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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

最高司令官の憂鬱

作者: ちゃむ


「これがタクトか……」


 魔法師団最高司令官、セイン・ストラトスは静かにつぶやいた。


「閣下。ご覧になるのは初めてでしょうか。そうです、これがタクトです。正確には爆炎のタクト。その名の通り、使用すると爆炎魔法を一発詠唱出来るシロモノです。養成校に所属するレオンと言う者が開発し、冒険者に無償で配布しております」


 タクトを携え執務室へ入室したスカーレット・バルカンは、セインの眼前にタクトを掲げてそう説明した。


「スカーレットはもう試したのかい?」


「はい、閣下。今回の遠征に風刃、雷槍、凍球、爆炎、各二本ずつ携行し、私とオロバス中尉とで使用致しました」


「どうだった?」

 

 セインは話の続きを促した。


「壮絶。一言で表すと壮絶でございます。この小さなタクトから発射された魔法はミノタウロスを一撃で葬る威力がございました。想像を絶する性能と言わざるを得ません」


「ミノタウロスを一撃で……僕の極大魔法に引けを取らない威力……どれぐらい世に出回ってる?」


「本人に確認を取りました所、現状で200本は配布したと申しておりました。どこからそんな数の魔石を手配したのか本人は明かしませんでしたが……彼はカイル・トランシアの隠し球と言われた少年、カイルが一枚噛んでいるのかも知れません」


「カイル……ホントに食えない奴だ……僕と共に遠征に出ていた頃も、どうにも食えない奴だったけど、更に磨きがかかってるじゃないか……」


「実は閣下……この度新開発されたタクトがございまして……レオンと懇意にしているランスが持ってきたのですが……どうにも珍妙なシロモノでございまして……」


 スカーレットは大きな箱を取り出し、テーブルの上に置いた。


「開けるよ?」


「どうぞ……」


 セインは箱を開け、目を見開いた。


「これは……見た所S++クラスの魔石が十石……ぶっ飛んでるな……どういう意図があるんだ?もったいぶらずに早く教えてよ。これはどういう魔法が使えるんだ?」


「召喚魔法と呼ばれる物にございます。流石に気軽に試せる物ではない為、これはまだ関係者の間では使用した者はおりません。ランスから聞いたところによると、従魔を一体呼び寄せる事が出来る、との事です」


「従魔を……?有用かどうかはどんな従魔かによるな」


「それが……ガーディアンを呼び出せると……」


「は?ガーディアン?ガーディアンというと天界の守護者と呼ばれる?」


「あのレオンが開発しただけにあり得ないとも言い切れず……」


「そいつ、頭がおかしいんじゃないか……レオンに会おう。どこにいる?」


「閣下……レオンは変わり者でございまして……私かランスしか会う事が出来ません。ご了承下さい」


「何言ってんの?僕は最高司令官だよ?そいつは養成校に通う学生だろ?僕が会うって言ってんだから会うんだよ」


「申し訳ございません……私かランス以外が押しかけてきたら自分はここから居なくなると申しておりまして……失うには惜し過ぎる人材……ご了承下さい……」


「なんだよ……意地でも会ってやるぞ……。まぁ今はこいつだ。ガーディアンが呼び出せるって?ガーディアンがこの中に入ってるって事?」


「いえ、そうではないようです。別の場所にいるレオンの従魔のガーディアンを呼び寄せる、との事です」


「まってまって……レオンの従魔のガーディアン……?何?僕の事からかってんの?いい加減な事言ってるといくらスカーレットでも許さないよ……」


「いえ!決してそのような事は……レオンからは一切危険はないし、ガーディアンは人の言葉を話すそうなので、どこか敵のいる場所で試してみてと言われています。閣下もご同行頂けないかと考えております」


「行くよ、行くに決まってるけどさ……なんかそのレオンって奴、ホント気に食わないな……ガーディアンなんてハッタリに決まってるよ。僕達ですら見た事ない魔物を呼べる訳ないだろ」


「それも含めて確認しに参りましょう」


「すぐ行こう。今すぐだ。主要なメンバーを集めてハンザス峡谷に向かう」


「はっ!すぐに騎竜の準備を致します!」


 スカーレットは爆炎のタクトと召喚のタクトを持ち、執務室を出ていった。


「レオン……気に入らないな。何様だよ。僕と会わずにどうやって魔法師団員になるつもりだよ。ふざけやがって……」


 悪態をつきながらセインは執務室を出た。



 ハンザス峡谷へ向かう道すがらスカーレットはグレイルに問いかけた。


「グレイル様……グレイル様はガーディアンをご覧になった事がございますか?」


「いや、ない。万が一ガーディアンがいたとして、見て生きておる者などおらんだろう……」


「レオンはガーディアンを従魔にしていると申しているのですが……」


「あれは頭のネジが外れている……嘘か誠かわしには分からん……」


「ですよね……レオンの言う事はどこまで信じていいものか……ある意味人智を超えた存在と言えるかも知れませんが……」


「しかし閣下は機嫌が悪いようだが……何かあったのか?」


「レオンに会うと仰られたので、丁重にお断りしたのですが、よほど気に入らなかったようです。当然と言えば当然ですが……」


「レオンの偏屈にも困ったモンだな……だがあやつのタクトは尋常ならざる代物……我々人類の希望とも言える……もうあやつ無しで闇に対抗出来るとは思えん」


「ですよね……」


 ハンザス峡谷のゲートが見えてきた所でセインが降下の指示を出した。


「この辺りで良いだろう。現状最難関のゲート……本当にガーディアンが呼べたなら軽く超えて見せるはずだ」


 セインは大きな箱を開き、十個の魔石がはめられた奇抜な意匠のタクトを取り出した。


「スカーレット、これはどうやって使うんだ?」


「前方にかざし、魔力を通すだけでございます。自分の魔力は消費されず、魔石に宿る魔力を使用して魔法が実行されます」


「なるほど……じゃみんな行くぞ。万が一何も出なかったらゲートには触れずにとんぼ返りだ。だがもしガーディアンが呼び出されたらこの機会にあのゲートを越える。それで良いな!」


