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プロローグ


「高遠くん!貴方、今日当番でしょ!何帰ろうとしてるの!」


 HRが終わり、教室を脱出しようとした所を、委員長に呼び止められる。

 ちっ、見付かったか。


「……忘れてねえよ委員長。今向かう所だったんだ」

「嘘おっしゃい。今、舌打ちしてたじゃない」


 怒りながら俺の前にやってきたのは、七瀬瑞希(ななせみずき)

 眼鏡におさげという完璧な委員長スタイルを体現している、このクラスの委員長オブ委員長だ。

 何かにつけてすぐ小言を言ってくる、お節介タイプでもある。


「あーでもなー、こんな仕事一人でやるのは大変だなー」


 しかし、今はそのお節介を逆手に取る!


「……はぁ、私も手伝ってあげるから。さっさと済ませてちょうだい」

「さすが委員長!うちの委員長は世界一だぜ!」

「世界一の委員長って何よ……」


 当番の仕事を始めようとすると、二人の人物が近づいて来た。


「良樹、まだ帰んねえの?ゲーセン閉まっちまうぜ」

「……」


 お前はさっきの話聞いてないのか?……ていうかゲーセンがそんなに早く閉まるかよ。

 近づい来た二人はよくつるむ友達である。

 おちゃらけてるのが新里彰(にっさとあきら)、何も言わないのが赤城茂松(あかぎしげまつ)

 ……いや、丁度いい。巻き込んでやろう。


「当番の仕事だからちょっと待っとけ。いや、何なら手伝ってくれれば早く終わるわ」

「じゃあ、先いってるから」


 このやろう。

 手伝いは期待できなさそうだ。

 こうなれば、委員長だけでも逃がさないようにしなければ。

 そう思い委員長に視線を向けると、何やら険しい顔をして遠くの方を見ている。

 何事かと思い、俺もそちらに視線を向ける。

 そこには――


「おい坂田。おもしろそうなゲームやってるじゃねえか」

「……」

「随分金があるんだな、俺らにも恵んでくれよ」


 このクラスの不良三人組が一人の生徒を囲んでいた。


「……なんで俺が」


 小太りな男子。坂田誠次(さかたせいじ)がボソボソと抗議の声を上げる。


「ああ!?聞こえねーっしょ!」


 先に声をかけた不良が石田洋一(いしだよういち)三人組のリーダーだ。

 そして次に恫喝したのは美作薫(みまさかかおる)

 何もしゃべらず威圧しているのが臼井健太(うすいけんた)

 三人組は、ゲームをやっている坂田から金を強請っている。

 いわゆるカツアゲだ。


「あの人たちは……!」


 委員長が注意しようとその中に入って行こうとする。

 ……いやいや、さすがにそれは不味い。

 俺は咄嗟に委員長を制止した。


「ちょっと待て。お前があそこに割り込むのは良くない」

「止めないで高遠くん。ああいう人にはちゃんと言わないと気が済まないの」

「お前が行ったら角が立つんだよ。……俺が行くからちょっと待っとけ」

「……貴方が?」


 委員長は胡散臭そうな物を見る目で俺を見ている。

 何だよその顔は、俺が注意一つ出来ない人間に見えるのかよ。


「まあ、ここは俺に任せとけって」


 そう言って、四人の方に向かっていく。

 ……とは言ったものの、どうしたものか。

 とりあえず一言文句を言えばいいか。

 よし――


「三人で囲んでカツアゲとはマジだせえよな!不良の程度が知れるんじゃね、石田!」


 よし!完璧だ!

 ……遠くで委員長が頭を抱えている気がするが、気のせいだろう。


「あぁ?」


 石田が低い声を出して振り返る。

 そして、側にあった机を蹴り飛ばしてこちらに近づいてきた。


「なんだテメー!ケンカ売ってんのかコラァ!」


 喧嘩?売ってねーよ。……売ってないが。


「だったら、何だってんだよ」


 石田と至近距離でにらみ合う。

 喧嘩をする気はないが、こういうときは目をそらした方が敗けだ。


「よーちゃん、生意気だねこいつ。やっちゃう?やっちゃう?」

「……またお前か」


 美作と臼井が石田に加勢する。

 美作か……厄介なんだよな、こいつ。

 石田と臼井はまだ理性がある奴だ。

 だが、美作は頭のネジが飛んいでる。しかもクズだし。

 いやそもそも、三対一は不味くね。

 すると茂松が、いつの間にか俺の横に並んでいた。

 加勢に来てくれたんだな。助かったぜ。

 そして一言。


「殺すぞ」


 …………物騒すぎませんか茂松さん。

 そして、茂松を盾にした彰も強気に文句を言う。


「お、お前ら!うちの最強茂松さんが本気出せば瞬殺なんだからな!あ、謝るなら今のうちだぞ!」


 カッコ悪りい!

