛兵達の手伝いで片付けをしていたのが嘘の様だ。

「これなら衛兵に歯向かおうなんて馬鹿な冒険者もいなくなる。治安もよくなりそうだよ。」

「でもちょっと不安だね…回りから危険視されないか心配だよ。」

クレアの一言にミランダは嘆息して返した。

「ハッ、今まで隣国連中は全員敵みたいなモンだったじゃないかい。これでようやく鼻っ柱がへし折れて、まともに聴く耳持つ様になるだろうさ。今までなんて、3倍奉納金入れろとか舐められてたんだよ?」

暗殺計画前からフェクトも自分達は大きな脅威と見られるだろうと、似たようなことを言っていた。彼は始めからクレアの懸念だって分かっていたのだ。

それ以上に、いつの間にかミランダはこの国の深い部分を知っている。クレアは彼女が大人になっていることを認める他なかった。

自分より知識を持たれると、親としての立つ瀬もなくなっていく。親側にとっても、子供の手綱を握りにくいストレスの強い難しい時期に入ったと言える。


ミランダはひとり中央街に来た。工事は進み、煙突の形状が変わって少し煙突の背が高く、そして蓋をされたような形へと変わっている。今まで煙突から真っ直ぐ出ていた黒煙は、笛の様に横へ吹く狼煙の様な白煙に変わっていた。

(…思えば、この酸性雨から始まったんだよねぇ。)

フェクトが来た時は、旧市街区に石炭の黒煙が酸性雨になって降り注ぎ、黒ずんで煤塗れの廃墟同然だった。領主も旧市街区へのインフラ投資を絶っていたことで、復興は絶望的。

旧市街区を地力で復興させる金稼ぎから始まり、商売から政権奪取。地道なこともやってきたし、大一番の勝負もやった。慎重に、時に大胆に。

難しい判断を精妙に遂行していくフェクトは、街を率いていくに足る人物だと今では確信できる。

(本当に、沢山の経験になったな。)

独力では英雄になれなかったことは少し悔しいが、彼とミランダで決定的に違うのは、ただ武力で悪を打倒して終わりではなかったことだ。悪党を倒し、平和が訪れる冒険譚や英雄譚とは何もかもが違う。

エリスも家族を失わず、シトリン達も怪我はない。中央の人間達は、更に発展して、旧市街区は生き返った。この街の町民達の暮らしも、魔物である自分の正体を知られることなく、全てを助けた。

(認めるしかないんだねぇ…アイツは…まさしく救世主だよ。)

そのフェクトはまた、ミランダから離れた場所でまだ仕事に勤しんでいる。


武器屋はずっと準備中だ。煙突の整備中で石炭からコークスへの錬成がまだ満足に出来ず、鉄の精錬が出来ずに剣や鎧の生産が遅れて冒険者達からクレームが来ていて、粗暴な冒険者では暴力沙汰もあった。

それも今回の衛兵達の合戦から一変する。衛兵達は岩の様なモンスターを簡単に貫徹する銃を複数人が持ち街を巡回している。睨まれれば、後ろ暗い冒険者は背筋を凍らせて視界の外へ出ようとする。


内政にありったけのつぎ込んだ金は、対外ならず、街の治安の安定にも影響を及ぼした。


そして建設されている、巨大な青銅のタンク。ハーバーボッシュ法は目前に迫っている。高圧に耐えられる巨大な青銅のタンクが作られ、その気密の為に用いられるネジも、旋盤が開発されたことで実用段階にまで至った。


コークス生成から生まれるタール煙の煙突の改修を進め、大気汚染を軽減しつつコールタールの回収や発生する三酸化硫黄を用いて硫酸の抽出をする。

コールタールは木製建材の防腐剤の塗料として有用で、硫酸は代表的な危険物だが、産業的に書き切れないほどの用途を持つ。

アンモニアの抽出生産が作れれば、硫酸を用いるとともに、肥料と火薬の調達量は、領地外への輸出すら視野に入るほど爆発的に加速する。




今回の合戦の結果、街に潜んでいるスパイを通じて帝国の中枢にまで伝わることだろう。迂闊に手を出せなくなった帝国は侵略に二の足を踏む。

そしてディミトリが落延びた街も、今は帝国領とて、彼らも占領された末端の地域のひとつだ。追放された反乱分子や、不満を持つ人物は必ず存在する。

アメジストの街が仲間になると言えば、抑圧されていた反抗心に独立を果たそうという誘いも本気に思うだろう。


フェクトの次の目標は、塩だ。内地であるアメジストの街では、塩は岩塩でしか取れない貴重品。教会も帝国も、勝てないと分かれば、外交を冷え込ませて物流を途切れさせてくる。人間の生活の為にも最も重要な塩が不可欠だ。