 全員が肯定の返事をした。

 それと同時にタクトの前方にいくつもの魔法陣が現れた。

 それぞれの魔法陣から光の粒が現れ、やがて空中に光が集まってきた。


「だ、大丈夫だろうな……これ」


 セインが小さくつぶやいたのも無理はない。

 魔法陣と言う物はこの世界には存在しないのだ。

 レオンの厨二病が色濃く反映された演出だった。

 やがて光が落ち着き、中心にある魔法陣の真ん中に一人の翼を持つ騎士が立っていた。


「召喚に応じて馳せ参じた。我が名はゴロー。主、レオンの第五の従魔なり。討伐対象は何処か」


「レオンの第五の従魔……」


 スカーレットがつぶやいた。


「君は本当にガーディアンなのか?」


 セインが問いかけた。


「我はガーディアン。天界の騎士なり。敵は何処か」


「敵はあのゲートの中にいる。確認された情報によるとゲートの中にいるのはグレーターデーモンだ。勝てるか?」


「我の敵ではない」


 ガーディアンはゲートへ向かってフワリと飛行した。

 するとゲートからグレーターデーモンが姿を現した。


「SSSクラスのゲートキーパー……ここを超える事が出来れば一気に活路が見出せる……」


 セインがつぶやくうちにガーディアンとグレーターデーモンが交差した。

 ガーディアンは剣を抜いていないように見えるが、すれ違い様にグレーターデーモンの腹部を一刀両断していた。


「い……一撃かよ……」


 セインは目を身開いて声を漏らした。

 他の隊員も同様にざわついていた。


「此度の敵はこれだけか?」


「あぁ、良くやってくれた。僕は魔法師団最高司令官のセイン・ストラトスだ。レオン殿によろしく伝えてくれ」


「承知した。またいつでも呼ばれよ」


 ガーディアンは霞のように消えていった。

 そこにはグレーターデーモンの両断された遺体が転がっていた。


「レオン……ぶっ飛んだ野郎だな……あんなのを従魔にしてんのか……」


 セインの呟きをよそに、隊員達はゲートを破壊し、ハンザス峡谷を解放した。


「レオンが来ればどこでもフリーパスじゃないのか?なのに冒険者や僕達に解放させんのかよ……ホントふざけた奴だよ……」


 セインが苦虫を噛み潰したような顔でそう呟いた頃、レオンの秘密基地は大いに盛り上がっていた。


「ゴロー!ご苦労さん!どうだった?」


「向こうにいた敵はグレーターデーモンでござった。もっと強敵を期待していたのでござるが……残念でござる……」


「ゴロー!早くそこをどくでござる!次はワシの番でござる!」


「何を言う!まだ一時間立ってないでござろう?まだワシのターンでござる!」


「ゴローがどかねばワシらの番が回ってこんでござろう?早くどくでござる!」


「イチローもジローも……。一時間交代って決めただろう?それに次呼ばれるのはいつになるかわからないよ。あのタクトをチャージするのに数日かかるだろうから」


「ぬぅ……ゴローが一番に呼ばれるなど不満にござる!一番はこのイチローが行きたかったでござる!」


「まぁそう言うな。ゴローは末っ子だけど、ちゃんと一時間交代で魔法陣に立って呼ばれたんだから。運が良かっただけだよ」


「そうでござる。イチローの兄者が第一の従魔なのは間違いないでござるが、召喚第一号はこのゴローでござる。気分が良いでござる!」


「ぐぬぬ……」

「そんなものはたまたまでござろう!召喚第一号に価値などないでござる!」

「そうでござる!ワシは第三の従魔!ゴローより二番も若いナンバリングにござる!サブローの名の方が価値があるでござる!」

「ワシの時間が後二十分有ればワシが行けたのに……シローは実に悔しいでござる……」


「お前らケンカすんなって……このタクトもいくつか作ってみるかな」


「最低五本は作ってほしいでござる!」


「ハモんなって……それに五本作ったらうちのガードマンがいなくなるじゃないか……」


「ここにはタロス達がワンサカおるでござろう。タロスもそこそこ戦えるでござるよ」


「我々もそこに立ちたいです……」


 タロス達が羨ましそうにゴローを見ていた。


「わかったよ……ガーディアン召喚のタクトをもう一本とタロス召喚のタクトを三本作ろう。召喚コストはテレポートだから魔石はどっちも同じだけ必要になるんだよなぁ。結構痛いぞ……」

 

 かくして、秘密基地ではレオンがさらなる召喚魔法のタクトの制作に取り掛かるのであった。



ーーーendーーー



 

近いうち、本編を投稿開始しようと思っています。

これは合間にスピンオフ的なノリで書いた物ですが、案外これだけでも読めるのではないかと思い、投稿してみました。読んでいただけると嬉しいです。


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