各々の言い分
「帰って」
「いや、だからさ……」
「はるみん置いて帰って」
「置いていかねーよ。だからちょっと話を――」
「うるさいわね!別にあんたの顔なんて見たくもないのよ!テキトーなこと言いに来るんだったら、別に要らないんだから帰ってよ!」
………………
…………
……
「そんな話は信じられないよ」
「信じられないのはわかるが……」
「いや、わかってないよ。高遠くんは何もわかってない。僕たちがどんな思いで異世界で生活したのか。魔人と戦ってきたのか。少しでも理解していたらそんな話は出てこない」
「お前たちの事情までは知らないが、俺たちにだって都合があるんだ。それを少し汲んでほしい」
「なんでそれを信じてもらえると思ったの?僕たちの言い分は信じないのに」
「それは……」
「話にならないよ。ここはもう帰って」
………………
…………
……
「それは随分と勝手な言い分ではありませんか」
「いや、そうだけどよ……」
「あなたの話は信用足るものがありません」
「証拠はないけどさ。状況的に一考も値しないってわけでもないだろ?」
「それは信頼できる人にのみ通用する話です。ハッキリ言います。あなた方が私にとって信頼できる人であったことなど、過去にも、今にもありません。……お引き取り下さい」
………………
…………
……
以上がクラスメイトとの交渉の顛末である。
◆
「なんだってあいつらは人の話を聞かないんだ?」
そりゃあ、あいつらの気持ちは分かる。
順調に異世界攻略を進めている所に、他所から来た人間が『失敗しますよ』なんて言われても信用ならないだろう。
それだって一考には値するだろ。
別に邪魔をする訳じゃないんだ。
協力ぐらい出来るだろうよ。
……しかしそう思っていたのは俺だけだったようだ。
「ま、こうなるわな」
「『こうなるわな』って、彰は交渉が成功しないってわかってたのか?」
「まあな。俺は……俺たちは良樹とはスタンスが違うからな。なんとなくこうなると思ってたよ」
「どうして!」
「だってよ、あいつらはお前の言うことを聞く必要がないんだぜ」
……え?
「必要が……必要がないって……妥当性があれば話ぐらい聞くだろ?」
「妥当性なんてないだろ。証拠なんてないんだし」
「そう……だけどよ」
「そうなれば後はあいつらの善性に期待するしかない。お前もそれを当てにしてたんだろ?」
「まあ、そうだな」
「そもそもそれが間違いなんだよ」
間違い?
だってあいつらは別に悪い奴らじゃないだろ。
今日話した時だって大きく変わった感じもしなかった。
一体何が間違いって言うんだ?
「いいか?――強い奴は人の言うことなんて聞く必要がないんだよ」
その言葉にドキリとした。
『そんなことない』、即座にそう思った。
だが違う。それは願望だ。本当はそうじゃない。
『そんなことあってはならない』……これが本音だ。
「勘違いするなよ。俺はあいつらが力に溺れて性格が変わっちまったとか思っているわけじゃない。あいつらは変わらず善人さ。きっと前の世界の常識だって失っていない」
「ただ、自分たちが強いことも知っている。大抵のことは力で解決できるほどにな」
「だからあいつらはこう思っているんだ。『どうせ正しいことをするなら力でねじ伏せた後すればいい』ってね」
「そしてそれは俺たちもそうさ。俺も茂松も……小山田ちゃんだってそう思っている筈だ」
思わず俺は小山田の方を見た。
すると小山田は彰の言葉にうつむく様子を見せた。
「そうなのか小山田?」
「……うん」
そしてポツポツと語り出す。
「私もね、浄化の旅をしてたとき同じようなことがあった。浄化の為にたどり着いた町で別の方法をとるべきだと意見されたことがあったの」
「そのときはどうしたんだ?」
「……無視したの」
その言葉に驚く。
それは小山田が一番取らなさそうな行動だったから。
「……どうして」
「だってわかっていたから。絶対に自分の方が上手く出来るって。自分より上手く出来る人なんていないって……そう思っていたから碌に相手の話も聞かなかった」
「……」
「それと同じさ。あいつらが俺たちの話なんて聞く筈がない。相手に合わせる必要がないんだ。自分たちの良識と常識に従えばいいんだ。相手が間違っていると感じたら、力でねじ伏せたあと『正しかった』と言えばいいんだからな。そして重要なのはここからだ。良樹は今、この考えを『おかしい』と……『間違ってる』と思ってるだろ。でもそうじゃない。これは普通なんだ。この考えがまかり通らないのは俺たちが元いた世界だけなんだよ」
小山田の話は現状を極めてわかりやすく説明した例え話であった。
小山田に意見をした人はきっと自分が正しいと思って意見したのだろう。
何なら小山田を想っての行動だったのかもしれない。
だが小山田はそれを検討することもなく取り下げた。
その理由は俺も分かる。
だって小山田以上の浄化能力を持った人間なんて存在するはずがない。
それなのに何故二番目以下の方法を考慮に入れなくてはならないのか。
そう考えるのが当然だ。
そして黙らせる方法は簡単である。
さっさと浄化してしまえばいい。
結果を出せばもう黙るしかないからだ。
――そして何よりも、間違っていない。