この世界では黒海は存在しない。しかし、なにがしかの共通点はあるらしく、コーカサス地方の様な高い山脈が平行に連なる山稜地帯となっていて、山の合間を地中海方面から流れる無数の巨大な塩の川がある。

その川のひとつを独占する様な形で街がある。アメジストの街から東側、農奴時代のミランダが過去に住んでいた家の近辺を通らないとたどり着けない、アメジストの街を挟んだ街だ。支配地としては教会側となる。


落延びた領主とも既に文通は交わし、帝国とも外交が始まっている。合戦の報告が教会本国に伝わる頃には、南方の帝国が既に進軍を始めている手筈になっている。

フェクトは手始めに、その街を落延びた領主に占領させるつもりだ。代理で戦争を仕掛けて貰うことで、教会とは手を切らずに占領する。

そして武力で上回る自分達が取り返し、教会とは仲間の体裁を保ったまま自治下に置く。限界まで教会側には敵対宣言をしない。業を煮やさせる挑発行為。

力関係を明確にさせつつ、ドミトリ領主をエリスの手元に戻すことが出来る。


塩と領地が必要と言ったのはフェクトだったが、父親に塩の街を取らせようと具体案を練ったのはエリスだった。家族を手元に戻すと同時に、今までアメジストの街の国力が下がるのを傍観していた同教国に対する報復でもある。

彼女の腹の奥底には、一族を冷遇した教会への明確な敵意があった。

物腰柔らかく、如何にもお嬢様だったエリスだが、今では腹の底ではふてぶてしく、強めの態度を取るようになった。敬愛するミランダやフェクトに同調したものでもあり、それは間違いなく彼女自身の成長に繋がっている。



夕暮れ時、古い教会の屋上から、ミランダは中央の庁舎を見ていた。


エリスの教会への恨みはミランダにも直接見聞きすることはなくても理解できていた。思えば、旧市街区を滅亡に追い込んだ領主の血筋は今や味方になっているのだから驚きだ。

敵味方関係がコロコロと変わり、彼女は少し疲れてしまう。黄昏時に思いを馳せる。

フェクトは言っていた。今後も何度も対話を続けて、情報が更新される度に着地点が変わり続けると。1年前の自分の事を思えば、領主を外に放り出してから今度は仲間に引き入れるなどとは思いもしなかったろう。

本当に着地点が変わってしまったものだ。エリスに冗談半分で言われた言葉を思い出す。

【どうですか?騎士として、仕えてみませんか?】

ガラではないし、気恥ずかしい格好を何度も着たくはないのだが、努力が認められたことは悪い気はしない。

(ただの薄汚い盗賊だったつもりなんだけどねぇ…)

彼女は苦笑いながら夕日が沈むのを見ていた。停止していた2つ目の煙突から、白い煙が出始める。

「ミランダ!そろそろご飯だよ!」

「ん、あいよ。」

梯子を上ってシトリンが顔をだすと、彼女はミランダの隣に座った。

「また中央の方見てる。」

「まーね。思うところ、色々あってさ。」

シトリンの手首を握ると、ガリガリに痩せていた時期を思い出す。全てはフェクトが来てから始まった。

「…なぁ、アイツのこと、どう思う?」

「どうってねぇ。私はあんまり関わってないけど…何、好きなの?」

冗談めかしてシトリンが言うと、ミランダは柔らかい笑顔で答えた。

「好きか嫌いかって言えば、まぁ好きかもね。沢山世話になったし。」

「ふーん…?」

「でも恋愛感情はないさ。アイツもそうだと思うよ。」

「そうなの?」

「乗っ取った体で子供をこさえても、それは自分の子供じゃないって言ってたしね。」

「…モンスターが生まれても困るんじゃないの?」

「それはそうだねぇ。アハハ。」

ミランダは愛想笑いをして、少し左に目を逸らした。

彼が発展させたアメジストの街が残り続ける限り、彼の人生と努力は残り続ける。エリスを担ぎ上げ、身を粉にする勢いで街の発展に尽力する理由が、そのためだ。

「…本当は違うこと思ってるんじゃない?」

シトリンは更に詰める。

「…アイツ、なんでここに来たんかなって。」

ミランダも彼が生来きっての魔物である認識はあったし、納得もしていた。少し、人間として生まれられなかったことを不憫に思っただけに過ぎない。

「ミランダが拾ってきたんぢゃん。」

指で頬をつつかれて当然の事実を言われる。

「そうだけどさ。なんでアイツだけが喋れる元人間の魔物なのかって…人間として生まれても、アイツに出来たことは大して変わらなかったろうにって。ちょっとだけそう思っただけ。」

「…もうごはんにしようよ。ミランダらしくない。」

「そうだね。」

中央街は夕方になっても、アレフ辺境伯とエリスを称える声で溢れていた。領主が魔物に乗っ取られていることを、民の大勢はいざ知らず。

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