『精霊回廊』
目の前をガーネットが歩いている。
最近見かけた楽しそうな様子はなく、目付きが鋭く張りつめたものを感じる。
おそらく、先日のフローネの件を引きずっているのだろう。
「ガーネット、もっとゆっくり進むんだ。今のペースだと不意打ちを受けてしまう」
「……はい」
焦る気持ちはわからなくもないが、気負うのは良くない。思考が狭まれば戦闘のミスへと繋がるからだ。
何せ、俺たちが今いるのは『精霊回廊』と呼ばれるエレメント系モンスターが
出現するダンジョン、その一層だ。
このダンジョンは、王都に存在するダンジョンの中でも特殊で、出現する敵すべてがエレメント系モンスターとなっている。
精霊は人が暮らしている日常の中に存在している。だが、視ることができるのは一部の恵まれた才能を持つ者のみ。
エルフなどがこれに該当するのだが、そもそもエルフの冒険者というのは相当稀なのだ。
このダンジョンに存在しているエレメント系モンスターとは、微精霊と呼ばれる精霊の元となる存在が、瘴気と呼ばれるものに汚染され物質に宿ったものなのだ。
土に宿ればゴーレムのような形を取り、水に宿れば塊となり動き回る。火や風も同様でそれぞれの属性を得るのだが……。
「エレメントは『索敵』に引っかからないんだ。いつ遭遇しても良いように気を付けてくれ」
人間に対して敵意がないからなのか、それとも他に原因があるからなのか?
俺の『地図表示』には赤い点が一つも映っていなかった。
俺とガーネットが警戒しながら武器を構えたまま進んで行くと……。
「ティムさん!」
目の前に数メートル程の竜巻が発生していた。
「『ウインドエレメント』」
冒険者ギルドにあるモンスター図鑑で見たことがある。
このモンスターは風を纏ったエレメントで、近付くものを風の刃で斬り裂く。
「私が倒します」
ガーネットは俺に向かってそう言うと、剣を抜き斬りかかった。
「えっ?」
ガーネットの鋭い斬撃が竜巻を斬り裂く。
だが、次の瞬間。何事もなかったかのように元に戻ってしまった。
「ガーネット、エレメントの弱点は核だ。それを破壊しなければ倒すことはできない」
「くっ!」
剣を振り回すが、竜巻のせいで視界が塞がれており、核が見えない。
「きゃあっ!」
鋭い風の刃が飛んできて、ガーネットにダメージを与える。
「俺が魔法で倒す。ガーネットは下がってくれ」
このままでは埒が明かない。俺が指示を出すと、ガーネットは俺の近くまで引いてきた。
「【ファイアバースト】」
魔法を唱え終えて放つ。
現時点で、俺が放てる最大の魔法だ。
赤い光が点滅しながら突き進み、目標のウインドエレメントのいた地点に到達し爆発する。
当然、この一撃で倒せると踏んでいたのだが、ウインドエレメントが予想外な動きをした。
「何っ!?」
「逃げましたよ!」
ウインドエレメントは空にふらふらと浮かび上がり逃げ出したのだ。
それほど移動速度が速くなかったせいか、爆発を受けて吹き飛んでいく。
だが、爆発の中心をずらされたせいで、まったくダメージがないようだ。
ウインドエレメントはすぐに態勢を立て直すと、俺たちに近付いてきた。
『ルルルルルルルルルルルル』
ウインドエレメントの怒りなのか、風を鳴らした音が聞こえる。
「ティムさん! 危ないっ!」
俺の前に立ち、剣を構えたガーネット。彼女を風の刃が襲った。
「きゃあああっ!」
「ガーネット!」
「そんなに強い攻撃ではありませんので平気です」
彼女の防具には『プロテクション』の魔法が付与されているので、肌に傷は見あたらない。
俺がホッと息を吐くと、
「それより、どうされるんですか?」
ガーネットが聞いてきた。
本体である核を潰したくても、ウインドエレメントは宙に浮かぶことができるので、空へと逃げられてしまう。
精霊回廊の中は天井も高く、幅も広い。壁はツルツルしており、絶えず青白い光が走っている。
四角く広がるこの場所ではファイアバーストを再度放ったところで同じ結果になるだけだ。
「【ファイアバースト】だと集束に時間が掛る。完全によけきれないみたいだが、倒すのは無理だろう」
何せ、本体は小石程の大きさの核なのだ。爆風で吹き飛ばされてもダメージを与えるのは不可能だ。
「どうされるのですか?」
そうしている間にもウインドエレメントが追撃をしてきて、不可視の風が
向かってくる。
「こうするんだ!」
俺は魔法を唱えると放った。
「【ウインドバースト】【ダブル】」
自分の放った風を搔き消され、先程よりも強い爆風を受けたウインドエレメントは吹き飛び、壁にぶち当たる。
「ガーネット! 今がチャンスだ!」
風を吹き飛ばしたので、今なら核が露出している。
「はいっ!」
彼女は『オーラ』で強化した身体能力を生かすと、地を蹴り敵に接近する。
「はっ!」
次の瞬間、核は真っ二つに斬り裂かれるのだった。
「精霊石……出ませんでしたね」
戦闘が終わり、彼女はがっかりした表情を浮かべる。
「ティムさんの考えはわかっています。オークションが開催されるまで一週間しかありませんから。効率よく稼ぐには高値で売れるレアアイテムの『精霊石』を狙うのは正しいです」
ガーネットはポソリと呟いた。
彼女の言葉は半分正解だ。
「ですが、それで本当に金貨200枚貯められるのでしょうか?」
たった一匹のウインドエレメントに苦戦しているようでは数をこなすことが出来ない。
ガーネットは不安そうな表情を浮かべると、疑問を口にした。
「確かに、このダンジョンは厄介だ。それぞれの属性のエレメントに対応する必要があるから、攻撃の手札が多くなければ歩き回るだけでも難儀する」
実際、ウインドエレメントは物理攻撃しか持ち合わせていないガーネットとは相性が悪かった。
「でも、ここで稼ぐのが最適なのは間違いない」
確かにモンスターは厄介だが、その分人も少ない。
「それとも、フローネを助けるのを諦めるつもりか?」
俺の問いに彼女は顔を上げると、強い意志を瞳に宿していた。
「申し訳ありません、弱気になっておりました。次こそは私一人で倒して見せますから」
「ああ、頼んだぞ」
やる気を取り戻し前を歩く彼女を、俺は頼もしそうに見るのだった。
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