なに言ってんだこいつ
ピピピ!ピピピ!ピピピ!
目覚ましが鳴り響き、完全睡眠状態からまどろみに移行する。
このまま二度寝してしまおうか迷うが、二度寝をした場合妹が起こしに来てしまうだろう。
高校生にもなって妹に起こされるのは避けたい。
独力で布団をはね除けるのは不可能と判断した俺は、ベッドから地面に落下することで天国から脱出した。
「……いてぇ」
落下の痛みがいい目覚ましになるが、毎回この起き方は嫌すぎる。
身体を伸ばしつつ、現代人の習慣としてスマホを起動する。
10月6日 AM7:05
何の代わりばえもない朝だ。
俺はいつもどおり制服に着替えて一階に降りる。
「あ、お兄ちゃん起きてきた」
リビングに入ると妹が出迎えてくれる。
「おはよ」
俺は短く妹に朝の挨拶をする。
「おはようお兄ちゃん。最近は自分で起きてくるからつまんないよ」
「人を叩き起こして何が楽しいんだ?」
そのまま冷蔵庫を開けて、牛乳を取り出す。
「あんた、朝ごはんは?」
母さんが朝食の準備をするか聞いてきた。
「いらね」
俺が短く返すと、母さんはため息をつく。
「ちゃんと食べないと大きくなれないよ」
「もう、十分だろうが」
妹が苦言を呈してくるが、聞く耳はもたない。
父さんは……もう出社したか。
相変わらず早いな。頭が下がるぜ。
牛乳を飲みながら、テレビを見る。
すると、画面上ではアイドルの不倫報道がされていた。
……マジ下らねえ。
「そういえば、昨日お兄ちゃんゲームセンターにいたよね?一緒にいた人は彼女?」
ゲーセンにいたとこを見られたのか。
一緒にいた……女?小山田か?
「そんなわけあるか。クラスメイトだよ」
「そーなの?ふーん、つまんないの」
「つまんなきゃ自分で作ればいいだろ?」
俺は妹を煽ったが、返事をしたのは別の人物だった。
「アキにはまだ早いわよ」
自分と妹の分の朝食を持ってきた母さんが会話に加わる。
どうなんだろ?中学で早いってことはないと思うが。
しかもそのまま、標的が俺に変わってしまった。
「あんたも遊んでばっかりいないで、たまには勉強もしなさいよね」
「はいはい」
適当に返事をして、牛乳を一口飲む。
……本当に代わりばえなんて、ない。
◆
十月だというのに外はまだ暑かった。
衣替えをしてみたものの、まだ早かったかもしれない。
まあ、しなかったらしなかっで一人だけ浮いてしまうので、どちらにせよ冬服に替えたんだがな。
バックを肩に掛けて登校する。
学生カバンはカッコ悪いので、もっぱら使っていない。
学校までは徒歩で二十分。かなり近いところにある。
距離で選んだようなもんだしな。
学校が近くなってくると、登校者が増えてくる。
だが――
「……?」
――何だ?何かおかしい。
俺は周りを見渡すが、通学路に変わったところはない。
じゃあ、一体何がおかしいんだと思ったら、簡単に答えにたどり着いた。
「今日クラスメイト、誰も見てねえ」
いつもなら、登校時間の近い結美性辺りを見かけるんだがな。
そうでなくとも誰かしら見かけるものだが、珍しく誰とも会わない。
「……ま、そのうち誰か会うだろ」
そういうこともあるさ、気にするほどのことじゃない。
◆
「マジで一人も会わなかった」
学校までたどり着いたが、結局誰とも会わなかった。
こんな事初めてだから気になってしまう。
ふと校舎を見てみると先生が花壇に水をあげていた。
先生なら何か知ってるかもしれないな。
……俺の勘違いの可能性もあるが。
「桐生先生。おはよーっす」
「あら高遠くん。おはよ――――ああっ!!」
先生は振り返った拍子に、水を花壇にぶちまけていた。
相変わらずドジすぎやしないかこの先生。
「あー、いきなり声かけてごめんな先生」
「いいの……先生のミスだから……」
いかん、場が暗くなってしまった。
早く質問をしなければ。
「あのさ先生。俺のクラスの連中見なかった?」
「え?そういえば見てないわね」
先生は疑問符を浮かべていたが、その瞳が暗く濁っていく。
「遂に学校の皆にも避けられちゃったのかな……」
「アンタの考えは突飛なんだよ」
やめろ!これ以上場を暗くするのはやめろ!
「じゃあ俺は行くから。教室に行けば流石に誰かいるだろうし」
「うん……またね……」
俺は先生と別れ教室へと向かった。
「花壇……大丈夫かな……?」
知らん。
◆
下駄箱に着いたが誰もいない。
何だろ?何かあったっけな?
疑問を覚えながら俺のクラスである1-Cに向かった。
ちなみに、うちの学校では一年が一階、二年が二階、三年が三階だ。
これは学校としてはかなり珍しいらしい。
別の学校の奴に聞くと、大抵は一年が三階まで上がり、三年が一階で楽をするシステムだと言っていた。
中学でもそうだった。……たまたまかもしれないがな。
そうこうしているうちに教室にたどり着く。
そして違和感を感じながらも、教室のドアを開ける。
そこには――
――誰もいなかった。
「…………」
俺は一度ドアを閉め、隣のクラスを確認する。
しかし、隣のクラスは普通に人がいた。
何の変哲もない、朝の時間を過ごしている。
うちのクラスとの対比が、異様だ。
……一限目移動教室だったっけな?でも、HRあるしな。
とりあえず、自分の教室に入っていく。
そして、教壇まで進んで唯一いた人間に話し掛けることにする。
そう、いるのだ。
誰もいないと言っていたのは、クラスメイトの話だ。
そいつは初めからいた。
教壇の上にあぐらをかいて座っている人物。
見た目は完全に子供。
そいつは――
「……」
「先生、これどうなってんの?何で誰もいねえわけ?」
俺のクラスの担任、神代最上だ。
なんとこの女、子供みたいな容姿をしているが、歴とした担任教師なのである。
先生は俺のほうに視線を向けるとゆっくり答えた。
「ふむ、実はじゃな……」
「お前以外のクラスメイトはな、異世界に行ってしまったのじゃ」
……何言ってんだこいつ。