 ……あれ、ヤバくね。

 加勢に来てくれたのは有り難いけど、一触即発じゃん。

 にらみ合いながら、誰か何とかしてくれないかなと考えていたら。


「やめないか!」


 来た!その誰かが来た!

 皆がそっちを見る。

 俺たちを止めに入ったのは、内海光一(うつみこういち)であった。

 石田は舌打ちをし、俺は安堵の息を漏らした。

 この反応も仕方ない。

 内海はこのクラスにおいてリーダー的存在で、学校内外に顔の利く人間である。

 しかも、イケメンで正義感が強く、運動神経もよく金持ち。

 まさに、非の打ち所の無い完璧超人なのだ。


「クラス内で騒ぎ立てるなんて何事だ!それに石田君!君の行為は僕の正しさから反する!」

「ちっ、しらけたぜ。いくぞ」


 そういい放つと、石田たちはその場を後にする。

 ……危ない所だった。


「助かったぜ内海。ガチで喧嘩なんて冗談じゃなかったからな」

「高遠くん……君の正義感には感銘を受けるが、君の行動にはあまり賛同出来ないな」

「いやだから、喧嘩する気ないって」


 俺が必死に弁明していると、内海は今度は坂田の方に苦言を呈した。


「坂田君。君も君さ。やられたくないなら、それ相応の態度をとらないといけないよ」


 ……内海こういうとこあるからな。

 いや、間違ってはないんだが。

 坂田はその説教に対して、


「うるせえ、クソが……」


 と、ボソリと呟いて逃げるように去っていった。


「全く、仕方ないな」


 内海はやれやれといった感じで坂田を見送る。


「大丈夫高遠くん?あまり無茶しちゃ駄目だよ」


 後ろから一人の女の子が、こちらを心配して声をかけてきた。

 彼女は尼崎美鈴(あまざきみすず)。クラスではアイドル的存在だ。

 内海とは幼なじみらしく、よく一緒にいる。

 噂では付き合ってると聞くが、本当の所はわからない。


「だから無茶では……いや、もういいや」


 弁解を諦めた俺は降参のポーズをとる。

 すると今度は委員長がこっちに歩いてきた。

 目的は果たしたんた、称賛の言葉くらいくれるだろう。


「どうよ、委員長。何とかなっただろ」

「貴方に任せた私が馬鹿だったわ」


 ……解せぬ。




「イヤッホオオォォ!!俺TUEEEEぜ!!」


 委員長の説教を食らったあと、ゲーセンにて二人と合流する。

 そこでは、ガンシューティングゲームを嗜んでいる彰の姿があった。

 銃を二つ使っての、いわゆる二丁拳銃スタイルだ。

 ……それ、お金が倍かかるんじゃねえの?

 しかも、いちいちポーズをキメながらプレイしている。

 見ている俺が恥ずかしい。

 俺は知らない人を装って傍にいた茂松に話し掛ける。


「他人の振りしなくて大丈夫か?」

「振りも何も他人だ」


 ……冷たいっすね、茂松さん。

 茂松と話していると、ゲームを終えた彰が向かってくる。


「お、やっと解放されたのか良樹。今回も長かったな」

「全くだよ、俺が何したっていうんだよな」

「いや、委員長ちゃんの説教もごもっともだろ」


 納得いかねえ。


「あー!三バカじゃん!」


 三人で駄弁ってると、横合いから失礼な言葉をかけられた。

 何だよ三バカって。現実で初めて聞いたわ。

 振り返ると、三人の女子がそこにはいた。

 俺たちを馬鹿呼ばわりしたこいつはスポーツ少女浜岡深雪(はまおかみゆき)


「こんにちは、貴方たちも来てたのね」


 ハキハキとした態度のこいつが多部小百合(たべさゆり)

 そして――


「こ、こんにちは……高遠くん」


 おずおずと話し掛けてきたのが小山田晴美(おやまだはるみ)だ。


「ゲーセンにくるなんて珍しいな小山田」

「うん、二人に誘われたの」


 小山田とは席が隣だからそこそこ親しい。


「せっかくだから一緒に遊びましょうよ」

「ハイハーイ!私アレやりたい!ホッケーの奴!」


 浜岡が元気に騒ぎ立てる。

 エアホッケーか、腕がなるぜ……


「仕方ない……俺が……」

「アンタ駄目」


 ……何でだよ!


