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サルベージスタート


「あいたっ!」


 空中から地面に放り出され、尻餅をつく。

 痛めた尻をさすりながら、立ち上がった俺は絶句する。


「…………は?」


 そこは、教室ではなかった。

 建物の中ですらなかった。

 草原だ。

 辺り一面の草原の中に俺は一人佇んでいた。


「……え……は?なぁ……え?」


 俺はいまだに、混乱の真っ只中だ。

 数秒前の状況と、今の状況が全く繋がらない。

 何で教室の中にいた俺が草原にいる?

 瞬間移動?どうやって?

 先生は?いないのか?

 夢を見ている?

 それとも、まさか本当に――


 ♪~~♪~~♪~~


「ひっ!」


 何だ!……スマホ?……スマホの着信音か!

 俺は慌ててポケットからスマホを取り出す。

 着信音を聞いて少し落ち着いてきた。

 着信があるってことは、電波が通ってるということだ。

 本当に異世界なんかに来るはずが……


 発信者  神 ~GOD~


「…………神に知り合いなんていたっけな」


 いや、そういえば最近出来たな。

 最近というか、数分前だけど。

 そもそも番号教えてないけどな。


「……」


 普段なら絶対取らないが、今この状況で着信を無視する度胸なんてない。

 震える手で通話ボタンを押す。


「もしもし……」

「ふむ、ちゃんと着いたようじゃな」


 相手は予想どおり、神代先生だった。


「先生か!どうなってんだこれ!草原にいるんだけど!アンタがやったのか!」

「とりあえず落ち着くのじゃ」


 落ち着けと言われても。

 ……いや駄目だ、このままじゃ状況は改善しない。

 俺は深呼吸して、努めて冷静に言葉を紡ぐ。


「これはどうなっている?何で教室にいた俺がいきなり草原にいるんだ?」

「ちゃんと説明はしたぞ」


 説明はしたって?

 ……あの、与太話か?


「まさか、本当に異世界転移したって?」

「だから、そう言っておろう」

「そんな……馬鹿な」

「現実に起きたことを受け入れられない奴は、馬鹿ではなく無能じゃ」


 頭にくることを言いやがる。

 ……だがそうだ。現実に起きている。

 まずは否定より先に受け入れなければ。

 俺は先程の先生の話を思い出しながら話を続ける。


「ここに俺のクラスの連中がいて、俺がそれを連れて帰る」

「ちゃんとわかっておるではないか」

「何で俺が、代わりの奴はいないのか?」

「おらん。おぬしがやらなければ、おぬしも、クラスメイトも、一生このままじゃ」

「一体何故――」

「何故はない。おぬしたちは選ばれた」

「!!」

「良いも悪いもない。わしに出来たことといえば、おぬしたちの帰還のための条件を整えるくらいじゃ」


 戸惑いが怒りに変わっていく。

 だが駄目だ。怒ってわめき散らしてはいけない。

 世の中には、わめいてもどうにもならないことがある。

 わかる。これは絶対どうにもならないことだ。

 今の状況が如実に物語っている。


「教えろ、どうすればいい」

「ようやくやる気になったか。では、先程の説明の補足といくぞ。おぬしらが異世界転移をするにあたって、わしは現地の神に色々と条件をつけた。細かいのもあるが、大きくは四つ――

一つ、異世界に行ったものは必ず目的が与えられる

二つ、その目的は達成不可能なものであってはならない

三つ、目的を達成したら帰還となる

四つ、失敗した場合一度だけ救済の機会が設けられる

……こんなところじゃ」

「つまり、ここに来たクラスの連中の目的を達成させれば帰れるってことか?」

「うむ、理解が早くて嬉しいぞ。さすが、我が生徒じゃ」


 まるで、自分の教育の賜物みたいな言い方だな。


「そして、この異世界にはおぬしのクラスの人間が一人来ておる」


 …………ん?


「そやつの目的を達成させられれば、晴れて――」

「いや、ちょっとまて」

「何じゃ、話の腰を折るでない」


 こいつ、いま聞き捨てならないことを言ったぞ。


「……クラスメイト全員ここにいるんじゃないのか?」


「異世界は数多にあるのじゃぞ。いろんな異世界に旅立ったに決まっておろう」


「はああああぁぁぁ?」


 俺は冷静さを忘れて絶叫した。


「じゃあアレか?俺はクラスの奴の人数分……二十以上の異世界に行かなきゃならないのかよ!」

「いや、さすがにそれはない。大抵の異世界には、複数人のクラスメイトが行っておる。今回が偶々じゃ」


 それにしたって、何回もやらなきゃならないとか……冗談じゃないぞ。


「それにこれはわしにとっても、想定外の出来事だったのじゃ」

「想定外?一体何がだ?」

「先ほど言った条件をよく思い出してみよ」


 こいつさっきから、何故か答えを相手に考えさせる話し方をするな。

 教師だからか?

