表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/13

第6話:正論でハゲの髪の毛が生えた試しはねぇ!!

この世界の「人間」は魔族とかも指します

純粋に人間の時は「人族」や「人類」を使います

 えっ……?


 この世界の、ヒーローの少年……いや、

 もはやヒーローだった少年だったものは、

 鼻の上から爆裂して死んだ。

 地面に脳漿と眼球と血液をぶちまけて、

 物言わぬ肉塊へと形を変えた。


 えっ!?  

 な……


「なにしてんすか! 先輩!!」


 意図的に殺した!

 加減を間違えたとか、

 うっかりとか、

 そんなんじゃない!

 

 今のは間違いなく、意図的に殺した!!


 殺意こそなかったが、

 殺意なんかいらないんだからそれは理由にならない!


 どんなにチートな能力を持っていようが、

 どんなに飛躍的な魔法を使えようが、

 たかが十数年しか生きていない人族のこどもが、

 数百億年……下手すると、

 数兆年の時を生きる魔族に敵うわけがない!

 それは自明の理ってやつだ。

 ましてや、能力値ステータスが絶対の世界であればなおのことだ。


 だから、

 俺たちは誰かを殺すのに殺意はいらないんだ。

 虫けらを意図せず踏み潰す。

 俺たちはそのぐらいの気持ちで、

 人族なんか殺せるんだ。


「きゃあああああぁがブッ!?」


 目の前の出来事にやっと理解が追いついた女の子が叫ぶが、

 先輩が女の子の頬をはたくと女の子の顔は一瞬でチリと消えた。

 首の付け根からしゅしゅーっと、天に向かって血が噴き出る。

 頭をなくした女の子の体は、

 地面に転がってもしばらくびくびくと跳ねていた。


「あーっ、スッキリした!」


 先輩は爽やかな顔で、空に向かって言った。

 憑き物がとれた顔だった。

 快適な睡眠を終えて、気持ちよく起床できた休日って感じだ。


「せ、先輩! な、なにしてんすか!!?」


 俺は再び聞いた。

 これは、会社のルールに反している。


『われわれは、決してヒーローに勝ってはならない』


 という、絶対のルールに!


 処刑されるだけでは済まないだろう。

 ジャッカルさんによって体は分解され、

 その魂は『無限の冥獄』に永久に繋がれてしまうだろう。


 最低でも、この世界の『神』への供物として、

 全ての力を奪われた上で、

 永久に奴隷として酷使されることになる。


「だってよ、おかしいだろ? 俺たち、こんなに強いんだぜ?」

「……?????」


 全く意味がわからない。

 会話がキャッチボールになってない。

 そんなこと今聞いてない!


「ははーん? わかんねぇってツラしてるな」


 わかんねぇよ! 

 なんなんだよ一体!?


「俺たちはよ、たぶんほとんどの世界で最強になれるって話だよ」


 先輩は語り始めた。


「全知全能なんて、俺たちのレベルじゃアタリマエだ。宇宙を作るなんて、能力さえあればハナクソほじりながらでもできる。多元宇宙を滅ぼすなんて、もっと簡単だ。ぐっ! と力を入れて魔力を放出する……それだけで、積み木をつつくみたいに簡単に何もかもをぶっ壊せる」


 俺たちはな、と言う。

 お前には無理だ、と言っているのだ。


「なのによ。顔が悪いとか、キモいとか、性格がブスだとか、デブだとか、チビだとか、デカすぎるとか、ハゲだとか……そんな理由で、俺たちはいつも引き立て役だ。俺たちよりずっとずっと弱っちい、ゴミみてぇな神と、人間たちのな」