「赤城!行くわよ!」

「断る」

「断るんじゃないの!いいから行くよ!」


 そう言うと、浜岡は茂松を引きずっていった。


「私は対戦格闘ゲームがいいわね。……新里。あんたでいいわ」

「ふっ、俺に挑むとは、ずいぶん度胸あるじゃないか。負けた後『きゃー新里さんステキ!』ってなっても知らねえぜ」

「あんたがモテない理由がよくわかるわ」


 わけのわからないことを言いながら、多部と彰も行ってしまった。

 ……俺と小山田だけが残されてしまう。


「とりあえず行くか」

「う、うん」


 一緒に並ぶと小山田はとても小さく感じる。

 高校生には……見えないな。

 小学生……いや、やめておこう。

 しばらくゲーセンを巡回してると、大きなポニーテールが特徴の見知った女に出くわした。


「あれ、篠崎じゃん」


 一匹狼系ヤンキー女子。篠崎夕陽(しのざきゆうひ)であった。


「……高遠かよ」

「何だお前もいたのか、一緒に遊ぶか?」

「冗談じゃない。同じクラスだからってアタシに馴れ馴れしく話し掛けるんじゃないよ」


 そう言って、篠崎はさっさとどこか行ってしまった。

 ……さすが、一匹狼。にべもない。


 篠崎と別れた後、気が付いたら小山田が隣にいないことに気が付く。

 振り返ってみると、クレーンゲームの景品を見ているようだ。


「どうした?」

「う、ううん。何だもないよ……」


 ……いや、何でもなくはないだろ。

 これが欲しいのだろう。

 小山田との付き合いは長いわけじやないが、性格は大体わかっている。

 言いたいことを言えないタイプの人間だ。

 しかも好きなこと、本当にやりたいことは、とっさに断ってしまう癖がある。

 難儀だなと思うが、仕方ない。人間だもの。

 それにそれを好む人間だっている。

 まあ、今回は俺が気を使ってやるか。


「ゲーセン来て何もやらないのも何だし、これでもやるか」

「……え」


 おもむろにクレーンゲームに百円玉を投入して、レバーを操作する。

 小山田の見てたのはこれか?……一発で取れるか?

 クレーンがキーホルダーを掴んだ……と思ったらその場に落ちた。


「……もう一回だ」

「あ、あの、高遠くん?」


 一回目で要領は掴んだ。

 クレーンは狙いどうりにキーホルダーを掴み、景品排出口まで運んだ。


「どうよ、この腕前」

「うん、凄く上手なんだね」


 俺は取り出した景品を小山田に渡す。


「ほれ、やるよ」

「……あっ」

「クレーンゲームは取るまでが面白いんであって、中身はさほど興味はないんだよな」


 これは本当の話だ。

 小山田はしばらく驚いて動かなかったが、はにかんだ笑顔を見せる。


「ありがとう高遠くん。大切にするね」

「クレーンゲームの景品を大切にするなんて、勘弁してくれ」


 小山田は景品を受け取ってもじもじしていたが、


「あ、あの!」


 意を決してこちらに話しかけてくる。


「えっと、高遠くん……連絡先を教えてもらって……いいかな?」

「ん、いいぜ」


 なんだ、連絡先を知りたかったのか。

 それくらいなら全然余裕だぜ。


「よかったら連絡してね、高遠くん」

「……ま、たまにな」


 彰たちと合流すると、対戦が終わってるところだった。


「やるじゃねえか多部。ここまで俺とやりあえるとはな」

「あんたこそ、結構な腕前じゃない」

「何かゲームやってんのか?」

「もちろ……い、いや、やってないわよ!徹夜でゲームなんてやってないわよ!」

「……廃ゲーマーじゃねえか」


 思わず突っ込む。

 それに対して多部はギロリと睨んできたが、小山田を見て矛を収めた。

 そのまま、女子同士でおしゃべりを開始する。

 手持ち無沙汰になった俺に、彰が話し掛けてきた。


「……もしかして俺、脈あるんかな?」

「いや、ないだろ。雀宮(すずめのみや)がいるし」

「……だよなぁ」


 雀宮はクラスメイトの男子だ。

 授業中は全部寝るという離れ業をやってのける猛者である。

 そして、何故か多部と仲がいい。

 接点などまるで見えないのにな。

 小山田と話していた多部が俺に話しかけてきた。


「高遠くん、貴方のことを見直したわ」

「いきなり何だか知らんが、知ってるか?『見直す』って言葉は、元々評価が低い相手に使う言葉だぜ」

「正しい用法じゃない」


 俺の周りには失礼な奴しかいないのか?


「小山田。お前は……お前だけは、こんな奴らになっちゃいけないからな」

「あははは……」


 小山田は苦笑いをしている。


「じゃあ、そろそろ暗くなってきたから解散といこうぜ」


 彰が号令をかける。


「そうだね、じゃ!バイバイ!」

「またね」


 俺たちはゲーセン前で別れる。

 最後に小山田が俺にあいさつしてきた。


「……また、明日ね高遠くん」

「おう、また明日な」


 ――そうして俺たちは、当たり前のように明日会うことを約束して別れた。

 まさかそれが、あれほど困難なことになろうとは今の俺には知るよしもなかった。


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