「あいつらは今日この時まで異世界攻略をしてきた。その間にいろんな選択をしてきただろうよ。そこで何が出来るか、何をしていいかを学んだはずだ。その積み重ねが今だ。それに対して良樹は今と未来しか見ていない」
あいつらを……見ていない……
「あいつらからしてみれば今までの行動を否定されたようなもんだ、聞き入れるわけがねえよ」
「……」
目の前の現実に絶句してしまう。
断られるのが当然だとは思わなかった。
だが、言われて気がついた。
確かに甘えてたのかもしれない。
何故なら俺のプランは相手が快く応じてくれることを前提としていたからだ。
親切丁寧にお願いすれば相手は応えてくれる。
交渉の擦り合わせによって妥協点を導き出す。
それらは全部、相手がこちらの話を鵜呑みにしてくれると思っていたからこそ出てきた考えだった。
「振り出しか」
「というか、まだ一歩も進んでねえよ」
「……そうだな」
「どうするんだ?」
どうする……か。
「そんなポンポンとアイディアなんて思い付かないな」
「……」
「悪いが今日の所は休むわ」
そう言って席を立ち、部屋に戻ることにする。
また一から考え直さなきゃな。
◆
「大丈夫かな高遠くん」
高遠を見送った後もテーブルに残った三人。
この中の一人である小山田が心配そうに呟く。
「良樹はああ見えて甘いところがあるからな。普段ならいいんだが、異世界やってくには向いてねえ」
椅子の背もたれに体を預けながら、高遠の評価を下す新里。
「異世界じゃ、現代日本と常識が違う。それに引っ張られているようじゃ、この先はやっていけない――」
「違うな」
突然しゃべりだした赤城に二人が驚く。
「間違ってるのはお前だ、彰」
「……何?」
赤城の言葉に、新里は不機嫌さをあらわにする。
「俺の何が間違ってるって言うんだよ。さっきの俺の言葉に何一つ間違えはねえだろ」
「この異世界サルベージ、お前に解決案はあるのか?」
「ああ?最悪俺が魔人を倒せば解決するだろ」
「甘いよ」
赤城はその言葉を即座に否定する。
それは言葉を吟味してのものではない。
新里ではサルベージそのものが出来ない。
そんなニュアンスだった。
「俺が魔人を倒せないってのか?あの程度なら造作もねえ」
「そういう次元でしか物事が考えられない時点で俺たちには適性がないんだよ」
「適正だと?」
「忘れたのか?」
「何が!」
「俺たちは失敗したんだよ」
「!!」
「俺たちもここにいるクラスメイトも自分が正しいと考えている。だがそれは所詮失敗した奴の考えだ。そしてその原因に理解が及んでいない。今になって尚だ」
「……」
「そしてそれは俺たちが物事を能力の有無でしか判断していないからだ。各々の成功体験が判断を曇らせているんだよ。違うか?」
「それは……」
心当たりを突かれ、新里が言葉に詰まる。
異世界に行った者たちは皆偉業を達成してきた。
それは困難な道筋であっただろう。
だからこそ、自分の行動に自信を持っている。
だが困難なのは道を進むことであって道を探すことではなかった。
異世界で目的を果たすというならやることは明白だ。
与えられた能力を活かし、伸ばすこと。
それだけである。
「俺たちの異世界攻略と良樹の異世界サルベージではやってることが全く違う。同列では語れないし、その先に正解があるとも限らない」
異世界に行った者たちは道の上にある困難を乗り越えることが正解だと思っている。
だが高遠は違う、道そのものが間違っていると考えているのだ。
「よく思い出せ。俺たちは良樹が来たから異世界から帰ってこれたんだ。良樹がいなければ自分の道を信じて、異世界で終わりを迎えていたはずだ」
「そう……だな」
新里がバツが悪そうに答える。
「すこしはしゃぎ過ぎたのかもしれないな」
「それで、赤城くんは私たちはどうすればいいと思っているの?」
「決まっている」
赤城は静かに、力強く宣言する。
「良樹の邪魔を排除する……それだけだ」
「……」
「……」
それを聞いた二人は、物騒だ……なんて言わない。
何故なら理解したからだ。
この世界での自分の役割がこれであると。
◆
次の日。
「……」
「よお」
ここは成宮の住んでいる屋敷。
玄関から顔を出した成宮に対して、新里が気軽に挨拶をする。
「またいらしたのですか」
「安心しな。今日は説得しに来たわけじゃない。暇だから来ただけだ」
「暇なら元の世界に帰ったらどうですか?」
「それは出来ねえんだよ。お前らだってそうだろ?」
「そう……ですね」
成宮は返答しながら新里たちを見渡して、一人足りないことに気が付く。
ここにいるのは、新里、赤城、小山田だけである。
つまり――
「高遠さんはどうされたのです?今日はいらっしゃらないのですか?」
「ああ、あいつは一人でクラスメイトに話を聞きに行ってる。だから暇になった俺たちは、比較的近いここに来たんだ」
「お一人で向かわれたのですか?何故?」
「俺らが行くと喧嘩になるから駄目なんだとよ」
「喧嘩って……え?それじゃあ、相手はまさか――」
◆
俺の目の前には、苦々しい顔をした石田がいる。
だがそんなの気にしてられないので、気軽に声を掛けた。
「よう石田。話を聞きに来たぜ。……中に入れな」
「……高遠」