 空に浮いた先輩の体から魔力が溢れ出す。

 視覚できるほどに濃いそれは、

 先輩を中心に惑星全土にひろがっていき、

 原住民たちの精神と魂を破壊していく。


 そこらじゅうで奇声が上がった。

 歩いていた妊婦の女性が血涙を流して、

 自分の腹を割れたガラスで突き刺していた。

 100km先の地面に寝転ぶ家のない老人の体が、

 先輩の魔力の奔流に耐えられず破裂していくのがわかる。

 約1億5000万km先にある恒星が魔力に耐えられず潰れはじめている。

 その間にある惑星や小惑星、衛星たちが次々と爆発しているために空がひっきりなしに明るかった。


 あ、今7700万光年先の巨大銀河の位置がズレにズレて、自らの中心に添える巨大な特異点ブラックホールに飲み込まれ始めたな……


「それでもよ、俺はずっと我慢してたんだぜ? ジャッカルやガマ公がいたからな。あいつらは、俺より強いからな。あいつらだけじゃねえ。会社ジャッカルだけで、『薔薇姫ローズィー』や『快天拳王デルゼム』や『天帝妖狐ちよこ』……【天魔十壊層てんまじゅっかいしょう】のこの辺は、俺よりつえぇからなぁ。だから我慢してたんだぜ? けどよ、限界だよ」


 先輩から溢れ出す魔力が大地を裂き、

 空を割る。

 宇宙全体の法則が乱れて、

 惑星は公転周期から外れてしまい、

 重力が方向も力の大きさもめちゃくちゃになってしまっていた。

 この星だけじゃない。

 異常気象が恒星系全土で巻き起こっている。

 足の裏から、この星の地殻マントルが、

 先輩の垂れ流す魔力に耐えられず、

 じわじわと自壊していく様子が伝わってくる。

 ……むしろよく耐えてるなこの星。

 流石は神の息がかかってるだけはある。


「許せねぇよなぁ!? 俺より弱っちい奴が、チヤホヤされんのはなぁ! 俺よりしょうもない奴が、最強って言われてんのはなあ!?」


「だからガマ先輩がいなくなってから行動に移したんすね」


 ぴくり、と先輩の口が止まる。

 

 ……ん? 

 なんか変なこと言ったか、俺?


 だってそうじゃん。

 ガマ先輩に勝てないから、ガマ先輩がいなくなってから暴れた。

 ジャッカルさんと、社長にすぐ捕まるのが嫌だから、会社じゃなくて出先で暴れた。


 要約すると、そう言うことでしょ?


 あれ? 

 なんか間違ってる、俺?

 先輩が思ったよりしょーもないやつだったって感想、

 なんか間違ってる?

    

「てめぇ、知ってるか?」


 ……なんすか?


「正論が世界を救ったことは、どこの世界のどの時代でも、ねぇってことをだ!!!」


 そう言って、先輩は殴りかかってきた。








 ──一撃だ。



 魔力をまとって突っ込んできたので、

 カウンターで殴り返した。


 それで、終わり。


 先輩はだいたい300kmぐらい先にある山頂までぶっ飛んで、たぶんブザマにノびている。

 原型はなんとか残ってると思う。

 ミンチになった感触ではなかったし。


 ……いや、当たり前だろ。

 俺、オーガだぜ?


 鬼人族オーガって、

 魔族の中でも肉体強度で言えば、

 龍族より上の、ぶっちぎりの最強種だもの。


 いや、負ける要素ないよ。

 先輩、ガリヒョロじゃん。

 いやそりゃ、肉弾戦では負けないわ。

 先輩、魔力量は俺より圧倒的に上だけど、

 肉体の強さで言えば圧倒的に下だもの。

 オーガの中でも変異種で、

 誰も近寄らなかった俺に勝てるわけないじゃん。


 むしろ、木っ端微塵にしで殺しちゃうと、

 あとでジャッカルさんとかガマ先輩にこっぴどく怒られると思ったから手加減したし、

 拳にも体にも魔力は一切込めなかった。

 それでも宇宙空間までぶっ飛ばなかっただけ、

 先輩ってめちゃ強かったんだな、うん。


 星もなんとか爆発する前に止められたし、

 ……まぁこの恒星系や銀河系には悪いことをしてしまったが、

 結局、巨大銀河は半分ほど特異点に飲み込まれたみたいだし……

 この惑星の生命体は俺以外全滅しちゃってるし……

 悪いことしたなぁ。

 そこはジャッカルさんに事情を説明して、

 なんとかして貰えば良いか。


 でもたぶん、

 怒られるだろうなぁ、これは。

 始末書じゃ、すまないだろうなぁ。


「はぁ……」


 かませ犬へのデビュー戦がこれとか、

 やっぱ俺って、才能ないのかなぁ?


 さすがに落ち込むわ……


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