 ええと、何だっけな。たしか、目的がある。達成不可能なものがない。目的達成で帰ってくる。救済……は今から俺がやる。

 その上で想定外?

 達成の可能性はあるんだよな。なのに一人も帰ってきていない。


「全員失敗した?」

「そのとうりじゃ。存外、頭が回るのう。うれしい誤算じゃ」


 こいつが言うと、馬鹿にされてるようにしか聞こえないのだが。


「当初の予定では、何人かは自力で帰ってくると考えておったのじゃ。そうすれば、その異世界には行かなくて済むし、帰ってきた奴を連れていくことも出来るしな。それがまさか、一人も帰ってこないなんて思わんかった」

「あんたの見立ての悪さの結果だろ」

「神は失敗などしない。想定外があるだけじゃ」


 物は言いようだな。


「それで誰だよ。不幸なる第一の犠牲者は」

「殺人事件みたいに言うでない」


 似たようなもんじゃないか。


「ここにいるクラスメイトは、小山田晴美じゃ」


「小山田が?一人でか?」

「ああ、他には誰もおらん」


 俺は小山田の顔を思い出す。

 ……大丈夫か?不安でしかない。


「それでどうすれば、小山田を連れ戻せるんだ?」

「小山田に課せられた目的は、『国に蔓延る瘴気を全て祓う』じゃ」

「瘴気……を、祓う?なんだ、それ?」

「うむ、ちゃんと説明する。おぬしが今いるその国はな、土地に瘴気が蔓延り滅びに向かっているのじゃ。なのでその世界の神はそれを浄化することが出来る人材を欲したのじゃ」

「瘴気が蔓延ってる?」


 俺は首をかしげながら周りを見渡す。

 そこは――


「草木は生い茂り、花は乱れてるんだが」


 見渡す限り緑が生い茂っている。

 瘴気というものが何だか知らんが、環境が悪いようには見えないな。

 これで滅びるなら、現代日本はとっくに滅んでいるだろう。


「ふむ、ならば浄化はだいぶ進んでいるのかも知れんのう」

「ここまで綺麗にしたなら、もう帰っていいんじゃねえの?」

「駄目じゃ。契約は『全て』じゃ。該当箇所を全て祓わなければ決して帰ることは出来ん」


 厳しいな。


「そもそも、小山田にお祓いなんて出来たのか?隠れた力でも持ってるとか?」

「いや、違う。おぬしのクラスにそんな能力持っている奴などおらん。この世界の神が、目的を達成できるよう能力を与えたのじゃ」


 そういえば、教室でもそんなこと言ってたな。


「それで、ここからどうすればいいんだ?」

「それはおぬしが自分で考えるのじゃ」


 …………え?


「ちょっと待て!ほぼノーヒントなんだけど!」

「ヒントも何もわしの持ってる情報はこれだけだし、そちらの世界には干渉できん。後は、おぬしの判断で行動せよ」


 嘘だろ、ぶん投げじゃねえか。


「安心せよ、わしも無策でおぬしを送り出したわけではない。先程、神が加護を与えることができると言ったじゃろう。おぬしにもわしの加護を与えておいた」

「マジかよ!じゃあ俺にもすげえ能力が使えたりするのか!」

「無論じゃ。おぬしが今使っているスマートフォン。それを神器にしておいた」


 ……シンキ?


「何それ?ビームでも出せるの?」

「ふふ、もっと良いものじゃ。おぬしのスマホは次元を超えて通話が出来る。つまり、いつでもわしの神託を受けることができ――」


 ブヂッ!


 切れたのは通話か、それとも俺の血管か。

 物言わなくなったスマホをポケットをねじ込む。


「さて、どうすっかな」


 このまま草原に寝っ転がって、目を閉じれは現実に戻れないかな。

 さすがに無理か、どう考えても夢じゃないしな。


「となれば、あそこを目指すしかないか」


 ここは草原のど真ん中だが、遠くに建物の影が見える。

 多分……城だ。

 きっと人もいることだろう。

 そこで情報を得るしかないな。

 もしかしたら小山田もそこにいるかもしれないしな。


「……あれ、いつの間にかスニーカー履いてるよ」


 妙なとこで気が利くな。



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