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良い旅を


「…………はぁ?」


 目の前の先生がいきなり変なこと言い出した。

 どこ行ったって?異世界?異世界って言った?

 ……ていうかそもそも異世界って何?


「ついに、頭まで幼児化しちまったのか?」

「わしは子供ではない!」


 どっから見ても子供じゃねえか。

 ロリババアなんて今時流行んねえぜ。


「わしは教師じゃろ?もっと敬われてもいいと思うんじゃが」

「俺の知ってる教師って奴はな、教壇であぐらかいたりしないんだよ」


 当然のことです。


「とりあえず座るのじゃ」


 気を取り直した先生が、俺に着席の指示を出す。

 俺は素直に従い、一番前の席の机の上に腰かける。

 現状を把握しないと、動きようがないからな。

 さて、次は何を言い出すか。

 ギャグにしても、もうちょっとマシなのを期待しよう。


「わしは神じゃ」


 駄目だ、こいつのギャグセンスは幼児以下だ。

 しかし何でいきなりこんなことを。

 そういえば教師って職業は大変だって聞いたことあるな。


「カミサマ……あんた、疲れてるんだよ。ゆっくり休んで、また学校来いよ」

「わしはノイローゼじゃない!」


 正常なら、それはそれで問題だがな。

 それに、この『のじゃ』言葉も何とかなんねえかな。


「おぬしが茶々を入れるから、全然話が進まんじゃないか」


 茶々をいれたつもりはないんだけどな。


「わかったわかった。とりあえず、黙って話を聞くよ」

「初めっからそうすれはいいのじゃ。それで、どこまで話したかのう?」

「どこまでも何も、クラスの連中が異世界?に行った話と、お前が神だって話しかしてねえよ」

「そうじゃったな……とは言っても、その二つで説明は全部なんじゃがな」


 そんなわけねえだろ。

 こんな情報で俺にどうしろっていうんだよ。


「ふむ。まあ、そこのところ詳しく話すとするか」


 また突飛なことを言いそうだが、このままじゃ皆がどこで何してるかもわからないからな。

 一通り話を聞くことにするか。


「世界は一つではない。こことは違う次元に数多の世界が存在する」

「別の……世界?」

「即ち異世界。そこではこことは違う常識、法則、文化、種族が存在しているのじゃ」

「ふうん?」

「しかし、異世界では時々自分の世界では解決できない問題が発生することがある。その時に他の世界の人間を招き入れることによって解決を図る……手段があるのじゃ」

「それは?」

「それが異世界転生……または異世界転移と呼んでおる。そして呼ばれた人間はその世界の神によって加護を与えられ、その力で異世界で敵と戦ったり、元いた世界の知識で問題を解決したりする」

「なんでわざわざ他の世界から持ってくるんだよ。加護とやらを自由に付与できるなら、自分の世界の住民に与えてやればいいだろ?知識だって同じじゃん」

「理由はその世界によって様々じゃ。例えば、自分の世界の人間にチートを与えると世界のバランスが乱れると考える神もいるし、娯楽のために呼ぶ神もいる。何なら理由もない時だってある」


 よくわかんねえな。


「そしてその異世界転移におぬしのクラスメイトが全員選ばれることになったのじゃ」

「へえー」


 何とも壮大な設定だ。


「で、何で俺は除外されてるわけ?」

「ふう、やっとこの話が出来るのう」


 先生はやれやれといった感じで話を続ける。


「さて、答えを返す前で悪いが質問じゃ。おぬしが異世界転移したらどう思う?」

「え?嫌だよ」

「それは何故じゃ?」


 ふむ。

 俺は真面目に考える。

 だが、答えなんて考えるまでもなかった。


「帰れなくなったらどうするんだよ」

「それじゃ!まさにそれが答えじゃ!」

「……?どれだよ?」

「おぬしのクラスの者は異世界にいってもうた。しかし、帰れなくなったら困るとわしは考えた。そして思いついた、初めから異世界転移者を帰還させるための人材を残せばいいのだと」

「それが、俺……と」


 おお、なんかそれっぽくなってきたな。


「なんで俺を救出要員に選んだんだ?」

「クジで決めたのじゃ」


 一気に適当になったな。


「しかし、これでわかったろう」

「ああ」


「おぬしはこれから、異世界に行ったきり帰ってこないクラスメイトを救いに行ってくるのじゃ」


 成程な。これで全部解決したぜ。

 何故クラスメイトが教室にいないのか。

 異世界か、異世界に行ってるんじゃしょうがねえな。

 よし――


「じゃ、俺帰るから」

「何でじゃ!」


 とりあえず茂松にでも連絡するか。

 休みだったらそのまま遊びでも行くとしよう。

 俺は机から降りて、出口に向かう。

 しかし――


「ふう、仕方ないのう」


 ――後ろから先生の声が聞こえてきた。

 次の瞬間――


 ――足元に突如魔法陣が現れた。


「……は?」


 そして、俺の身体が魔法陣にどんどん飲み込まれていく!


「は……?え?な……?ええ!!」


 俺は突然の事態に、完全にパニックになっていた。

 すでに胸のあたりまで飲み込まれた俺は先生に振り返る。


「ちょ!先生!なにこれ!助けっ!」


 だが先生は教壇の上から微動だにせず俺を見送る。

 そして一言、言い放った。


「良い旅を。高遠良樹」


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