2.バケモノとウサギ
「......んっ」
暖かい風を感じ、起床する。
「あっ.......すっげぇ」
なんて、言うのだろう。
目の前に広がる島々、大きな海を隔ててはいたが、すべての島を一つずつ繋ぐ、海上の一本の道のようなものがあり、
「.....ん?」
少し体勢を変え、足元を見ると、アリみたいな虫がゾロゾロいた。
ぬいぐるみの状態で服もなく、靴もなかったため、草原を素足で歩くしか、ここからの移動手段はなかった。
ーー ...うぇ、なんか嫌だな
踏みしめた感触は、昔一度学校行事で裸足で歩いたことがあったので、その感覚に近い。
しかし、細かい事に目をやると、少し、気分が悪くなった。
「....ふぅ」
思わず、息をついたが、初めての一歩は踏み出すことこそ恐ろしかったが、踏み出してしまえば、何という事はなかった。
手にあらかじめ結んでいたタスキを見る
ーー 連絡ってどうすりゃ.....
「グギァァァァ〜」
「⁈」
なんだろう、今テンプレにも思える状況になるのだろうと背中で感じた。
「......なんかデカイの来てる」
背後を振り向くと、向こうからデカイ幼虫みたいな生物がこちらに猛スピードで向かって来ていた。
「いやぁぁぁ!」
とにかく生き残ることを第一に、逃げ出すに限る。
能力を試すというのも考えたが、それで死んだら元も子もない。ひとまず、逃げ切って落ち着いた場所で能力の確認をしようと思った。
幸い、島をつなぐ道が近くにあり、そこから違う島に逃げる事は出来そうだったが、島から島までの距離があまりにも絶望的だった。
ーー いや、考えてもしょうがねぇか。
考える暇もなく目の前の道に入った。横幅はモンスターも余裕で通れるほど広く、当たり前のように幼虫は追ってきていた。両側は海に囲まれていて、ダイブすれば、ひとまず幼虫からは逃れられる。
しかし、この身はぬいぐるみ。一度潜れば、果たして這い上がれるのか、そう考えると海へのダイブは自然に択から外れていた。
ーー ダメだ、逃げきれない
学校で昔習った事がある。
「危ない人にあったら大きな声で助けを呼びましょうね」と
「.......」
俺は走りながら、自分に出せる最大声量で、魔法の言葉を唱えた。
「助けてくださいぃぃぃ!」
「......<空打二式 拳>」
ものすごい勢いで、横を通過した謎の影。
その後すぐに、背後からは聞きたくもない音とともに、凄まじい衝撃がきた。
「うっ」
背後を見たくはなかったが、声はしなくなったので、とりあえずは助かったのだろう。
「おーい、大丈夫かい?そこの君」
「あっ、大丈夫です」
「あれー?君、もしかして使い魔?」
気づくと、影の正体は目の前にいた。
「うわっ」
「あっ、ゴメンゴメン、びっくりした?」
「いえ、まあ」
目の前には、どこかの映画で見たような、ウサギがいた。身長は2メートル前後くらいで、服装はいかにも家政婦といった何とも違和感のすごい容姿をしていた。
それに、身に付けていた綺麗なペンダントにはSの文字が刻まれていた
「あっ、あの助けてもらってありがとうございます」
「いやー、いいんだよ別に。あっ俺ファルって言うんだ。よろしく」
「クマ....ですよろしくお願いします」
とっさに本名を偽ってしまったが、まあいいだろう。
「クマって言うのか、で君の主人は?」
「主人?」
「あぁ、お前使い魔だろ?なら主人とかいるのか?」
使い魔とはなんのことだろう?
「いえ....あの、よくわかんないです」
そう言った途端、ファルは喜んで跳ね上がった。
「おー!ならお前誰とも契約してないのか!」
「えっ、はい...」
「あのさ、ちょっと頼みがあるんだけど」
「今から合わせたい人がいるんだけど、そいつと契約してくれないか?」
「契約ですか?あー、えっと」
話がドンドン進んで、全く理解が追いつかない。
「あー、ゴメンゴメン、会ってみないとわからないよな」
「プライドがちょっと高いけど、根っこは優しい<女の子>だからさ、頼むわ」
ーー 契約に女の子.....話の整理が....?女の子⁉︎
「お任せください、この僕が命をかけてお守りします」
「おー、なら早い方がいいな」
フィルはそう言うと、俺を抱えた。
「しっかり捕まってろよ」
「<空打一式 飛>」
ファルが何かよくわからない事を口走ったとたん、ものすごい勢いで移動を始めた。
「うあぁぁぁぁ!」
「黙ってないと舌噛むぞ!」
ーー ぬいぐるみに舌噛むとかあんのか?
そうして、俺の冒険の開幕はよくわからない勢いと共に、動き始めるのであった。
ーー とある建物にて ーー
「......ん?ファルがこっち来てる?」
薄い青みがかった長髪の少女。
空の日差しと共に、ファルがこちらに迫っているのを感じていた。
「.....」
少女が自身の拳を軽く握ると、周囲には異様な風が流れた。
「....はぁ、私と契約出来る使い魔なんていないのに」
ため息と共に、握った拳をゆっくりと緩める。
「これでダメだったら、学園に行くのは諦めよう」
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